9. ロンドンブリッジの死闘
箸休めも充分と言う事で、またバトルに突入です。
「アクション」小説ですしね。
ep.10(第9話)を投下致します。
「怪人だ!恐ろしい怪人だよぅ!!
青い肌をして、山みたいに盛り上がった筋肉の塊だよ!
9フィート(2.7メートル)も跳び上がって、口から青い炎を吐くよ!
飛び掛かって鋭い鈎爪で引き裂くよ!
『バネ足ジャック』が現れたんだよぅ!!」
朝のロンドンではまたもや新聞売りの少年が声を張り上げている。
次々に怪人が跋扈し人々が襲われるロンドンは、今や夜ともなれば
出歩く者の姿も稀になっていた。
口さがない者には『魔都・ロンドン』等と揶揄される始末である。
その『魔都』に今また現れた怪人、『バネ足ジャック』は
恐るべき犯罪者・殺人者には違いなかったが、どうもこれまでとは様子が
違っていた。
一人歩きしていた酔漢や婦人等は衣服を切り裂かれたり、顔を舐められたり(!)
したが、驚いて腰を抜かすか、精々が衣服を切り裂かれた時にちょいと
爪に引っ掛けられた程度の怪我で、重症者や死者は皆無である。
しかし夜回りの警官や自警団員が出会った時はひどいものであった。
口から吐く青い炎で全身を焼かれ、或いは爪で全身を膾に切り裂かれ、
殆どの場合は助からなかった。
強い恨みを持っているのか、或いは何某かの目的があるのか、
警官や自警団の者を狙って殺しているのが明らかだったのである。
そして世間に知られる事はないが、怪人の狙いには『機関』の猛者達も
含まれていた。
・・・
「…私を名指ししたと?」
所変わって史料編纂室のマーサ・ハドスン夫人とミウラ伯である。
苦手な抹茶ではあるが、今日は菓子が添えてあるのが嬉しい。
しっとりとした甘味はマーサの好みに合ったし、花を模した繊細な形や色合いも
美しく見事なものである。
『練り切り』と云うらしい。
「立ち合った諜報員にはっきりと告げたそうだよ。
仲間を倒した『婦人』に伝えろ、とな。」
面白くもなさそうに伯が言う。
『バネ足ジャック』と立ち合いの末に敗れた諜報員は
かなりの深手であったらしい。
むしろ、伝言させる為に生命は奪わなかった、と云うのが正しいだろう。
「全身の火傷もひどいが、足の腱を深く切られていてな。」
現場復帰にはかなり時間を要するとの事だった。
「しかし、何とも古風な事だ、果し合いとは。」
果し合い。
バネ足ジャックはあろう事か、マーサに一対一での
決闘を挑んで来たのである。
時は3日後の深夜、所はロンドンブリッジ。
童謡にも歌われ、世界的にも有名な歴史ある橋梁を指定して来た。
「…存外、浪漫主義者でもあるのかな?」
「受けない訳にはいかないでしょうね…人払いの根回し、お願い致します。」
本来受ける筋合いもないが、並みの使い手では対処出来ない相手である以上、
結局マーサが闘わざるを得ない。
「心得た…名跡での決闘、間近で見物出来ぬのが惜しいな。」
浪漫主義を刺激されたか、興が乗ってきた様子で伯が応える。
(まったく、この方は…)
少々呆れつつ、今は茶と茶菓子を堪能するマーサであった。
・・・
深夜のロンドンブリッジにマーサが立つ。
いつもの紺のデイ・ドレスに丸眼鏡の姿はとてもこれから一戦交えようと云う
戦士とは思えない。
ロンドンブリッジは、先にも述べたが童謡『ロンドン橋落ちた』で知られている
世界的にも有名な橋梁である。
2000年近い歴史を誇り、18世紀までは市内を流れるテムズ川に架かる
唯一の橋でもあった。
当時は石造りの荘厳なアーチであったが、現在はコンクリート製の
比較的地味な造りに改築された上に、同じテムズ川の下流に架かる、
2つの塔を持つ優美な跳ね橋、『タワーブリッジ』と屡々混同・誤解
されている等、その知名度の割にはなかなかに不憫な橋でもある。
ロンドン橋の石畳に立ち、300メートル近い橋を渡り始めるマーサ。
中程まで渡った処で、マーサの頭上から声が掛かった。
「霜柱のジャックを倒したご婦人に相違ないか?」
頭上から!?
