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【完結です!】 若きハドスン夫人の冒険 ~如何にして彼女は巨悪の領袖と怪人軍団に赤い火を噴く山で戦いを挑んだか~  作者: 城内仁志


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16/19

15. 黄金銃を持つ男

遂に対峙したマーサ・ハドスン夫人と魔人・傅満洲。

二人の恐るべき死闘の行方は!?


ep.16(第15話)を投下致します。

 (つい)にヴェスヴィアス山荘の大広間で対峙(たいじ)したマーサ・ハドスン夫人と

傅満洲(フー・マンチュー)博士主従。

静かに緊張の度合いを高めるマーサ。

相変わらず人を食った嘲笑(ちょうしょう)を崩さぬが目は笑っていない苏西究(スージー・Q)

そして傅満洲(フー・マンチュー)泰然自若(たいぜんじじゃく)(てい)(ふところ)から何かしら取り出し、

コトリとテーブルに置いた。

美しい緑色の小瓶である。


「この小瓶に三粒の丸薬が収められておる。

湯呑(ゆのみ)一杯の白湯(さゆ)と共に朝昼晩と一粒ずつ服用さすれば、汗と共に毒は抜け、

熱も下がり、(くだん)の少年は快癒(かいゆ)しよう。」

小瓶を取り上げると暖炉の()()かして(なが)める。

その(きら)めきは(ただ)のガラスではあるまい。

恐らくは高価な貴石・宝石の(たぐい)であろう。

勇敢(ゆうかん)マダムよ。

(なんじ)がここに(こうべ)()れ、()に服従の意を示すならば、

今この場でこの小瓶を取らそうが、如何(いかが)かな?」

悪戯っ子の様な笑みを浮かべて傅満洲(フー・マンチュー)は提案する。

「だが、もし断られたら、()は嘆きのあまり、癇癪(かんしゃく)(おこ)して

瓶を暖炉にくべてしまうかも知れぬ。

そうなれば、もはや少年は助かるまい。

誠に残念な事である(のう)。」

先程の笑みから一転、実に悲し気な表情を作る。


「ほらほら、(あるじ)様は大慈大悲(だいじだいひ)のお方アルよ?

気が変わらない内にお慈悲に(すが)るのが得アル!

何なら、この場だけ頭下げてお薬かっさらっても()いかもネ!?

おばちゃんのプライドが許せば、だけど?」

苏西究(スージー・Q)追従(ついしょう)なのか(あお)っているのか、

良く判らぬ事を言い出す。


貴方(あなた)は…何故、私に(こだわ)るのです?」

マーサは、感じていた疑問を率直にぶつけてみた。

彼の勧誘には(ただ)腕利きを手元に置きたい、と()う以上の熱を感じていた。

まさか、自分などに一目惚(ひとめぼ)れした訳ではあるまいが。

生气(シェンチィ)! 質問に質問で返すの、良くないアル。

試験なら落第アルよ、落第!!」

「まぁ良い、控えよ、苏西(スージー)。」

従者を(なだ)めると、この大悪党は真剣な顔で言う。

「そうさ(のう)…ならば、()も更に問いを重ねるか。

(なんじ)は、憎くはないのか?

この国(イギリス)』が。」

「何を世迷言(よまいごと)を…憎む理由がありません。」

にべもなく一蹴(いっしゅう)するマーサ。

「果たしてそうかな?

(なんじ)の夫はその稀有(けう)な才能をこの国に使い倒され生命を落とした。

その様な事がなければ幸せな夫婦の暮らしが続いていたのではないか?」

「……」

(なんじ)(つか)えるミウラ伯爵もそうであろう。

表では昼行燈(ひるあんどん)放蕩(ほうとう)貴族と後ろ指を指され、陰働きも所詮(しょせん)乱波(らっぱ)透破(すっぱ)(たぐい)

伺見(うかみ)の頭目と(さげす)まれる身よ。」

「……」

「ホームズ兄弟などは魔女狩りで族滅(ぞくめつ)の憂き目に()い、

ヨーロッパ中を放浪するに至った一族の末裔(すえ)

恨みを持つ事がなかったと言えるか?」

「だから何だと言うのです!

