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【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務  作者: ごろごろみかん。
アデライン・アシュトンの矜恃 〈中編〉
27/46

27.できることなら、もう恋なんて


「ますます意味がわかりませんわ!!」


思わず、私は叫ぶように言っていた。


「順番を整理させてくださいませ。まず、王女殿下はグレイが好きだというのなら、なぜアンドリューと懇意に?それに──確か、彼女付きの近衛になったのは、王女殿下たっての希望だったと聞いております。王女殿下は、アンドリューにも気があったのではありませんか?」


怒涛の勢いで質問すると、王太子殿下はうんうん、と腕を組んで頷いた。

それから私を見て、彼はあっさり答えた。


「あなたが嫌いだったからだろうね」


「……!?」


(は、はぁ……!?!?)


私が、嫌いだから……アンドリューとも関係を持った?

グレイが好きなのに……!?


(り、理解不能……だわ……)


座っていなければ、よろり、とふらついていたことだろう。

混乱と困惑で。


絶句する私に、王太子殿下が困ったように言った。


「いやぁ、女性は難しいね」


「彼女を女性の一般像にしないでくださいませ!!」


女性が全員、彼女と同じ思考回路だと思われてはたまらない。


私の抗議に、王太子殿下は唸るように呟いた。


「そうだね。ジェニファーが特殊なんだ……」


打ちひしがれたようにも見えるその様子に私は、若干戸惑いを覚える。


(もしかしてこの方、もう酔ってないかしら……?)


それはともかくとして。

私は頭の痛い思いだった。


だって、それなら、よ?

もし、王太子殿下の言う通りなら──


(私、完全なとばっちりじゃない……?)


グレイと特別親しかったわけでもない。

それなのに、嫉妬の矛先にされ、あまつさえ婚約者まで奪われて……?

ちょっと、頭が追いつかない。


私が黙り込んで、この衝撃をどうにかしようとしていると、そこでグレイが口を開いた。


「俺が原因か」


それが、どこか納得を含むような声音だったので、私は思わず叫んでいた。


「いや、あなたも被害者でしょう!」


もう先程から、淑やかさとはかけ離れた姿ばかり見せているような気がしてならない。


だけどこれは!!

叫んでしまうでしょう!!


もう先程から驚きの連続だもの……!

やっぱり、理解不能だわ、あの王女!


私の言葉に、グレイは脱力したようにため息を吐いた。


「よく分からんな。恋愛(それ)はそんなに大事か?」


「グレイは初恋すらまだだもんねぇ」


「…………えっ?」


王太子殿下の言葉に、私は驚きに目を見開いた。

彼の言葉に、グレイはワイングラスを煽ると、若干ムッとしたように答えた。


「なんだ、悪いか?」


「悪いとは言ってないが、変わってるとは思うよ」


「そうか。そんなの今更だろう」


そのまま、グレイはカナッペに手を伸ばし、それを口に放り込んだ。

その流れを見ながら、私は思わず、グレイに尋ねていた。


「あなた、恋愛をしたことがないの?」


「……ああ」


僅かに沈黙があったのは、彼なりに思うところがあるのだろうか。

いや、それよりも──


(い、意外すぎるわ……!いや、この場合、予想通りなのかしら?)


混乱しながら、私は考えた。


確かに、恋に夢中になるグレイは想像できない。

彼は、私と同じように魔獣学にその人生を注いでいるようなひとだもの。

恋より魔獣学、といったところなのかもしれない。

それでも、相当な衝撃を覚えた。

ちなみに、グレイは私と同じ十八歳である。


グレイは、淡々と言葉を続けた。


「この先、その感情を知ろうが知るまいが、俺はどちらでも良い。恋だの愛だのでバカ騒ぎしてるやつらはどうかと思うが、そもそもの話、俺にはその手の話に興味が無いんだよ」


バッサリとした言い方は、確かに彼らしい。

彼らしいのだけれど──その言葉を聞いて私は納得していた。


『恋だの愛だのでバカ騒ぎしてるやつらはどうかと思うが』


(確かに、彼の言う通りだわ)


恋愛(くだらない)感情に振り回されるのって、本当にばからしいもの。


アンドリューに恋をして、裏切られて、コケにされて。

王女殿下の恋に振り回されて、私は自分の恋の愚かさを知った。


できることなら、もう恋なんて──。


そこまで考えた時、ふと、私の頭の中に天啓のように閃いたことがあった。


「──」


その考えに思わず、目を見開いた。


王太子殿下とグレイは私に構わず、会話を続けている。

話題は、いつの間にか王女殿下から今年復活するとされている獣王に変わっていた。


「どうかなぁ。僕としては、復活の可能性は半々だと思うね」


「意外だな。きみは、その手の話は信じないと思っていた」


「これでも次期王だからね。あらゆる可能性は視野に入れておくよ。それを踏まえて、尋ねるけれど。グレイ。きみ、獣王が復活したらどうする?きみはその時に備えて、魔獣学の研究をしているんだろ?」


ふたりの会話を聞きながら、私は先程思いついた案を、静かに考え込む。

グラスを、両手で持ちながら。


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― 新着の感想 ―
結果論だけど婚約者の本性が知れたから王女には感謝してもいいかもw
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