泣かない子
(1)0歳編
「それにしても、銀……。こんな間近で見るのは初めてだけど、綺麗な色ね」
「はい。綺麗なお色です」
「顔立ちはマリア様にそっくりですね」
「先ほど少し拝見しましたが、瞳の色は青みの強い銀色でしたよ。そちらの色もとても綺麗でした」
私はウトウトしながら、女性たちの話に耳を傾けていた。
どうやら、顔は母、目の色は父に近い銀色のようだ。
最初は、醜い容姿で両親には似ていないのかと思ったが、少しは特徴を引き継いでいるようで嬉しくなった。
「あら、寝そうね。お腹は空いていないのかしら?急に騒がしくなってしまったから遅くなってしまったけど……」
と言って、お乳を飲ませてくれた。
満腹になった私は、溶けるように眠った。
「寝てしまわれましたね。」
「そういえば、全く泣かれませんね。産声以外の鳴き声を聞いておりません」
ベビーベッドへ寝かされ、女性たちは小さな声で呟くように会話をする。
「身体に異常がなければいいのだけど……」
サイモンSide
私はこのイールスハイド王国の筆頭公爵家のカルティール家次期当主のサイモン・フォン・カルティール。
専属執事のギルバートに指示を出し、侍医のモンテール、助産師のパトラ女史と共に、サロンで待っていた家族の元へ急ぐ。
この国では、出産は隣室で父親のみが控え、別室でそれ以外の家族が待つのが一般的。
なので今回の出産も私は、隣室で待機し、産声が聞こえ侍女の案内で妻マリアベルの部屋に入室したわけだが……。
まさかの事態に頭がパニックを起こすと、割と冷静になるのだなと思いつつ、先ほどのことを思い返しながら、サロンへ急ぐ。