振り向きつつ人差し指で眼鏡をついと上げながら見上げると、声の主と
目が合った。
満月を背に腕を組み、マフラーを風に靡かせながら、瓦斯灯の柱の上に
直立する男の姿があった。
いつもながらの青い肌に小山の様な筋肉だが、これまで相対した怪人達より
一見細身に見える。
いや、腿と脚の凄まじい盛り上がり故、上半身が比較的細く見えるのだ。
両手に鋭い手甲鈎を嵌め、首には赤いマフラー。
背負った背嚢から、口元のノズルにホースが伸びている。
「俺は『驚異の跳躍者』・バネ足ジャック。
我が兄、霜柱のジャックの仇は討たせてもらう!」
なんと、この怪人は先に壮絶な死を遂げたジャックフロストの弟であったか。
(兄弟で怪人に身を堕とすとは、業の深い…)
「『機関』のエージェントめ、婦人とは言え容赦はしない!
行くぞ…とうっ!」
スプリングジャックは柱の上で口上と共に大見得を切り、
空中へ跳躍するとマーサに跳び掛かった。
手甲鈎の一撃が迫る。
が、むざと切られるマーサではない。
くるりとタンゴを踊る様に身を捻って躱す。
「やるなぁ?…だが、これならどうだ…とうっ!」
着地した怪人は、今度は瓦斯灯に向かって跳び、横ざまに柱を蹴ると
次の柱に飛び移る。
すれ違いざまに怪人の口元のノズルから、マーサの顔と言わず服と言わず、
霧の様な液体が浴びせられた。
「これは…!?」
刺激臭がある。
揮発性の、これは油か?
成程、『顔を舐める』とはこの事か!
相手に炎を放つ為の布石を打っているのだ。
鈍重な相手であれば捕まえて顔に吹き付けるのだろう。
怪人は凄まじい速度でマーサを囲む様に柱から柱へ跳び移り続けた。
すれ違う度に油がマーサに降りかかる。
「見切れまい!
行くぞ、電光反転蹴りぃ!!」
怪人は一声叫ぶとマーサに向かって鋭い飛び蹴りを放った。
しかしマーサはこれもゆらりと独楽立ちで躱す。
「!?…おのれぇ、『機関』のエージェント!
ならば…とーうっ!!」
怪人は叫び、空中へ跳び上がると一回転して再び瓦斯灯の上に立つ。
台詞と云仕草と云い、いいちいち芝居がかっているのは、
これがミウラ伯の言う『浪漫主義』なのか?
だが、実力は本物だ。
「行くぞ、喰らえ!…必殺ぅ…地獄の業炎!!」
怪人は口元のノズルから一際大量の霧を噴き出すや否や、両手の手甲鈎を
打ち合わせ、その火花で着火した!
ごうっ
青い炎がマーサを襲う。
一般に青い炎は完全燃焼した摂氏1000度以上の高温である。
如何なる燃料を用いたものか、この怪人は高温の火炎放射を使いこなすのだ。
しかもまたもやバリツには天敵の面攻撃。
兄は氷、弟は炎、恐るべき悪の兄弟であった。
「これは!?…いけない!!」
燃え移るすんでの処で炎から飛び離れ、月歩で眩惑しつつ距離を取る。
(まずいな…あの背嚢、かなり厚い布地だ。
対策されたか?
恐らく飛銭でも中のタンクまでは撃ち抜けないだろう。
ならば…誘うか。)
素早く考えを巡らせたマーサは、怪人に向かいすっと構えると、挙げた片手の甲を
相手に向け、くいくいっと指だけで手招きする。
「瓦斯灯の上からでは私には当たりませんよ?
…その程度の速さの炎ではね?」
「おのれぇ!後悔するぞ…とぅりゃぁぁ!!」
激昂した怪人は一際高く叫ぶや否や大きく跳躍し、空中に身を躍らせた。
「喰らえぇ!必殺ぅ…空中地獄の業炎!!」
空中で距離を詰めつつマーサに向け、必殺の蒼炎を吐かんとする怪人。
だが、それこそがマーサの待っていた一瞬の隙であった!。
自身に向かって跳んでくるなら軌道は読める。
そして…一度跳び上がった空中では軌道は変えられない!
後は相手より早く一撃を決めるのみ!
