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【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務  作者: ごろごろみかん。
アデライン・アシュトンの矜恃 〈中編〉
18/46

18.何言ってるのかしら、このひと?


エムルズ公爵夫人は、私の母の妹にあたる。

彼女はお母様同様、エーデル国王女だったひとだ。


元々エムルズ公爵──臣籍降下する前は第二王子だった彼は、政略結婚でエーデルの姫を娶った。


それが、私のお母様の妹、マリアンヌである。


ちなみに、その政略結婚をきっかけに、お父様は当時王女だったお母様に一目惚れしたらしいのだけれど──今は置いておくとして。


エムルズ公爵には、叔母様以外との娘がいる。

愛人との子供で、その娘の名前が


「メアリー!彼女は王女殿下であらせられるのだぞ!?いくらあなたでも、そのような罵声は見過ごせない」


メアリー・エムルズ。

私と血の繋がりは無いが、私の従姉妹である。

メアリーはアンドリューの言葉にハッと鼻で笑い飛ばした。


いくらあなたでも(・・・・・・・・)?アンドリュー。あなた誰にものを言っているの?私のお父様は、王弟殿下であらせられるのよ。あなたの指図は受けません」


「王弟……エムルズ公爵の娘だというの?でもそんなはずないわ。エムルズ公爵に娘はいないはず」


王女殿下は震えた声を出した。

それが演技なのか、本心からかは分からないけれど、彼女はしっかりとアンドリューの服の裾を摘み、彼の後ろに隠れている。


顔だけで出す形で、王女殿下はメアリーと向かい合っていた。

王女殿下の言葉に、メアリーが大仰に頷いた。


「ええそうね。夫人との間に娘さんはいないわ。私は、公爵閣下が愛人に産ませた子です」


「愛人……」


「あなたとよく似た立場でしょう?私たち、従姉妹に当たりましてよ」


メアリーが腰に手を当て、胸を張るようにして言った。


その時、遠くから人の足音が聞こえてきた。

見れば、いつの間にか人が集まってきている。


先程のメアリーの声の大きさが原因だろう。

しかし、メアリーはそれどころではないのかまたしても、高らかに宣言するように言った。


「それで、アンドリュー!!どういうつもりなのか、私は聞いているのよ。私にも王女にも手を出しておいて、あなたの本当の心は一体どこにあるのかしら!?」


「メアリー……!」


アンドリューも、人だかりに気がついたのだろう。

彼は今にも逃げ出したい気持ちなのか、既に腰が引けている。


王女殿下はいち早く状況の不利を感じ取ったのだろう。

彼女は後ろの部屋に視線を向けると、アンドリューから離れてその部屋に駆け込もうと……



したところで。


「お待ちになって、王女殿下」


私は、場に出ていった。

王太子殿下にもグレイにもアイコンタクトを出す前に出てしまったけれど。


まあ、もういい頃合いでしょう。


遮蔽薬の効能だって、さほど長く設定していない。

しっかりと時間は計っていないものの、そろそろ効果が切れる頃合だっただろう。

それもあって、ちょうど良いタイミングだと思ったのだ。


思わぬ第三者の乱入(ハプニング)だが、これは絶好の好機(チャンス)だ。

逃す手はない。


何より、このままだと王女殿下が逃げてしまいかねない。ここで彼女を逃がしたら、全てが有耶無耶になってしまう可能性がある。


それだけは、許さない。


(逃がさないわよ、王女殿下)


しっかり、対価は払っていただかないとね。


私の婚約者と不貞をしていた代償……なんかではないわ。

そんなものはどうでもいいの。


そんなことよりも──

卑怯な手を使ってアンジーを貶めた、その報いを、受けていただくわ。


私はにこり、と微笑みを浮かべた。



「──」


「アデル!?」


「……」


私が声をかけたことで、三人とも私たちに気が付いた。

彼女たちは、それぞれ三者三様の反応を見せた。


アンドリューは私に気が付くと愕然と目を剥いた。

王女殿下は呆然としている。

メアリーは、邪魔が入ったと思っているのだろう。睨みつけるような、キツい視線をいただいた。


「アデル……」


呆然と、王女殿下が私の名を呼んだ。


──その直後。

いきなり、王女殿下は、顔を覆い隠してその場に勢いよく蹲ってしまった。


「きゃああああ!!」


「!?」


突然の悲鳴に、私も、王太子殿下も、そしてグレイも。

アンドリューは青ざめた顔で、メアリーは今度は何をするつもり?といった様子で王女殿下を見る。


王女殿下は、蹲り小刻みに震えながら、私たちが思ってもみないことを叫んだ。


「こ、この男が無理矢理……!!私、嫌って言ったのに……!!助けて!!」



「…………」

「…………」

「…………」

「…………」



この時、場の人間──主に、私と王太子殿下、グレイ、そしてメアリーの四人の気持ちはひとつになった。


それは。


(何言ってるのかしら、このひと?)


白けた感情が、私たちを取り囲んだ。



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