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【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務  作者: ごろごろみかん。
アデライン・アシュトンの矜恃 〈中編〉
23/46

23.黙るから、気まずく感じるのよ。

「どうして、お父様……!!」


悲痛な声を上げる王女殿下を連れて、国王陛下は回廊を後にした。

王女殿下は場を辞することを相当嫌がっていたが、国王陛下に引きずられるようにして離れていった。


そして、残るのが──


「アンドリュー!あなたは私を選ぶんでしょうね!?あんな、王家の威光を陰らせるような女なんて選ばないでしょう!?」


「メアリー……!もういい加減にしてくれ!!」


メアリーは、王女殿下がいなくなってこれ幸いと言わんばかりにアンドリューに詰め寄っていた。

アンドリューは混乱と苛立ちからか、声を荒らげている。

いつもの優男の仮面が外れている。


巻き込まれてはたまらないので、私とグレイはアイコンタクトを交わし、互いに軽く頷いた。


(詳細は、後日)


ひとまず今回は──ミッション達成、ということで帰りましょう。


その時、ふと、私は先程のことを思い出していた。


(……そういえば有耶無耶になってしまったけれど。グレイのあの言葉の意味が気になるわ……)


気になるが、しかしそれは今度会った時でもいいだろう。


お母様は事の顛末に満足したのか、何度か頷いている。

伯父様も、これが妥協点だったのだろう。

納得しているようだ。


そして、伯父様がお母様に声をかけた。


「ユーリカ。せっかく久しぶりに会えたんだ、マリアンヌも誘って少し話そうか」


「……いいわ、お兄様。わたくし、なにか飲みたい気分よ」


お母様の声が聞こえてくる。


その時。


「ユーリカ……!!」


あまりにも遅すぎるくらい遅く、お父様がこの場に現れた。


(今……!?)


もう全部終わっちゃったわよ……!!


どうしてこう、お父様はタイミングが悪いのか。


伯父様は、お父様の存在を完全に無視した。

お母様は、ちらりと視線を向けただけで何も答えなかった。


完全な、無視である。

その反応にお父様は、ピシッ……と石のように固まってしまった。

凍りついたお父様を無視して、お母様と伯父様は早々に場を離れてしまう。


「…………」


ひとり残されたお父様の後ろ姿は、哀愁が漂っている。


(可哀想だけれど……でもこれは、お父様とお母様の問題)


娘といえど、私が口を挟んでいいことではない。

それに私に出来ることは既にやっているので、後はお父様次第だ。



だんだん、ひとが帰り始めたところで周囲の観客の興味も薄れたのだろう。


回廊は、徐々に人通りが少なくなっていった。


元々、ここは休憩室の手前だ。

本来、こんなにひとが詰め寄せることはまず有り得ない。

こんなことはもう二度とないだろう。


観客も含め、ひとがいなくなってきた。


(私も、そろそろ帰るとしましょうか)



時刻は、まだ日付が変わる前。

今急いで帰れば、寝る前のアンジーに会えるかもしれない。

騒ぎがあったから、今日は本当に疲弊した。


(早く私の天使(アンジー)に会いたいわ……)


アンジーを貶めた王女殿下に借りは返した。


正直、まだ王女殿下に思うところはあるものの──ひとまず、これで満足しなければならないのでしょうね。

これ以上は、私刑になってしまうもの。


(とにかく、今日は疲れたわ……)


ずっと気を張っていたし、何がどう転ぶかも分からなかったもの。

何とか、予定通りに事を運べた。


安堵の息を零した──まさにその時。

とん、と誰かに肩を叩かれた。


「──っ……!?」


気が緩んでいたので、飛び上がるほど驚いた。

驚いて振り向くと、そこには王太子殿下がいた。

彼は酒を煽る仕草を見せ、私に片目を瞑って見せた。


「お疲れ様。せっかくなんだ、今から祝勝会をしようじゃないか」







王太子殿下の誘いを受けた私とグレイは、城内の奥まった場所にある王族専用区域の客室に案内された。

室内に入ると、私とグレイはそれぞれソファの対面に座る。

王太子殿下は、従僕に指示を出してくると言って、部屋を出ていった。


私はグレイと顔を見合せて──ゆっくり、ため息を吐いた。


「っはぁあ~~~……!とっても疲れたわ……!」


許されるなら、このままこのふわふわのソファに寝転んでしまいたいくらい。

今になって、どっと疲れが来ている。

私の様子に、グレイが肩を竦めて答えた。


「お疲れ様。プラン成功おめでとう」


「他人事のようだけど、あなたもバッチリ当事者なのよ?」


その時、私は彼に聞こうと思っていたことを思い出す。


次、会った時にでも尋ねようと思ったのだけど──。


「ねえ、グレイ」


「何だ?」


「あなた……。──あの」


しかし、そこまで言ってあとの言葉が続かない。


(だって……!!なんて、聞けばいいのかしら……!?)


聞こうと思っていたけれど、いざ言葉にすると何だかとても面映ゆい。


胸がくすぐったい、というか。

そわそわする、というか。


『あなたは私を好きだと言ったけれど、それってどういう意味?』


そう、聞く?

でもそれってちょっと……直球過ぎないかしら!?


それに、もしかしたら彼にはなんてことない一言だったのかもしれない。


今も、いつもと同じ様子だもの。

もしあれが愛の告白めいた言葉だったのなら、きっとグレイだっていつも通りではいられない……はずよね?そうよね??


(……私の勘違い?)


あるいは、聞き間違い……?


一瞬その可能性が頭をかけたが、すぐに私は否定した。


いや、そんなはずはないわ。

だってあんなに近くにいたのよ。

聞き間違えるはずがないもの。


ひとり、唸っていると正面に座るグレイが、訝しげに私を見た。


「アデライン・アシュトン?」


「そう!!それよ!!」


思わず、私は叫ぶように言った。


「あなた、いつもはアデライン、とか、アデライン・アシュトンと呼ぶのに、どうしてあの時──さっきは、私をアデルと呼んだの?それに、好きってどういう意味……!?」


ええい、ままよ!!


黙るから、気まずく感じるのよ。

だったら勢いで言ってしまった方がいいに決まってるわ!!


そういう思考回路の元、私は疑問を全て放り込むことにした。

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