クズ
直哉は思案していた。正月休みにパチスロをするかどうか。実家に帰るのはとてもじゃないが気がひける。親への借金もそうとうな額になる。家に帰ったらそれを取り立てようと父は喜んで直哉を迎え入れるだろう。いくら水沢の友達に会いたいからといって、そうやすやすと家には帰れない。ホテルで過ごすか、友達の家に転がり込むかの二者択一しか方法はない。高校の親友だった猪口にも久しく会っていない。今の俺の姿を見たらガッカリするだろうなと、直哉は思わずにはいられなかった。やはり隊に寝泊まりして七日間『オスカー』に通うしか方法はないようだ。
佐々木が夢の中で直哉に暴言を吐いている。それは酷く毒ついていて冬の訪れを告げるように寒い。
「おい。おい。川口起きろ」夢の中で佐々木が直哉に必死に呼びかけている。「佐々木・・・・。なんでここにいる」まだ寝ぼけ眼だ。
「今日からお前も休暇なんだろ。盛岡駅まで送っていくよ。どうせ家には帰らないんだろ?」
「言うに及ばずだ。家には死んでも帰らない」
「直子ちゃんに会わなくていいのか?」佐々木がふざけて喋ると、直哉は急に窪んだ目になって膝を抑えている手に力が入る。
「別れたんだ・・・・。だから別れたんだって」
「嘘つけ。あんないい子と別れたって。いったい何したんだ」
「パチスロの沼にはまったのが大きかったかな」直哉がスロットのボタンを押す真似をする。
「だから菊池士長にも殴られたんだろ。いい加減目を覚ませよ」いつも以上の強い口調に直哉は気後れして「分かってるって。分かっているんだけどやめれないんだ」
「まあいいや。今日は外泊しないんだな。金がないなら部屋で寝ておけばいいよ。じゃあな」と佐々木は直哉の肩をポンと叩いた。俺、友達も無くそうとしている。このまま佐々木にも見放されたら・・・・。
「佐々木。一万円。それだけで一週間過ごせる。必ず返すから」佐々木はこいつと思いながら財布から二万円取り出すと直哉に渡した。
「これで俺とお前の縁は切れたものと思え。これが最後だ」そう言い残して部屋を出ていく佐々木を見て、直哉は財布に二万円をサッと入れる。佐々木が心変わりしないうちに、私服に着替えて事務室に行き外泊の手続きを済ませ、さっさと駐屯地を出てバス停に向かった。その心持ちはスッキリしない十一月の空のようだった。




