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第5話 血の勝利と、癒やしの光

控室に戻された俺は、壁に背を預けるとそのまま崩れ落ちそうになった。

砂と血で汚れた身体は重く、息を吸うたびに傷が疼く。

肩口を深々と斬られ、胸も腹も何度も打たれたはずだ。

普通なら――いや、俺自身、死んでいてもおかしくなかった。


だが今、こうしてまだ立っている。


周囲から小さなざわめきが起こった。

同じ奴隷剣闘士たちが俺を見ている。

「ラガンを倒した奴か……」

「不死身の……」

畏怖と嫉妬が入り混じった視線。

誰も近づこうとはしない。


そのとき、カーテンの奥からひとりの女性が現れた。

白を基調としたローブを纏い、亜麻色の髪が揺れる。

小麦色の肌、すらりとした体躯。目を奪うほどのスタイルの持ち主だった。


「はーい、今日から担当する治癒士のセリナ・アルマスですっ!」

元気よく自己紹介し、にこっと笑う。


……場の空気と全然合ってない。

他の奴隷たちも、ぽかんと口を開けていた。


「えっと……じゃあ、まずはドーレイさんですね」

俺の前にしゃがみ込むと、傷口に手をかざす。

淡い光がじわりと広がった――が、すぐに彼女が首を傾げた。


「あれ……もう血が止まってる?」

不思議そうに俺の肩を覗き込み、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。


「え、いや、さっき斧で……」

自分でも信じられず口ごもる。


「ふーん……きっと私が来るって思ったから、傷も先に治ろうとしたんですね!」

にこにこ笑って、胸を張るセリナ。


……は?

思わず声に出そうになったが、隣の剣闘士が吹き出して笑いを堪えているのが見えた。


「とにかく!念のためもう少し光を当てておきますね!」

再び魔法を唱え、今度は温かい光が全身を包んだ。

確かに痛みが和らぎ、呼吸が楽になる。


「……助かる」

素直にそう言うと、彼女はまた満面の笑みを見せた。



控室の扉が軋む音。

現れたのはガルマだった。

片目を細め、ゆっくりと俺を見下ろす。


「不死身のドーレイ、か」

低い声が部屋に響く。


「……面白ぇ。まだ死なせるには惜しい」


その言葉に、背筋が冷たくなる。

周囲の奴隷たちが息を呑むのが分かった。


「次はもっと強い相手を用意してやる。……せいぜい客を楽しませろ」

吐き捨てるように言い残し、ガルマは去っていった。



「……次も、戦えってことか」

呟いた声は自分でも震えていた。


だが、観客の大合唱がまだ耳に残っている。

「ドーレイ! ドーレイ!」


あの声が、俺を突き動かしていた。

自由を掴むために――。


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