それぞれに事情はあっても、その境遇を恨むとは限らぬでしょう!?」

語気強く言い返すマーサ。

だが、言葉とは裏腹に心臓の鼓動が早まる。

苏西究(スージー・Q)(かつ)ては大店(おおだな)の娘。

何不自由なく暮らしておったが、夜盗に押入られ、一族郎党は鏖殺(みなごろ)し。

自身は凌辱(りょうじょく)の末に、(ぎょく)(かんばせ)無惨(むざん)に潰された…」

「!…(あるじ)様、いけません、その話は! それ以上は!!」

何を察したのか、苏西究(スージー・Q)が常の道化振りも忘れ、(あるじ)の言を止めようと

叫んだ。

だが、傅満洲(フー・マンチュー)は止まらない。

「そして()は、親族の奸計(かんけい)(おちい)り廃太子となった。

人もあろうに、一国の王太子であった()が『宮刑』の(はずかし)めを受けたのだ!」

「あぁ…(あるじ)様…」

あの苏西究(スージー・Q)が、顔を覆って泣き崩れる。


『宮刑』とは、去勢を意味する刑罰で、男性器を機能不全にするものである。

特に中国での事例が良く知られており、子孫が残せぬと()う重い恥辱(ちじょく)を意味した。

歴史書『史記』の編纂(へんさん)で名高い司馬遷(しばせん)も、さして親しくもない知人の弁護を

行っただけの事で時の皇帝の勘気(かんき)に触れ、この刑を受けたのは有名な話である。


「…分かるかな、マダム?

()は、この世が、世界が憎い。

(ゆえ)に世界を(めぐ)り、()と同様に世界を憎み、恨みを晴らしたいと

願う者達があらば、これに手を差し伸べ、同志に加えて来た。

(きた)るべき未来、彼らと共に、()は世界を手中に収め…」

滔々(とうとう)と語る傅満洲(フー・マンチュー)の顔を見つめ、マーサは得心する。

あぁ、これは悪魔だ。

神と世界を憎み、人を(おとしい)れる事を望んで止まない悪魔の笑みだ。

「…手に入れたその世界が滅ぶ(さま)を見たいのだ。」


・・・


 傅満洲(フー・マンチュー)の驚くべき独白。

事の是非(ぜひ)はともかく、魔人には魔人に成り果てるだけの理由はあったのである。

並みの者なら彼らの壮絶な半生に気圧(けお)され、同情や憐憫(れんびん)の念に

(とら)われてしまったかも知れない。

だが、マーサは心を励まして応える。

貴方(あなた)達の身に降り掛かった不幸には同情致します。

(ある)いは復讐を望み、果たすのも止むを得ない事でしょう。

ですが、それは無関係の他者まで巻き込んで不幸にする事への

免罪符(めんざいふ)とは成り得ません!」

「響かぬか…

所詮(しょせん)綺麗(きれい)事、他人事よの。

(なんじ)達は是非(ぜひ)とも同志として迎えたかったのだが、な。」

傅満洲(フー・マンチュー)溜息(ためいき)と共に()らす。

悪魔の笑みが、何時(いつ)の間にか寂し気なものに変わっていた。


「お生憎(あいにく)、としか言い様がないのですけど…

私は…私達は世の中にも人間にも、そこまで絶望していないのです。

貴方(あなた)達の手は取れません。」

どこか済まない気持ちになるのを抑えつつ、しかしマーサははっきりと

拒絶(きょぜつ)の意を示した。

「…相分(あいわ)かった、これ以上は望まぬ。」

まさか涙を(こら)えているのか、天を仰ぎ、震える声で傅満洲(フー・マンチュー)が応えた。

緑の小瓶をテーブルに戻す。


苏西(スージー)(なんじ)はここを離れよ。

彼奴(きゃつ)』と落ち合い、()凱旋(がいせん)を待つが良い。

勝利の美酒は、上物(じょうもの)を用意しておくのだぞ?」

(シィ)(あるじ)様、ご武運を。」

苏西究(スージー・Q)は涙を(ぬぐ)うと一礼し、廊下の闇に溶けるかの(ごと)く走り去った。

その後姿を(しばし)し目で追った後、傅満洲(フー・マンチュー)はマーサに向き直る。

「マダム、()を倒せたならこの小瓶は(なんじ)に与えよう。

だが、もはや万が一にも生かして(かえ)すつもりはないぞ?

