表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務  作者: ごろごろみかん。
アデライン・アシュトンの矜恃 〈後編〉
32/46

32.ここにいて欲しい


「分かった。ひとまず、その件に関しては俺に考えがある」


「考え……?」


グレイは私の言葉に頷くと、言った。


「まずは、アシュトン伯爵夫妻への挨拶が先だ。婚約を整えない限りは、介入のしようがないからな」


「……迷惑をかけてしまっているわね。ごめんなさい」


グレイにこの契約婚を提案した理由は、もう二度と、婚約を理由に振り回されたくないから。


それなのに今、私自身が彼を振り回してしまっている。

これでは、本末転倒というか、彼からしたら話が違う、となるだろう。


申し訳なさを感じて言うと、グレイが首を傾げた。

さらりと、彼の白髪が肩に流れる。


「迷惑だとは思っていない」


グレイはそう言ってから、少し考え込むように黙り込んだ後、言った。


「俺は、自分のためにやっているに過ぎないからな。アデライン・アシュトン」


彼は、私の名を呼んだ。

グレイを見ると、彼はハッキリと言った。


「俺はきみに、ここにいて欲しい」


「え……」


端的な言葉に、私は目を見開く。


ここにいて欲しい……という言葉は、まるで。

なんと言うか──聞きようによっては、口説き文句にも聞こえるのだけれど。


いや、グレイに限ってそれは無い、というのは分かっている。


だけど、彼のハッキリとした物言いは、社交界で恋の駆け引きや、言葉遊びを聞いている身としては、面食らってしまうのだ。


グレイは、目を見開く私を見て、気の抜けた笑みを見せた。


「──」


珍しいこともあったのものだわ……,


グレイの笑ったところなんて、久しぶりに見た。


彼は基本、表情があまり変わらない。

笑ったところなど、この三年間、片手の数で数える程度しか見たことがない。


様々な驚きが重なり、瞬きを繰り返す私にグレイが言った。


「きみは、俺にとってかけがえのない学友だ。きみをここで手放すのは惜しい。それに、エーデルでは、きみのしたいことは出来ないんじゃないか?」


「…………」


私は、グレイの言葉に息を呑む。


そして、それは確かにその通りだった。

私は視線を下げ、静かに返答する。


「……そうね。エーデルにも魔法学の学び舎はあるらしいわ。だけど、私の目的は魔法学(それ)だけではないもの」


グレイは、私の言葉に満足そうに微笑んだ。


本当に、珍しいこともあるものだ。

彼がこんなに笑うなんて。


「知っている。だから、きみはこの国にいた方がいい。いや、いるべきだ。だから俺も、きみに手を貸す」


「……ありがとう、グレイ」


感謝を示すと、グレイはひとつ頷いた。


──それから、また、普段通りの無表情に戻った。

驚くべき変化である。


(笑うと、とても優しげに見えるんだけど……)


だけど彼は社交界でも、あまり──いえ、滅多に笑わない。


だから、その氷のような美貌も相まって、とても冷たく見えてしまうのだ。

その冷たく感じる容姿が、彼の吸血鬼の噂に拍車をかけているのだと私は思っている。


グレイはまつ毛をふせ、言った。


「……ああ、それと、アデライン・アシュトン」


「何?」


「アンドリュー・ロッドフォードと、メアリー・エムルズ、そして王女殿下の三名について、報告だ」


その名前に、私は瞬いた。


(報告、ということは何かあったのかしら……?)


そう思いながら、私はグレイの言葉の続きを待った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
グレイの恋愛がまだなってない好意にいいですねぇ♪ニマニマしちゃう!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