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【完結です!】 若きハドスン夫人の冒険 ~如何にして彼女は巨悪の領袖と怪人軍団に赤い火を噴く山で戦いを挑んだか~  作者: 城内仁志


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17/19

16. You win some, you lose some.

『魔人』傅満洲と『バリツの達人』マーサ・ハドスン夫人。

二人の壮絶な死闘の結末は!?


ep.17(第16話)を投下致します。

 ヴェスヴィアス山荘の大広間で向き合うマーサ・ハドスン夫人と

魔人・傅満洲(フー・マンチュー)

傅満洲(フー・マンチュー)の右手に握られた黄金造りの豪奢(ごうしゃ)なデリンジャー拳銃は、

その龍の(あぎと)…銃口を、(あやま)たずマーサの心臓に向けられていた。

「…銃は、お嫌いだったのでは?」

構えた状態から一歩の身動きも出来ぬまま、マーサが問う。

(ほお)から(あご)へと(つた)う汗を(ぬぐ)う事も出来ない。

「確かに()は銃を好まぬ。

我らが如何(いか)に『仙道』や『バリツ』の技を鍛え上げようとも、

(ただ)一発の弾丸が容易(たやす)く勝敗を(くつがえ)してしまう事が悔しくてならぬ。」

「……」

「だが、()は銃を(もち)いぬと言った事はない。

(むし)ろ射撃に於いても名手と言って差し支えぬ程度の研鑽(けんさん)は積んでおる。

そして、()が銃を(もちい)る処を目にした者は、味方であろうと

(すべ)(ほうむ)って来た。

(ただ)一人、苏西究(スージー・Q)を除いてな。」

「ならば、『銃を好まない』と言うのは…」

「うむ、『傅満洲(フー・マンチュー)、その為人(ひととなり)、銃を好まず』とは意図して広めた噂でも

あるのだよ。

その事が、絶体絶命(ぜったいぜつめい)の危機から度々(たびたび)この身を救ったものだ…

今この場の闘いの様に。」

「そこまでしますか…周到(しゅうとう)な事。」

『小細工』と言わぬ辺り、多少ともその徹底振りへの敬意を感じているのか。


「さて、我ら達人同士の闘いで銃を(もち)いるなら、絶対に(かわ)し得ぬ

『殺し()』と()うものがある。

今の()(なんじ)との距離がそうであるな。

如何(いか)に『バリツ』の秘技を駆使しようとも、銃弾は(なんじ)の心臓を撃ち抜く。」

「……」

「未練であるが、今一度問おう…マダム・ハドスン、()(つか)える気はないか?」

「…その銃を見た者は皆、世を去ったのでは?」

この絶体絶命(ぜったいぜつめい)の時に、マーサの口角が(わず)かに上がる。

笑っているのか、この時に!

「笑うか…(せん)無き事であったな。

…ならば、死を(たまわ)わるが良い!」

引き金にかけた傅満洲(フー・マンチュー)の指に力が(こも)る。


タンッ


黄金龍の(あぎと)が無慈悲な咆哮(ほうこう)を上げる。

と、同時にマーサの全身から(すさ)まじい煉気(れんき)が噴き上がった。

その姿はほとんど青白い燐光(りんこう)を放っているかの様に見えた。


鬼鋭(キエ)ーーーーーィッ!」


マーサの(のど)から裂帛(れっぱく)の気合が(ほとばし)る。

そのドレスの左胸にポッと黒い穴が開き、見る見る内に赤い血の花が…


血の花は咲かなかった。


「!?」

(いぶか)しむ傅満洲(フー・マンチュー)

血が噴き出さぬばかりか、ドレスに開いた()げ穴から黒い塊が顔を(のぞ)かせ、

ことりと床に落ち、転がる。

「…『金身羅漢(こんしんらかん)の法』、ここに()れり!」

荒い息をつきながらも、マーサは魔人を見据(みす)え、言い放った!

恐らく左胸の骨には(ひび)の一つも入っていよう。

だが、マーサの皮膚と筋肉は気合と共に(はがね)(ごと)き硬度となり、

彼女の胸を(つらぬ)かんとする凶弾(きょうだん)に耐え切ったのである。

絶体絶命(ぜったいぜつめい)の瞬間が(もたら)す精神と肉体との極度の緊張が、それまで

自身には修得が(かな)わぬと思われた奥義を体得せしめたのだった。


「フッ!」

マーサは息を詰め、縮地(しゅくち)の歩法で(もっ)て滑る様に魔人の眼前に迫る。

弾丸を受け止めた胸骨が激しく痛むが、構うものか。

(ええい、ままよ!)

