潜在意識
映画館通りの南に面したレストランで食事を取ることにした。直哉が行きつけだといだというその店は、センスのいいアメリカの西部劇に出てくるバーのような雰囲気があった。
佐々木は懐に隠したアーミーナイフに冷たい体温を感じていた。これで直哉を殺害するのはたやすいことだろう。もっと直哉を苦しめたい。苦しんで死ぬ姿が見たい。佐々木の恐怖は直哉を殺害できないことだ。もしそうなったら絶望以上の絶望をこれから先の人生において味わうことがないだろう。直子にも顔向けできない。直子を振り向かせるためにも直哉を殺す。そう思いながら食べたご飯は予想以上に不味かった。
「食事が進んでないな。口に合わなかったか?」
「いや、そんなことないよ。美味しいよ。よくこんな店知っていたな。直哉には敷居が高い店じゃないか。それは言いっこなし」」
「お前にも敷居は高いだろ」と直哉がすかさず佐々木の顔色をうかがう。
どうやら自分は直哉になめられている、と思い当たる節がある。
直哉周辺の仲間はどうひっくり返ってみても佐々が苦手だった。いつもいきっていて底抜けに明るい。人見知りの佐々木には俺のこんな気持ちは分かるまい。と直哉の方を見ると、今からこいつを殺すのか・・・・。緊張と興奮が背中を駆け抜けていく。
新しい自分になるんだ、そう言い聞かせて直哉の顔ををちらちら見る。
驚くほど冷静に、そして厳しくなっていく。レストランを出て近くの公園で缶ジュースを飲みながら二人の将来の話題になった。
「俺は任期終了で退職する。こんなバブル期に、大人しく自衛隊なんかやってやれるかよ」佐々木の気持ちを知らなかった自分が恥ずかしかった。直哉は一生自衛官か?そういう人生もまたそれもそれでいいだろう。
直哉を殺さなければ・・・・。しかしそう思えば思う程、直哉の将来のことを考えてしまう。彼は彼なりに自衛官としての圧力を分解し、それなりに楽しい生活をエンジョイしているのだろう。
直哉の道のりを断ち切ることが自分に出来るのだろうか?佐々木は冷静に自分の思いに必死に追いつこうとしている。祐実とは昨日電話で別れを告げた。高校生の頃から知っている直哉と直子。お似合いのカップルだ。さあ時間は整った。胸に手を当てながらアーミーナイフを感じる。この時佐々木は慎重に深呼吸をして、美味しそうにご飯食べる直哉をめがけてナイフを突き刺す。何回も、何回もそれは気の遠くなるような作業だった。
佐々木はその場で店員に取り押さえられ全てが終わった。時刻は一九三〇。前進あるのみだ。




