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【完結です!】 若きハドスン夫人の冒険 ~如何にして彼女は巨悪の領袖と怪人軍団に赤い火を噴く山で戦いを挑んだか~  作者: 城内仁志


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19/19

終章 若きハドスン夫人の面影

いよいよ最終回!


ep.19(終章)を投下致します。

 19世紀後半、ヴィクトリア朝末期のイギリスに、

シャーロック・ホームズと()う奇妙な男が居た。

世界で初めての、そして当時世界で(ただ)一人の『諮問探偵(しもんたんてい)』として

数々の難事件に挑み、大いに名を()せた男である。


痩身長躯(そうしんちょうく)鷲鼻(わしばな)で角張った顎が目立つ。

何処(どこ)かしらイギリス人らしからぬ、異国情緒(いこくじょうちょ)のある

風貌(ふうぼう)であったと()う。


 冷静沈着で行動力に富み、優れた観察眼と推理力、鋭敏な頭脳を持つが、

私人としては奇矯(ききょう)な振る舞いも目立ち、事件がなく退屈すると、

当時は合法であったものの、阿片(アヘン)やコカイン、モルヒネと()った

薬物への依存があったり、また捜査に於いて犯罪(まが)いの行動を取る事も

屡々(しばしば)で、スコットランドヤードの実直な警部として知られる

レストレード氏に釘を刺されたりもしている。

薬物に手を出すのは後述する彼の親友が何年もかけて止めさせたが、

煙草(たばこ)を好み、かなりのヘビースモーカーでもあった。

若い頃はこう()った好事家(ディレッタント)めいた退廃的(たいはいてき)な生活態度が目に付いた。

一般に伝えられる、野山や草木に親しむ保守的・模範的な英国紳士然とした

彼の振る舞いは実の処、かなり後年になってからのものである。


 再三に渡り騎士爵(ナイト)への叙勲(じょくん)を辞退している一方、

フランス政府から(たま)わったレジオンドヌール勲章は受章している。

地位や名誉には頓着(とんちゃく)せぬが、自身の仕事や人生に於ける記念碑、

思い出の品としてのトロフィーは(ほこ)りを持って(たっと)ぶ、

所謂(いわゆる)英国紳士(ジョン・ブル)』らしい気性であったのであろう。


 化学の実験にのめり込んだかと思うとヴァイオリンの演奏を(たしな)み、

拳銃の扱いは名手の(いき)、スポーツには左程(さほど)興味を示さなかったものの、

フェンシングやボクシングに堪能(たんのう)で、()ては日本の

『バリツ』なる不可思議な格闘技をも習得していたと()うが、

この『バリツ』についてはイギリスは勿論(もちろん)の事、肝心の本邦に於いても

失伝(しつでん)散逸(さんいつ)しており、その詳細は不明である。


 彼の親友がその才能を評価し書き残した処では

・文学の知識:無し。

・哲学の知識:無し。

・天文学の知識:無し。地球が太陽の周囲を公転している事を()らず。

・政治学の知識:(わず)か。

・植物学の知識:多様。ベラドンナや阿片(アヘン)、毒薬に特に詳しい。

 園芸の知識は無い。

・地質学の知識:限定的であるが実用的。衣服に付着した土の()ね返りを見て、

 色と粘度からロンドンの何処(どこ)の土壌であるかを言い当てる。

・化学の知識:造詣(ぞうけい)が深い。

・解剖学の知識:正確であるが体系的ではない。

・通俗文学の知識:博覧強記(はくらんきょうき)。今世紀(19世紀)に起こった

 (ほとん)どの凶悪事件の詳細を()る。

・ヴァイオリンの演奏にかなり熟達。

・フェンシングやボクシング、日本武術に堪能(たんのう)。拳銃やステッキ、乗馬(むち)など

 武器を駆使して暴漢を制圧・捕縛する(すべ)にも()ける。

・イギリスの刑事法に実用的な知識を持つ。

と、(かたよ)ってはいるが、なかなかに多種多芸(たしゅたげい)な人物像が

浮かび上がってくる。


 しかし彼の多才な能力や知識は私利私欲の為に振るわれる事はなく、

一貫して犯罪者の奸智(かんち)に立ち向かい、弱き者の(そば)に立ち、

これを護る為に(もち)いられたのであった。


 その彼が人生に於いて決して短くはない年月を過ごした下宿屋があった。


 ロンドン市中のベーカー街221Bに位置する下宿屋は、一人の女将(おかみ)

若くして夫を失った老婦人の手で(いとな)まれていた。

この女将(おかみ)、若い頃は10人に問えば5~6人は美人の内に数える程の

顔立ちであったが感情表現に(とぼ)しく、白磁の人形の(ごと)鉄面皮(てつめんぴ)であったらしい。

年齢(とし)を重ねるにつれ、それなりに表情豊かになった様だが、喜怒哀楽を

表に出すのはやはり苦手であったと伝えられる。

とは言え、ホームズ氏の奇矯(ききょう)な振る舞い…部屋の中で怪し気な化学実験を行い

アパート中に濛々(もうもう)と煙が立ち込めた時、また部屋の壁に拳銃の弾痕(だんこん)

アルファベットを、事もあろうに女王陛下の頭文字(イニシャル)を描いたのを見つけた時

などには烈火(れっか)(ごと)(いか)り、氏を(しか)り付ける彼女の姿が見られたとの事で、

(はた)から(なが)める分には何とも微笑(ほほえ)ましい。


 しかしながら料理の腕は確かで、(こと)に彼女の得意料理であるホワイトシチューは

絶品との評判であった。

ホームズ氏は勿論の事、氏の同居人…元軍医で、ひょんな事から彼と家賃を折半(せっぱん)