「チィッ!」

跳び退()こうとする傅満洲(フー・マンチュー)であったが、一瞬遅れた。

否、想像を絶する速度は人の限界を超え、この魔人をして退()く事が(かな)わなかった。

マーサは飛び込んだ勢いのままに…


右の鉄菱(てつびし)人中(じんちゅう)を打ち


返す左フックで(あご)を振り抜き


更に右フックをこめかみに叩き込み


左のローキックで(すね)をへし折り


右の手刀の振り降ろしで鎖骨を折り


左の鉄菱(てつびし)で胸骨を割り


右ストレートを心臓目掛けて打ち抜き


左の(かかと)落としで脳天を砕き


右の下段回し蹴りで大腿骨(だいたいこつ)粉砕(ふんさい)


左足で膝頭(ひざがしら)を踏み割り跳躍すると


右膝で(あご)への跳び膝蹴りを見舞い


両手で頭を(とら)えて倒立(とうりつ)し,開脚するや両の脚を振り回し

傅満洲(フー・マンチュー)の頭を180度(ひね)り、その首をへし折ってのけた!


いずれも致命の12連撃が、(わず)か3秒足らずで繰り出されたのだった。


脚を振り回した勢いで宙へ跳び、錐揉(きりも)みしてマーサは着地する。

「無我夢中の内に放った連撃ですが…

阿修羅舞(あしゅらまい)』とでも名付けましょうか…」

全身が激しく痛む。

身体中の筋肉や腱が悲鳴を上げていた。

銃弾を受けた胸骨の(ひび)は砕けてしまった様だ。


「…『阿修羅舞(あしゅらまい)』か…良き…名である…」

背後から掛かった声に、マーサは愕然(がくぜん)として振り向き、全身の苦痛に

思わず顔を(しか)める。

(何故生きている! 本当の化け物…魔人なのか!?)

傅満洲(フー・マンチュー)は倒れもせず立っているではないか!

背中に回ったままの首はおろか、全身何箇所もの骨折や打撲、内臓もいくつかは

破裂しているはずである。

何故立っていられる!? 言葉を発する!?

満身創痍(まんしんそうい)のマーサにもはや闘う(すべ)はない。

目の前の男に底知れぬ恐怖を感じているマーサに、魔人は言葉を続けた。

「…人の(いき)を越える技…()も…夢見た事があった…」


人の肉体の限界を超え、電光石火(でんこうせっか)の連撃を叩き込み相手を絶命せしむる技、

武道を(たしな)む者達の間では『乱舞(らんぶ)』の総称で()られる伝説的な奥義に

彼も興味を(いだ)き、研鑽(けんさん)を重ねた時期があった。

だが…

『不可能ではないが、間尺(ましゃく)に合わぬ。』

結局の処、肉体への反動が余りに大きく、人一人打ち倒すのに自身が再起不能や、

最悪死の恐れもあるのでは成果にリスクが見合わぬとして修得を(あきら)めたのだが、

そこで西洋文明の象徴たる『銃』に走った事も含め、彼の心には『逃げた』と()

忸怩(じくじ)たる思いが残っていたのである。

その(あきら)めた奥義が、今、(おのれ)の眼前で振るわれている!

振るわれているのは他ならぬ自身である事も忘れ、彼は歓喜(かんき)最中(さなか)にあった。

()が夢見て到達し得なかった領域に、大陸から遠く離れた異国(イギリス)の、

それも婦人が届いたか!)

()()もなく打ち()えられながら、奇妙な事だが傅満洲(フー・マンチュー)

ある種の快感にも似た感動を禁じ得なかったのであった。


血塗(ちまみ)れの顔は()れ上がり、もはや目も見えてはいないであろう、

傅満洲(フー・マンチュー)(おだ)やかな笑みを(たた)えて語る。

「…少年に丸薬を飲ませ終えたなら…その小瓶は…(なんじ)(たま)わろう…

人の限界を…超え…()を…打倒し得た事への…それは褒美(ほうび)だ…

エメラルドをくり抜き…水晶の(ふた)を…あしらった…逸品(いっぴん)であるぞ…」

「……」

と、(にわ)かに鬼気(きき)(ふく)れ上がり、(おだ)やかな笑みが悪魔のそれに変わる!