これより先は…」

「!?」

マーサは思わず身を震わせ、構えを取る。

傅満洲(フー・マンチュー)の身体から(すさ)まじい煉気(れんき)が立ち昇る。

武術に於いても達人中の達人のみに可能な領域に、この魔人は到達していた。

「…『狩り』の時間だ。」


・・・


 山荘を抜け出した苏西究(スージー・Q)が夜の森を駆ける。

悔しいが、自分の実力ではあの二人の闘いには付いてゆけぬ。

それは良い。

ロンドンブリッジでの闘いを見るに、(あるじ)様の実力はあの女(ハドスン夫人)(はる)かに

凌駕(りょうが)している。

それでも(ぬぐ)い切れない胸騒ぎがするのは、(むし)ろ『金龍(ジンロン)诡道公司(グイダオコンス)』の

内部事情のせいだ。

(あるじ)様は()()()を重く(もち)い過ぎる。)

何時(いつ)の間にか組織に加わり、そう時も置かず確かな才能と実績を示して

頭角を現した青年。

(あるじ)様は面白がって『()が悪徳の後継』などと持ち上げているが、

その実、周囲には慇懃無礼(いんぎんぶれい)で鼻持ちならない。

(ふところ)に毒蛇でも忍んで来る様な薄気味悪さがある。

加えて近頃は周囲に隠れて何やら不穏な動きをしている様だ。


 苏西究(スージー・Q)は夜の森を駆ける。

(ふもと)村に入れば、明け方には辻馬車(ハンサムキャブ)が捕まえられるだろう。

急ぎロンドンへ取って返し、(あるじ)様がお戻りになる前に組織の内部を

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

彼奴(あいつ)は私達とは決定的な何かが違う。

(あるじ)様に取り入って何を(たくら)んでいるのか知らぬが、あたしの目は誤魔化(ごまか)せないよ。

あたしがしっかり()()()()手綱(たづな)を握っておかないと!

もし(あるじ)様を裏切るなら…その時は、貴様の生命はないと思え!

若造、『ジェームズ・モリアーティ』!!)


・・・


 山荘の大広間で向き合うマーサと傅満洲(フー・マンチュー)

どちらかが一歩進めば相手は一歩下がり、どちらかが一歩下がれば

相手は一歩進む。

同じ間合いを保っている様に見えて、しかし実際にはじわりじわりと

(せば)まっていた。

「……」

マーサの額に汗が(にじ)む。

ロンドンブリッジで闘った時より、(はる)かに圧が強い。

手心を加えるつもりなど一切ない、魔人の殺気が容赦(ようしゃ)なくマーサを襲っていた。


不意に傅満洲(フー・マンチュー)の身体が()らめいた。

(来る!)

『仙道』の分身術だ。

幾重(いくえ)にも分身した傅満洲(フー・マンチュー)がマーサを囲み、回る。

「!」

包囲の輪が収束する瞬間、マーサは大きく跳躍して囲みを抜ける。

「…やる様になったが、そう何度も使える手ではない(のう)。」

一体に戻った傅満洲(フー・マンチュー)は事も無げに(つぶや)いた。

宙返りから着地し再び距離を取ったマーサだが、デイドレスの(そで)が裂けていた。

手刀が(かす)め、切り裂かれたのだ。

目の前の魔人が言う通り、この様な(かわ)し方を繰り返せば消耗するのは

マーサの方だ。

いずれ(とら)えられる。


(あせ)るな、考えるのだ…)

ふと組手の際のミウラ伯の言葉を思い出す。

『手足を露出させるのがまず手っ取り早い。

(こと)に『足』よな。』

相手の豪奢(ごうしゃ)長衣(ローブ)は先の闘いの時と変わらず、

手足はほとんど露出していない。

(『無敵の人』などあり得ない。

何か…何かやり(よう)はあるはずなのだ…)

マーサは相手を見据(みす)えつつも、同時に周囲を観察する。

武道で()う『八方目(はっぽうもく)』である。


ダンスホールを兼ねた大広間。

豪奢(ごうしゃ)なシャンデリアが下がり、床には大きく厚いオーク材が何枚も()かれていた。

グランドピアノ。

黒檀(こくたん)のダイニングセット。

テーブルの上にはスコッチのボトルとグラス、そして丸薬の入った緑の小瓶。

大きな暖炉はまだいくらか燃えているが、大分(だいぶ)灰勝ちになっている。

暖炉の(そば)には(まき)が積まれたログラック。

その脇には暖炉のアクセサリーだ。

(ほうき)に火かき棒、スコップ…

(あれだ!)

