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6.殺されてしまう

その後、私とグレイは微妙な空気ながらも(おそらくそう思っているのは私だけに違いない)廃城へと向かった。

死ぬかもしれないのに心が落ち着かない自分に苦く笑う。


それもこれも、グレイがあんなことを言うからだわ……。


『俺を、婚約者ひとりで危地に行かせるような男にさせないでくれ。俺は、俺なりにきみを大切に思っている。大事にしたいと、そう思っている。……きみの婚約者として、夫になる男として、きみを守らせてくれないか』


グレイは笑っていなかった。

ただ真っ直ぐに、私を見つめて言った。

真摯な言葉だ。誠実な声だった。


「…………」


あれはずるい。

本心からの言葉だとわかっているからこそ、動揺してしまう。


(……暑い)


夏とはいえ、グルーバー領はセイクレッドの最北端に位置する。夏でも、あまり暑くなることは無いのだけど……この頬の熱さは、一体何なのだろう。


気が緩んでいると言われても仕方ないのだけど、流石に廃城の手前に辿り着いた時には浮ついた気持ちは消え去っていた。


何せ、ここで対応を間違えれば、私も、グレイも、死ぬかもしれないのだから。


私とグレイは、互いに顔を合わせてから、ひとつ頷き──廃城に足を踏み入れた。






結果として、私たちは獣王の討伐には成功した。

呪いは私の魔法で無効化し、獣王の攻撃はグレイが引き受けてくれることとなった。


その隙に私はピュリフィエで採取した鉱石を使用した魔法水で獣王を倒そうとしたのだけど──その時、気がついたのだ。


(この子、苦しんでる……?)


落ち着いて見れば、獣王の両手両足には鎖が巻き付いていた。首には首輪が。

拘束具の先は壊されているようだが、鋭利な鎖や首輪からは、血が滲んでいる。

獣王は暴れる度に、咆哮を上げた。

その時、ふと思ったのだ。


(もしかして……)


獣王が暴れているのは、痛いからなんじゃ──?


それは、直感にも近いものだった。

だけど、そうかもしれない、と思ったら、獣王の行動は全てそれが理由な気がした。


「グレイ!あの首輪と足枷を外せる!?」


獣王の呪いは、強烈だ。

獣が吠える度に、呪いの強さは増していく。

魔法水と魔法陣を使用して形成した結界が、一陣、また一陣と割れて消えていく。


私の叫ぶような言葉に、グレイが私をちらりと見る。


「あれが、原因かもしれないわ!!」




そして、私はグレイが獣王を引き付けてくれたタイミングで首輪と足枷の封印を解除した。


そう。獣王を戒めるそれらは、魔法が付与された、明らかに人間が作ったものだった。


魔法を解除し、それをグレイが剣で切りつけ、壊す。


そして──戒めが取れた獣王はみるみるうちに小さくなった。

最終的に、獣は手乗サイズの子猫くらいの大きさになった。

鋭い角と牙はそのままだけど、鳴き声は──


「にゃーん!」


猫、そのものである。








獣王との戦闘で満身創痍になった私たちは、あちこちボロボロだったがひとまず別邸へ帰宅した。


身を清めて、居間に向かうとグレイの傍には子猫としか思えない、獣王が寄り添うようにちんまりと座っていた。

獣王は、私と目が合うと「にゃーん!」ととても可愛らしく鳴いた。

そこには敵意を感じられず、むしろ甘えているように見える。


だけど、その手足と首元は足枷と首輪のせいで血が滲んでいたので、今は包帯を巻いていた。


私は、獣王の今後に思いを馳せながら呟くように言った。


「一応、獣王は滅ぼしたと貴族院には報告したけど……この子、どうしましょう」


獣王は、なぜか酷く私たちに懐いてしまったようだった。

今も、ぐるぐると喉を鳴らしていて本当に猫にしか見えない。


この子の経緯を考えるなら、このままにはしておけない。


だけど、貴族院に報告したらきっと……間違いなく、この子は殺されてしまうだろう。


その性質を利用しようと、飼い殺しにされる可能性だってある。


酷い首輪と拘束具で痛めつけられていた獣王を思い出す。


(……それは、嫌だな)


獣王を挟んでグレイの隣に座ると、彼はしばらく沈黙した後、言った。


「……どういう経緯で封印されたかはわからないが、既にそれは力を失っている。あの暴れようは、きみが思った通り痛かったからだろう」


「……そうなのね」


きっと、とても痛かったのだろう。

今は穏やかに眠っているが、その時のことを思い出すと、胸が痛くなった。


だけど──忘れてはいけない。

獣王は家を壊し、畑を荒らし、その被害は甚大なものだったのだ。


どうすればいいんだろう。

どうしたらいいんだろう。


そんなことをぐるぐる考えていると、僅かな沈黙の後、グレイが言った。


「……それは、既に獣王としての力もない。その自覚も、もうないんじゃないか」


「……ええ」


「だから……そうだな。俺たちが口外しなければ、これが獣王とは誰も気付かないはずだ」


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