「!!」

「だが…(なんじ)は…あまりにも無理をした…!

もはや…指一本…動かす事すら苦痛…であろう…

人の肉体の…限界を超えた…それは代償(だいしょう)よ…

その…後遺症は…一生(のこ)る…やも知れぬ…

十年か…(ある)いは二十年の後には…()が『悪徳の後継』が…動き出そうが…

その時…(なんじ)は…既に…老いて…」


…けく。


一声(ひとこえ)(のど)を鳴らすと、傅満洲(フー・マンチュー)の顔から(すさ)まじい笑みが消え、

その顔は背を向いたまま、身体はばたりと前のめりに倒れ伏した。

ロンドン、いや、全イギリスの心胆(しんたん)を寒からしめた狂気の魔人、

『天才悪魔』傅満洲(フー・マンチュー)の、それが最期だった。


・・・


 マーサは大広間の床に一人座り込んでいた。

手には緑の小瓶を握り締めている。

六日目の明け方、空が白み始める頃、『機関』の黒服の一人が音もなく

広間に入って来た。

細身の男、苦無(くない)使いである。

「…ハドスン夫人、御無事でしたか!」

貴方(あなた)がいらしたと()う事は、外も?」

「はい、終わりました。

貴女(あなた)には相手が相手(ゆえ)、万一の事もあり得ましたから、

私が皆に先んじて斥候(せっこう)を。」

「そうですか…情けない事ですが、もう一人では身動きも出来ませんの。

恐れ入りますが、肩を…いえ、担架(たんか)を回して頂けませんか?」

細身の男は(かたわ)らの傅満洲(フー・マンチュー)の死体を見やる。

(すさ)まじい死体の有様(ありさま)を見て、恐るべき死闘の跡を感じ取り、

さもありなん、と得心(とくしん)したのだった。


 外の闘いは、時間こそ掛かったが警官隊(ヤード)と黒服達が堅実に

勝利を収めたと()う。

幾人(いくにん)か骨折や刀傷はあるが、皆生命に別状はないとの事であった。

(ひら)けた草原で囲まれては如何(いか)な怪人達とて多勢に無勢、

一人、また一人と黒服達に追い込まれ、警官隊(ヤード)達のライフルに

撃ち倒されたそうだ。

やはり『銃の時代』か、とマーサは傅満洲(フー・マンチュー)の嘆きを思い起こす。

(ただ)一人、長剣使いの怪人のみは黒服のリーダー、仕込み杖の男と

剣を交え続けていたが、仲間を(ことごと)く失うに(いた)り、仕込み杖の男に

介錯(かいしゃく)()い、自ら腹を切ったと()う。

「自分達は既に人には戻れぬ身だから、と淡々としたものでしたが、

しかし敵とは()え、立派な最期でしたよ。」

怪人達も、出逢い方が違えば、(ある)いは我らの同僚として生きる道も

あったのですかね、と(いささ)感傷的(センチメンタル)な気持ちを抑え切れぬ様子で

苦無(くない)使いは告げるのだった。


・・・


 「(ぞく)首魁(しゅかい)以下、全員が死亡…逃亡者一名、逮捕者はなし。

何ともやり切れない事件でしたね。」

レストレード青年がぼやく。

「死体もこの数に並外れた体格(ぞろ)いだ。

検死が必要とは言っても、余人(よじん)に見られん様に運ぶのも一苦労さな。」

警官隊(ヤード)のリーダー格も(いささ)かげんなりした様子で応えた。

「…他の連中は、それより()()()とのお別れの方が(つら)そうだが、な。」

つい先程、山荘内から担架(たんか)で黒服達に運び出されたマーサの姿を見た

警官隊(ヤード)の者達の騒ぎ様はちょっとした見物(みもの)だった。

「天使様! 聖女様!!」

「お(いたわ)しや、天使様!」

「俺達が運ぶ、運ばせてくれ!」

「聖女様、お水は()りませんか? 冷たい水をお飲み下さい!」

むくつけき男達が口々に叫びながら集まり、甲斐甲斐(かいがい)しくマーサの世話を

しようと担架(たんか)の周りで右往左往(うおうさおう)する何とも微笑(ほほえ)ましい姿に、

黒服達も苦笑いしつつ、しかし(こころよ)く彼らの手助けを受け入れていたのである。


「…どうせこの後は街で出くわしても、精々(せいぜい)お互い会釈(えしゃく)して通り過ぎるのが