マーサは怪人に向かい駆け出すと、自身も空中へ跳躍した。
ダンッ
どれ程の『勁』を発したものか、強く踏まれた石畳は罅が入り、
いくらか沈み込んでさえいるだろうか。
中国拳法に於いて屡々最強と称される李氏八極拳には
『裡門頂肘』『外門頂肘』と云った肘打の技がある。
相手の正面、或いは背面から肘で打ち据える技であるが、マーサのそれは
明らかに空へ向けて放たれた、『天門頂肘』とでも云うべき技であった。
バリツの歴史には天空から襲い来る敵との闘いすらあったのか。
「!?」
今まさに手甲鈎を打ち合わせ着火せんとした怪人の顔面に
マーサの肘が叩き込まれる。
ぐしゃりと潰れた顔面に、壊れたノズルから噴き出した燃料がかかる。
既に意識はないのであろう、惰性で手甲鈎が打ち合わされ、
怪人の頭は空中で爆散した。
・・・
黒い煙を上げて燻り続けるバネ足ジャックの死体を横目に、
マーサは石造りのアルコーブに顔を向ける。
「そこに居るのは分かっていますよ、苏西究。
今度こそは連れ帰らせてもらいます。
出てこないなら、多少手荒な扱いをする事になりますが…」
「…哎呀、だから言ったアル。
あのおばちゃんは遠くから狙撃でもしないと駄目アルよ!
主様が近くで見物したいなんて言うから…」
この浮かれ女が物陰に潜んでいたとは。
角灯のジャックの死でマーサには恨み骨髄であろうに、
よくも手出しせず潜んでいたものである。
「いや、苏西よ、これ程の死闘を間近で観ずに何を観ると言うのだ?
古都の名跡で行われる月夜の決闘、何とも絵になる教育的な見物ではないか!?」
ぼやきながら渋々と姿を現す浮かれ女の背後から、もう一人、
男の声が掛かった。
もう一人!?
アルコーブに潜んでいた『腱の音』は一人分だったはずだ!
はっとして目を見開くマーサの前に、闇から染み出すかの様に男が現れる。
「始めまして、勇敢なご婦人。
余が、傅満洲博士である。
社会の裏側では『天才悪魔』等と云うセンスのない二つ名でも
呼ばれておるがな?」
隙なく構えるマーサを尻目に、闇から生まれた様な男は浮かれ女に促す。
「では、苏西、いつもの奴を。」
「えー、あれやるアルか?
…主様、このおばちゃん、ノリ悪いタイプアルよ?」
「構わぬ、こういう物は『様式美』であるからな。」
「…是。」
嫌そうに、本当に嫌そうに前に進み出た浮かれ女が
コホンと前置きすると一転、京劇役者の如く大見得を切った。
「…こちらにおわしますお方こそは清朝満州族が王家のご落胤!
その名も高き『傅満洲』殿下、その人であーる!
比類なき頭脳!素晴らしき叡智!恐れを知らぬ胆力!
三千世界が望んだ英雄が、今!此の世に降臨したのである!
いずれ世界に覇を唱え、『怪力乱人』軍団を従え巷を席巻し、
来るべき輝かしい勝利をその御手に掴んだ暁には
約束の地に西方浄土もびっくり仰天、周章狼狽の
『マンチュリアン・ヘゲモニー』を打ち立てるであろうっ!!」
「うむ、相変わらず美事な口上であった。」
「…謝謝。」
満足気なフー・マンチューが鷹揚に褒めると、流石に見得を切りながら
一息に言ってのけるのは疲れた様で、ぜいぜいと肩で息をする浮かれ女は
サムズアップで主に応えた。
(…これ、どうしたらいいの?)
狂人か?物狂いなのか?
いや、知識と才能に溢れた狂人等、放置していれば社会にとって
危険極まりないのはその通りなのだが…
白磁の表情の陰で困惑を隠せないマーサに、この男は更にとんでもない事を
言い出した。
「ところで、汝、なかなか筋が良い…『余の物』にならぬか?」
タイトル元ネタはゲーム・ファイナルファンタジーVの楽曲、
『ビッグブリッヂの死闘』から。
ですが実は城内、曲は知ってるのですがFFシリーズをプレイした事が
ありません。
ウィザードリィ派だったんです。
バネ足ジャックはもう言う迄もなく、仮面を被ってバイクに乗る、
特撮ヒーローのあのお方のオマージュです。
今TOKYO MXで再放送してますが、クウガ、いいよね…
展示会行きたかったな…行けなかったな… ('A`)
城内は『仮面ライダークウガ』を超応援しております。