マーサは暖炉に向かって跳び、スコップを引っ(つか)むと暖炉の灰を(すく)い、

広間中へ盛大にぶちまけた!

何度も、何度もぶちまけ、広間にはもうもうと灰神楽(はいかぐら)が立ち込める。

「!?…自棄(やけ)を起こしたか?

(ある)いは灰神楽(はいかぐら)(まぎ)れ、小瓶を盗んで逃げおおせるとでも思っているのか?」

であるなら、とんだ見込み違いであったと()うものだ、と流石に顔を(しか)め、

口元を(そで)(おお)った傅満洲(フー・マンチュー)悪態(あくたい)をつく。

「逃げも隠れも致しません。」

(しず)まりゆく灰煙の中からマーサが応えた。

スコップを投げ捨てると正面の魔人を見据(みす)えて言い放つ。

「第二ラウンドと行きましょう!」


「!…それでこそ、と()うものだ、マダム!」

再び傅満洲(フー・マンチュー)の姿がゆらめき、分身する。

マーサは囲まれる前に月歩(げっぽ)で滑る様に後方へ下がり、距離を保つ。

()()()()()()()()()のではなかったかな、マダム?」

傅満洲(フー・マンチュー)揶揄(やゆ)しながらマーサを確実に

部屋の隅へと追いやる様に動く。

追い詰められながら、マーサはほとんど傅満洲(フー・マンチュー)を見ていなかった。

足元、床ばかりを気にしている。

「…()から目を切るとは感心せんな。」

「!」

マーサの眼前に迫った傅満洲(フー・マンチュー)が、必殺の『通背拳(つうはいけん)』を繰り出した。

掌底(しょうてい)を十字に組んだ腕で受け止めつつ、マーサは自ら後方へ跳ぶ。


ドゥンッ


マーサの身体が壁に叩き着けられた。

「浅いか…相変わらず良く(かわ)すものよ。」

マーサがゆっくりと立ち上がる。

目に強い光があった。

(!…そうか、そうだったのか!!)

「…ふむぅ?」

マーサは足を止め、重心を下げた姿勢で構えを取っていた。

柔道で()う『自護体(じごたい)』である。

「覚悟を決めた、と()う事かな?

ならば、(とど)めをくれてやろう!」

傅満洲(フー・マンチュー)三度(みたび)分身し、マーサに迫る。

対するマーサは半眼(はんがん)傅満洲(フー・マンチュー)の足元を、足元のみを見ていた。

(ここだ!)

「むぅ!?」

マーサは繰り出された『通背拳(つうはいけん)』の左腕を(そで)ごと(とら)え、

その腕を自身の肩に乗せると自分の体諸共(もろとも)巻き込んで前方に投げ落とした!


どさり、と派手な音を立てて二人ながら床に倒れ伏したが、マーサは

くるりと転げて身を離す。

「…()を地に()わすか…!」

如何(いか)にも苦し気な表情で傅満洲(フー・マンチュー)が遅れて立ち上がる。

左の肩が下がっているのは関節が外れたか。

『背負い落とし』

背負い投げの形で相手の腕を『極めながら』投げる、危険な変形投げが

見事に決まっていた。


格闘技に精通した者達の間では広く()られている事に、

元来『投げは効く』『投げは強い』、と()うものがある。

まして、硬く分厚いオーク材の床に叩きつけられた衝撃は如何(いか)ばかりか。

硬い地面や床に身体を叩き着けられればダメージがない方がおかしい。

柔道の畳にしろレスリングのマットにしろ、選手の安全を確保する為に

(もちい)いられているのであるし、これらを学ぶ者が真っ先に、そして入念に

教え込まれるのが受け身である事からも投げ技の強さが(うかが)い知れる。


そして、魔人・傅満洲(フー・マンチュー)とても投げ技に精通していない訳ではない。

むしろ満州族には『摔角(シュアイジャオ)』と呼ばれる打撃と投げ技の武術が

存在し、彼もこれに通じていた。

だが、『摔角(シュアイジャオ)』に於いての『投げ』は相手を投げ飛ばし、(ある)いは

地に転がして『(さば)く』事に重きが置かれ、彼もその様に認識していた。

対して柔道やレスリングのそれは、相手と諸共(もろとも)に自身も倒れ込み、

そこから『締め技』や『極め技』に移行する、と()うスタイルの違いがある。

この場合は技の優劣ではなく、一方に通じていた事が彼に災いしたのである。


「ぬん!」

かこん、と肩が(はま)る。

顔を(しか)めながら肩を回し、状態を確かめる傅満洲(フー・マンチュー)