関の山なんだ。

忘れちまうのがいいのさ。」

「…そうですね、公式には、なかった事になる任務です。

帰ったら一杯()って、後は忘れましょう。」

「おっ、分かってきたじゃねぇか?」

俺達はこの国(イギリス)を護った、その事は俺達と女王陛下だけが知っていれば良い。

スコットランドヤードの一員としての、彼らの矜持(きょうじ)であった。


・・・


 道すがら、聞こえてくるのは朝を告げる麓村(ふもとむら)の修道院の(かね)であろうか。

担架(たんか)で運ばれるマーサは黒服のリーダーに言付(ことづ)ける。

「私に(あわ)せているとロンドンへの到着が遅れます。

恐れ入りますが、一人先行して室長(ミウラ伯)(もと)へ走らせて頂けませんか?」

一刻も早くシャーロック少年に薬を届けたい。

また、一人逃げ延びた苏西究(スージー・Q)や、結社の残党の捜索も頼まなければ。

そして…

「ふむ、承知致しました。

しかしハドスン夫人も随分と()()()()が出てまいりましたな?

まぁ、悪い事でもなし、伯爵閣下やマイクロフト先生も喜ばれるでしょう。

…おい、君! 済まんが頼まれてくれるか?」

リーダーは丸薬の飲ませ方を聞き、緑の小瓶を受け取ると、苦無(くない)使いの男に

声を掛け、小瓶と走り書きを手渡し二言三言、指示を与えた。

細身の男はすっと集団から離れ、駆けて行く。


伝令を走らせるに当たって、マーサはミウラ伯とマイクロフト氏に()てて、

非公式な伝言を付け加えたのである。

(いわ)く…

マーサ・ハドスン()も、ベーコンを持って戻りました!』


・・・


 マーサ達一行がロンドンへ帰還(きかん)を果たしたのは、六日目の夜も

更けた頃であった。

先んじて苦無(くない)使いの男に薬を持たせなければ一週間の期限ぎりぎり。

シャーロック少年の治療が間に合ったかは難しい処である。


マーサ自身もロンドンへ到着して早々(そうそう)、そのまま入院する事となったが、

苦無(くない)使いが気を利かせ、マーサの病室に顛末(てんまつ)を伝えに来た。

幸い丸薬の効力には(いつわ)りなく、一度目の服用後、程なく熱が下がり始め、

容体(ようだい)快方(かいほう)に向かいました。

処方(しょほう)通り三粒服用した(のち)は数日で快癒(かいゆ)するでしょう、

と聞かされ、マーサはようやくベッドで胸を()で下ろしたのだった。


苏西究(スージー・Q)や結社の残党は未だ発見出来ていませんが、他の黒服達も

戻ったからには早晩(そうばん)発見して見せます、今はゆっくり身体を休めて下さい、

と励ましの言葉を残し、機関の猛者(もさ)はロンドンの闇に溶ける様に立ち去った。

苏西究(スージー・Q)、そして傅満洲(フー・マンチュー)の言葉にあった『悪徳の後継』らの

動向が気になる処ではあるが、痛み止めが効いてきた事もあり、

マーサは何日か振りで、深い眠りについたのであった。


 (なお)、この日の深夜、一隻(いっせき)のジャンク船がロンドンを静かに出航した。

テムズ川を(くだ)り、ティルベリーを抜け北海へと消え去ったが、これに気付いた者、

此度(このたび)の事件と関連付けて考える者は(だれ)一人なかったのである。


タイトルは『勝つ事もあれば、負ける事もある』という諺。

転じて、『人生では成功する事もあれば、失敗する事もある』

『得られたものもあれば、失われたものもある』の意味となります。


今川版ジャイアントロボでは『幸せは犠牲なしに得ることはできないのか、

時代は不幸なしに越えることは出来ないのか』と言う台詞がありましたが、

同様の言葉を使ってみたかったのです。

…今川監督、『バベルの籠城編』、制作してくれんかな。

戸田版は、うん…自分にはちょっと合わんかった。

水田版は割と好き。


城内は『ジャイアントロボ THE ANIMATION』を超応援しております。


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