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【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務  作者: ごろごろみかん。
アデライン・アシュトンの矜恃 〈中編〉
19/46

19.女優顔負けの熱演


「残念だけど、きみたちの会話は全部聞いていたよ。お前の言葉が嘘だということは、他の誰でもない僕が知っている」


王太子殿下が、一歩前に出る。

王女殿下は、口元を押え、悲鳴じみた声を出す。


「!!お兄様……」


「諦めなさい。往生際が悪い。仮にも一国の王女だというなら、みっともない真似はするな」


「な──」


王女殿下がわなわな、と震えた時。

背後から場を威圧するような、低い声が聞こえた。


「何事か!」


(この声は──)


振り返ると、そこには予想外、いや、この場合は予想通り、かしら。

国王陛下がいらっしゃった。


「お父様……」


王女殿下が呆然とした声を出す。


いつの間にか、秘匿されるべき休憩室の手前。

その回廊は、人だかりで溢れていた。

これでは、ホールとこちら、どっちが会場かわからない。

参加者のほとんどが、この場にいるだろうということは、その人の多さで見て取れた。


「──っ……」


王女殿下はくちびるを震わせて、その場に現れた国王を見た。


国王陛下も、場を騒がしている張本人が、自分の娘だと気が付いたのだろう。

おや?と眉を上げた後、続けて王太子殿下を見た。


「エリック、これはどういうことだ?」


「違うの!!お父様、話を聞いて。私、この男に酷いことをされたのよ……!!」


王女殿下の叫ぶ声に、場がざわめいた。


王太子殿下の言う通り、往生際が悪い、というか。

是が非でも非を認めない、という意志の強さを感じる。


「わたっ……私、嫌だって言ったのに……!それなのに、このひとが……!このひとが、わぁああっ」


王女殿下は、そのまま顔を伏せて泣き出してしまった。


それに、思わず目を見開いた。

その言葉の内容に、ではない。


こんなにすぐ号泣できる王女殿下の精神に面食らった。


矜恃(プライド)とか、ないの……!?)


あまりにも哀れぶったその泣き声に、私はたじろいだ。

ここまでするの!?という思いと、なりふり構っていられない様子の王女殿下に、端的に言うなら引いていた。


彼女の声は震えていた。切実な声色だ。


自分の体を守るように抱きしめ、泣いている様子は、何も知らない人が見たら、胸を痛める光景だろう。


王女殿下の声にその場がざわつき、アンドリューが焦ったように言った。


「ジェニファー……!?何を」


(あ、失言──)


私がそう思った直後、火を噴くように国王が吼えた。


ジェニファー(・・・・・・)、だと!?貴様、自分の立場がわかっているのか!」


「いや、違っ……。王女殿下とは、同意の上です!いえ、そもそも、最初に誘ってきたのは──」


「伯父様、この女はとんでもない悪女(ファム・ファタール)よ!!さっき、ここで熱烈なキスをしていたわ。見ているこちらが恥ずかしくなるくらい、熱いやつをね!!」


「何……!?」


国王陛下が唸る。

その反応を見るに、国王陛下はジェニファーの火遊びを知らなかったようだ。


メアリーの言葉に震え、泣き出したのは王女殿下。


「違うわ!!私、嫌だったの。本当、本当よ、お父様!信じて……!」


「父上、私も見ていましたが彼女──エムルズ公爵令嬢の言う通りです。私の妹は婚約者がいるにも関わらず、あろうことか自身の騎士を誘惑してみせたのです。彼にも、婚約者がいるというのにね」


そこで、王太子殿下が割って入る。

王太子殿下は、そのまま未だに泣いている王女殿下に向かって、言った。


「ジェニファー、猿芝居はやめなさい。そんなことしても、既にあなたの名は地中深くまで失墜している」


国王陛下は、もはや何が真実で何が偽りなのか、判断できなかったのだろう。


「…………」


しばらくの間彼は沈黙していたが、やがてその場に響き渡る低い声で言った。


「わかった」


「お父様……!!」


王女殿下が、悲鳴のような声を出す。


回廊は、私たちを中心にドーナツ状に広がりを見せていた。

本日、夜会に参加している貴族の大半がここにいるようだ。


遠目からうかがうようにこちらを見ながら、夫人同士で何か話し合っているのが、漣のようにこちらに聞こえてくる。



「……とうに?」


「まさか。……で……だもの」



途切れ途切れに彼らの会話が聞こえてくるが、何を話しているかまでは分からない。

恐らく、王女殿下の言葉が真実かどうか話しているのだろう。

会話には、私とグレイの名前もところどころ聞こえてきた。


針のむしろのような有様に、王女殿下は国王陛下に抱きつき、騒いだ。

そう、騒いだのだ。もはやそうとしか形容できない。


「ひっう、うああああ!!酷い。酷いわ!!私、被害者なのよ!?こんなことって……こんなことって、ないわ!!」


「はぁ!?あっきれる。この期に及んで、そういうこと言うのね!?あなた」


「あなたは、彼の共犯者でしょ!?共謀して私を、貶めようと……!」


「何ですって!?」


王女殿下とメアリーが口論を始めそうになった、ところで。


ゴホン、と大きな咳払いが聞こえてきた。

見れば、国王陛下が厳しい顔をして、王女殿下を見ていた。


そして、国王陛下は周囲を見渡すと、威圧する声で、言った。


「皆の者、ここで見たことは一切口外しないように」


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