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愛の成れ果て  作者: サンダー


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1/12

オスカー

達彦

 時計の針を見ると六時を指していた。十一月の終わりにしては今日はまだ暖かく感じる。大通りの店には明かりが灯り、盛岡の街にも年末恒例のイルミネーションの光が鮮やかに灯っている。

 浜川達彦は街の一角のバーで酒を飲みながら、通りを歩くカップルをボンヤリと眺めていた。直哉のよく鍛えられた体と、均整のとれた顔立ちは周りの目をイヤというほど引いた。隣で同期の佐々木が「もうそろそろ隊にもどったほうがいいかもな。八時から掃除があるわけだし」と興味なさそうに通りを眺めて言う。佐々木もそれなりに鍛えた体が、シャツの上からでも見て取れる。愛きょうのあるその顔は誰からも愛されるであろうことは誰の目にも明らかだった。

 バーの下の階はブティックになっていて女性用の華やかな服が、店内いっぱいに飾られている。「佐々木さー。お前女の子に服とか買ってあげたことある?俺は自衛隊に入隊して一回も買ってあげたことないよ。それどころか女の子と付き合ったこともない」達彦はウイスキーの水割りを飲み干すと、バーテンダーにまた同じものを注文した。まだ二十歳になったばかりだ。

 「なんか今日はやけに酒を飲むな?普段はぜんぜん飲まないのに、酒飲めるなら普段から飲めよ」佐々木が達彦の肩をどついて楽しそうに笑う。

 「佐々木は今日は飲まないのか?」

 「何バカなことを言ってるんだよ。俺は今日は車なんだよ。さっきもお前に言ったよな。もう酔っ払っているのか」そう言って佐々木は楽しそうに笑う。まったく愉快な奴だと思いながら達彦はまた思い出したようにイルミネーションに目を向ける。向かいのスロット店の前で若い女性がタバコを吸いながら顔面蒼白で立っているのを見て、スロットで大負けしたのかなと、達彦はなんとなく見つめていると、女性が突然膝から崩れ落ちるのを見て「おい!佐々木!女の子が『オスカー』の前で倒れているぞ。行ってみよう」達彦はそう言って表に飛び出す。佐々木は慌てて二人分の会計を済ませて達彦の後を追った。ホコ天の道路を横断して達彦が女性の所に来た時には、女性は気を失っているように見えた。

 「おい、大丈夫か?」達彦は躊躇しながら女性を抱えあげると、丁寧に呼びかける。返事がない。むしろ透き通るような透明感が死者を連想させる。

 「浜川。その子大丈夫なのか?」佐々木が『オスカー』の前まで来て、女性の顔をうかがいながら「死んでないよな?」とボソリと言った。

 達彦は女性の頬を軽く二度ほど叩く。すると重い瞼が微かに動いた。

 ジーンズにハイネックセーターを着て、アウターは羽織っていない。達彦が着ていたダウンを彼女の肩に掛ける。女性はビックリしながら静かに起き上がり、アウターを達彦に返すと小さな声で「ありがとう」とだけ言って立ち上がった。「タクシー呼ぼうか?」と達彦が言うと「大丈夫よ。気にしないで」そう言って女性は盛岡駅方面に向かって歩き出した。

 「浜川、彼女大丈夫か?俺の車で送って行った方がいいんじゃないか」

 「深入りしないほうがいいだろう。彼女には彼女なりの事情があるさ」

 達彦はそう言ってダウンを羽織ると「カッコつけてんな。お前らしくもない」佐々木がそう言いながら達彦をからかうと「あんがい誰にもかまって欲しくないものなのかもな」そう言って納得したようだった。

 「佐々木、俺も飲めない酒で酔っ払ったから、隊まで送っていってくれ」そう言って佐々木に抱きつくと「酒臭いなー。掃除はやってもらうからな。それまでに酔いをさませよ」

 「了解」そう言って達彦は佐々木に敬礼すると、二人はケラケラと笑い、夜のしじまに消えていった。


葉子

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