第4話 血を喰らう剣、不死身の一撃
斧と血剣がぶつかるたび、闘技場が震えた。
ギィンッ、ガァンッ――。
乾いた砂の上に金属音がこだまし、その反響が肺の奥まで響く。
ラガンの額には汗がにじみ、歯ぎしりが聞こえた。
「……チッ! なんだ、その剣は……!? 折れたはずだろうが!」
俺も余裕なんてなかった。
戦いの型なんて知らないはずなのに、
血剣を握ると、筋肉が勝手に動き、身体が自然に斬撃を繰り出す。
そして気のせいか、ラガンの持つ斧の周りの無色の光がより鮮明に見えた。
刃を振るうたび、肩や脇腹の裂けた傷から血が滴り落ちる。
赤い雫は砂に吸われる前に、剣へと吸い込まれていった。
(……これ……俺の血を喰ってる?)
そんな疑問が頭をかすめた瞬間、限界が来た。
「うぉおおおッ!!」
ラガンの大上段。
巨体に似合わぬ速度で振り下ろされた戦斧が、
俺の肩口に深く食い込んだ。
ズブッ。
「……ッがはっ……!」
視界が真っ赤に染まり、膝が砕けそうになる。
胸に衝撃が走り、内臓が揺れ、息が漏れる。
観客席が沸き立つ。
「これで決まりだ!」
「相手はあのラガンだぞ!生きてるほうがおかしい!」
ラガンは次こそ勝利を確信し、斧を振り上げた。
ーーー
その時だった。
ズゥン……!
俺の心臓の鼓動が血剣へと流れ込み、刃が赤黒く脈打った。
肩から流れる血が、まるで意思を持つように剣へ吸収されていく。
剣が肥大化し、色が濃くなる。
痛みは熱になり、熱は力に変わった。
「……まだ、だ……!」
砂に手をつき、ゆっくりと立ち上がる。
観客席がどよめき、怒号とも歓声とも取れない声が飛んだ。
「立った……!?」
「なんで動ける!? 明らかに異常だ!」
ーーー
ラガンの斧が閃いた瞬間、
俺の身体は本能で動いた。
「らぁぁぁぁあああッ!!」
血剣が唸りを上げて振り抜かれる。
ズバァッ!!
斧が真っ二つに割れ、続けてラガンの胸を斬り裂いた。
巨体が揺れ、砂を踏みしめた足が滑る。
それでもラガンは諦めず、地面に手をついて立ち上がろうとする。
「お、俺は……まだ……!」
血泡を吐きながら腕を伸ばす。
だが、赤黒い刃は容赦なく振り下ろされた。
ズシュッ。
胸を深々と貫かれ、ラガンの目から光が消えた。
ドサリ。
二度と動くことはなかった。
ーーー
一瞬の沈黙。
そして爆発。
「倒した……! ラガンを倒したぞ!!」
「奴隷が勝った!? ありえねぇ!!」
「不死身のドーレイだ! 本当に不死身だ!!」
観客が総立ちになり、砂が震えるほどの大歓声が巻き起こる。
杯が宙を舞い、子供が叫び、富裕層ですら顔を紅潮させて絶叫した。
「ドーレイ! ドーレイ!」
「不死身のドーレイ!!」
熱狂の波が何度も押し寄せた。
⸻
(……殺らなきゃ、殺られてた)
血剣を握りしめたまま、俺は肩で息をしながら空を仰いだ。
砂に滴る血が、まだ刃へと吸い込まれているのが見える。
(……これが、俺の力……?)
高揚と恐怖が入り混じる中、観客の声だけが耳に突き刺さった。
「不死身のドーレイ!」
「英雄だ!」
だが――闘技場の奥で腕を組むガルマの笑みは、その熱狂とは別の意味を帯びていた。
(なるほど……面白ぇ。使えるな)
その視線が俺を射抜く。
獲物を見定めるような眼差しに、背筋が冷たくなる。
社畜でも、奴隷でもない。
不死身のドーレイとして、俺はこの檻をぶち壊してやる。
2025/11/23 表現・言い回しの修正