外れた肩を入れたとて、その炎症が収まるには日を要する。

魔人であろうと痛いものは痛いのだ。

「…投げも見事であったが、良くぞ()の分身術を見抜いたものだ。

マダム、参考までに、如何(いか)にして看破(かんぱ)し得たのか、聞かせては

もらえぬか?」

気になって仕方がない、と言わんばかりの表情に少々(あき)れぬでもないが、

マーサも息を整える(いとま)が欲しい。

構えは()かぬが、ぽつぽつと話し始める。

「…まずは、足跡でした。」

「ほう?」

「私の『月歩(げっぽ)』は引きずる様な足捌(あしさば)き。

ですが、貴方(あなた)の足跡は、ごく小さな点が沢山着いていました。」

「ふむ。」

「第二に、舞い上がる灰。

分身の二体か三体(ごと)に、足元の灰が舞い上がっていたのです。」

「そこで、あの灰か!」

「最後に、影。

貴方(あなた)が何体に分身しようと、影を持っていたのは一体のみ。」

「なんと。」

「思うに、貴方(あなた)の分身術は、つま先立ちで行う超高速の横移動…

熟練のバレエダンサー(プリンシパル)をも凌駕(りょうが)する程のそれを繰り返す事で

可能になる技、ではありませんか?」

「…美事(みごと)美事(みごと)と言う他あるまい。」

傅満洲(フー・マンチュー)の、簡潔だが惜しみない讃辞(さんじ)であった。


『白鳥の水かき』と()う言葉があるが、傅満洲(フー・マンチュー)を魔人たらしめる

分身術の秘密は、正にその足先の玄妙(げんみょう)なる動きに()って成されていたのである。

その看破(かんぱ)に至ったマーサの観察眼と推理力も天晴(あっぱれ)であった。


「確かに、貴方(あなた)は『天才悪魔』と呼ばれるに相応(ふさわ)しい魔人なのでしょう。

ですが、私の技も届かない訳ではない。

これより後は、楽に闘えるとは思わない事です!」

(りん)として言い切るマーサの構えに力が(こも)る。

だが、眼前の魔人はにやりと笑みを(たた)え、マーサにウインクした。

「いや、闘いはもはや終わったのだよ。

後には()の勝利と…(なんじ)の死体だけが残る。」

「!」

黄金の龍がマーサを(にら)み、(あぎと)を向けている。

傅満洲(フー・マンチュー)の右手に握られていた物は…


龍の意匠(いしょう)(ほどこ)された、黄金の拳銃!

タイトル元ネタは映画・『007/黄金銃を持つ男』。

主演はロジャー・ムーアです。

奇しくも『機関』の後身である『MI6』のエージェント、

ジェームズ・ボンドが主役のシリーズですね。


名前だけ出てきましたが、モリアーティのキャラクターイメージは

デスノートの夜神月が近かろうと思います。

まだ若い頃ですし。


傅満洲の分身術の歩法はイギリスのニューウエーブバンド・ジャパンの

ベーシスト、ミック・カーンのステージパフォーマンスが元ネタです。

もしくは漫画・パタリロのゴキブリ走法。

ミック・カーンはベースを弾きながら、ステージを左右にすーっと

横移動するんですよ、分身はしませんが。

ユーチューブに映像があるのでご興味のある人は検索してみて下さい。

土屋昌巳がギターで参加している貴重な映像もあり。

楽曲は『ジェントルマン テイク ポラロイズ』や

『メソッズ オブ ダンス』辺りがお奨め。


なお、脱臼の応急処置は自分でやらないで下さい。

神経やら血管やらを傷つける恐れがあるので速やかに医療機関へ。


そういえば、パタリロにもMI6のエージェント、バンコランが

いましたね。


城内は漫画家・魔夜峰央先生を超リスペクトしております。

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