26.ちょっとよく分からないわ
「──」
思わず、目を見開いた。
(王女殿下は、グレイが好き……?)
だから、私に嫉妬……?
「……?……??」
(ちょっと……よく、分からないわ)
もし、グレイが好きならアンドリューと関係を持った理由がわからない。
それに、王女殿下は不特定多数の男性と遊んでいたのでしょう?
(本当に好きなひとがいるならそんなこと……するかしら?)
それに、そもそもの話。
何度も繰り返すようだが、私とグレイはそんなに親しくない。
魔法学院の同期で、同時期に卒業したというだけ。
そこに、特別な関係性はない。
(当然だわ)
だって私にも、グレイにも、婚約者がいたのだから。
困惑しているのは、恐らくグレイもだろう。
そう思って、ちらりと彼を見ると意外なことに、グレイはどこか納得している様子だった。
彼はまつ毛を伏せ、言った。
「なるほど。確かに、筋は通っている」
「ええ!?」
「ということは覚えがあるのか?」
王太子殿下がグレイに尋ねる。
グレイは思い出すように視線を下げた。
それから、顎元に手を置いて、記憶を辿るようにゆっくり話し出す。
「……いや、その可能性もある、と思っただけだ。アデライン・アシュトン」
「え、ええ」
名前を呼ばれたので、瞬きながら返事をする。
グレイは私に視線を移すと、言葉を続けた。
「騒ぎの前。俺は、『アンドリュー・ロッドフォードとアデライン・アシュトンは親密だ、と王女殿下に伝えたが、彼女の反応は薄かった』ときみに言ったな」
「ええ。そう言っていたわね……」
てっきり、何度も聞かせられたから聞き飽きたのだろうと思っていた。
(……あら?)
だけどその時、気がついた。
そういえば、あの時、グレイは何か言いかけていたような──
『俺も、やれることはやっておいたさ。だけど、きみと彼の話を吹き込んだところで彼女の反応は薄かった。むしろ──』
グレイがその続きを引き継ぐように言った。
「むしろ彼女は、俺ときみが親しいのか、と聞いてきたんだ。それが、少し気になった。……とはいえ、わざわざ言うほどでもないことかと思ったから先程は伝えなかったんだが」
「そうだったの……」
(王女殿下が、グレイを……!?)
やはり、ピンとこない。
だって、それなら、よ?
「どうして、王女殿下はアンドリューと関係を持っていたのかしら。彼女のお相手はひとりではなかったのでしょう?」
戸惑いながら疑問を口にすると、王太子殿下は困惑したように私を見た。
「ええ?それ、誰から聞いたんだい?アデライン嬢」
王太子殿下の反応に私は戸惑いながら答えた。
「アンドリューですわ」
「……そう」
王太子殿下はぽつりと言った後、言葉を続けた。
「彼が誤解したのか、あるいは彼女が見栄を張ったのか。それは分からないけれど」
「──」
王太子殿下の言葉に、私は息を呑んだ。
だって、今の彼の言葉はまるで──。
私の推測を肯定するように、王太子殿下は言った。困ったように。
「彼女がアンドリューにどう言ったかは分からないけれどね。……彼女は、アンドリュー以外と関係を持っていないよ」