同居する事となった親友共々、ホワイトシチューが(きょう)される日には二人して大いに

舌鼓(したつづみ)を打った様である。


 また、下宿人以外に知人や友人の(たぐい)(ほとん)どおらず、親戚付き合いも

なかった様だが、如何(いか)なる(えにし)があったものか、イギリスには珍しい和服姿で

強面(こわもて)の老紳士が一人で、時には今一人恰幅(かっぷく)の良い気難し気な老紳士を伴って、

時折彼女を(たず)ね、他愛(たあい)のない茶飲み話に(きょう)じたと伝わっている。


 (こと)に1891年、ホームズ氏が犯罪組織の頭目、『犯罪界のナポレオン』と

異名を取った悪魔的人物、ジェームズ・モリアーティ教授と対決し、二人ながら

スイスのライヘンバッハ滝にて失踪(しっそう)、双方(もつ)れ合って滝壺に転落し死亡したと

伝えられた際には、大層(たいそう)気落ちし目に見えて()け込んだ彼女の下に、

二人の老紳士は足繫(あししげ)(おとず)れ、その心を(はげ)ましていたとの事である。


その様な折には、(いわ)く有り気な美しい緑色の小瓶を取り出してテーブルに

置くのが常で、夫婦の写真、結婚に際して夫から贈られた6ペンス銀貨、

そしてこの小瓶が彼女の宝物であった。

(ひと)りでいる時にも屡々(しばしば)この小瓶を取り出しては(なが)めていた様で、

瓶を光に透かし、懐かし気に目を細める老婦人の姿がホームズ氏の

親友の日記に(しる)されている。


 失踪(しっそう)から三年後、実は(から)くも生き永らえておりロンドンに帰還した

ホームズ氏と再会した彼女の喜びは如何(いか)ばかりであった事か。

十年も若返ったかの様に精気を取り戻した彼女は氏に求められるまま、

彼の親友と老紳士二人も招待しての晩餐(ばんさん)で、腕に()りを掛けて

得意のホワイトシチューを振舞(ふるま)ったと伝えられる。


 栄光に満ちた数々の偉業と共に紳士録・人物名鑑へ燦然(さんぜん)とその名を残した

シャーロック・ホームズ氏であるが、事件の依頼人や関係者以外との交流は

極めて少なく、前述のレストレード警部ら数人の知己(ちき)と、(くだん)の下宿屋の女将(おかみ)

無二の親友である退役軍医と()った者達の名が(わず)かに伝わるのみである。

家族関係も不明な点が多く、兄であるマイクロフト・ホームズ氏が恐らくは

唯一(ゆいいつ)存命(ぞんめい)縁者(えんじゃ)であったと思われる。


 そして、彼の周囲には配偶者や恋人と()った女性の影は皆無であった。

一般には女性嫌いとして知られており、紳士的には接するものの、基本的に女性を

信用していない様に思われた。

(ある)いは過去の事件に於いて関わった何人かの女性が、彼の判断基準では

極めて高水準であった事が災いし、女性に対して求めるハードルが(いや)(おう)にも

高まった(ふし)がある。


長く下宿屋に同居していた無二の親友との道ならぬ恋…男色の関係にあった、

とする説を(まこと)しやかに(ささや)く者もあるが、この親友は

後に下宿を退去し結婚、妻帯(さいたい)しているから、

これは根も葉もないゴシップの(たぐい)一笑(いっしょう)()すべきであろう。


 稀代(きだい)の名探偵、シャーロック・ホームズ氏の記憶の中に、

その面影(おもかげ)を残す事を許された女性は(ただ)二人のみ。


一人はその知略を(もっ)て氏と渡り合い、そしてあろう事か、出し抜き(おおせ)せた

機略縦横(きりゃくじゅうおう)の女性。

氏をして、彼女を回想する際には常に『あの女性(ひと)』と()わしめるに至った

稀代(きだい)女傑(じょけつ)

美貌(びぼう)のオペラ歌手、アイリーン・アドラー女史。


そして今一人は…


笑う事に慣れぬ人の、ぎこちない笑顔。

しかし少年の日のホームズ氏の脳裏(のうり)に優しく温かい、

木洩(こも)()(ごと)き印象を刻んだ

若き日のマーサ・ハドスン夫人の、はにかんだ微笑(ほほえ)みであった。


前回長めだったので、という訳でもないのですが、

最終話はやや短くまとまりました。

会話なしで地の文だけだから、こんなもんですかね。


内容的にはコナン・ドイル先生の原作との矛盾が極力生じない様に

整合性を取りつつお話を纏めていった感じです。


此度初めて小説というものを書いてみたのですが、

一話4千字前後で毎週投下、トータル20話・8万字前後で

何かしら一作完結させよう、との目標でスタートし、

約3か月半で完結に漕ぎ着ける事が出来ました。

最終的には全19話となりましたが、一話辺りの文字数は

4千字を超える事が多く、トータルでは8万字を越え、

おおよそ目標通りの所に着地出来たので一安心。


1~2週間後には新たな作品をスタートする予定です。

本作よりは読み口を軽く、1話辺り2千字程度で、

だらだら書き続けられる、自分にとっては気分転換で書く作品になるはず。

軌道に乗ったら並行して重めで長い作品も始めたいと考えております。

始められたらいいな。

始められるかもね。

まぁ、ちょと覚悟はしておけ。


本作をお読み頂きました読者の皆様、ありがとうございました。

読了後のご感想やご意見など頂けると励みになります。

また、次回作で再びお会い出来れば幸いです。


最後に、城内はコナン・ドイル先生を超リスペクトしております。


それでは、また。



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