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【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務  作者: ごろごろみかん。
アデライン・アシュトンの矜恃 〈中編〉
17/46

17.信じた私が馬鹿だった。



(見えたわ)


ふたりは休憩室の回廊の前で抱き合っていた。

何か話しているようだが、こちらまで聞こえてこない。


どうせ、愛を語らうか、私の悪口でも言っているのでしょう。


「──!……!」


王女殿下は必死にアンドリューに何か言っているようだ。


さらにもう少し近付くと、ふたりの会話が聞こえてくるようになった。


「どうしてそんなことを言うの!?アデルとは婚約破棄しないだなんて!!」


「声が大きい。抑えてくれ、ジェニファー。分かってくれないか?僕はアデルと結婚しなければならない。それが、貴族の責務だからだ」


「だから!私が手伝うと言っているの。私はいつでもOKだわ!証拠の偽造も、社交界に流布する予定の噂だって、数人仕掛け人に宛があるわ」


──!?


思わず、足を止めそうになった。


(証拠の偽造に、社交界に流布する予定の噂?)


思わず王太子殿下を見ると、彼は厳しい顔をしていた。


腹違いとはいえ、王太子にとって王女殿下は妹にあたる。


『あなたの妹君。とんでもない計画を企ててくださっているようですわよ』の意を込めて王太子殿下を見つめる。


王太子殿下は私を見ると目を細めた。

すっと、彼の片手が縦に持ち上がる。


すまない、という意思表示らしい。


遮断薬を摂取していることもあり、アンドリューと王女殿下は私たちに気がついていないようだ。


「どうして!?どうしてよ……!!」


「落ち着いて、ジェニファー」


「あなた、本当はアデルのことが好きなんじゃないの!?だから婚約破棄を嫌がるのだわ!」


「そんな馬鹿なことがあるはずがないだろう。僕は、あの手の女は苦手だ。賢しらで、鼻につく。愛想がなくて、可愛げに欠ける。顔は多少見られるが、それだけだ。あなたには遠く及ばないさ。僕の好みは、あなたのように可憐な花のような女性だ、ジェニファー」


「嘘!!もう信じられない……!!」


「ジェニファー……」




「…………」


ふたりの会話は、もちろんグレイや王太子殿下にも聞こえている。


(賢しらで、鼻につく、ねぇ……)


それに重ねて、愛想がなくて可愛げに欠ける……だったしら。


ふ~~ん?

へ~~~え??

……そう。


(それはそれは──あなた好みの女性になれず、申し訳なかったわね……!!)


ぐっと、強く拳を握る。


賢しらげ──というのは、恐らく、私が魔法学に強い興味を抱いていること。

そして、魔法学院での成績を言っているのだろう。


だけど、まさか婚約者にそんなふうに思われているなんて、思いもしなかった。


『僕は、魔法学に一生懸命なアデルが好きだよ』


……あなたが、そう言ったのに。

その言葉があったから、私は魔法学院への入学を決めたのに──。


信じてしまった、私が馬鹿だったの。

盲信した、私が愚かだったの。


アンドリューの言葉は、全部嘘。

何もかも嘘で、虚構で塗り固められている。


信じた私が馬鹿だった。

そんな思いでふたりを見ていると、ふと、小声で呼ばれた。


「アデル」


「何──」


その時、私を呼んだのがグレイであることに気が付く。


目を瞬いた。

グレイは、私をアデラインか、アデライン・アシュトンのどちらかで呼ぶ。

愛称で呼ばれたのは初めてだ。


私がふたりから視線を外しても、グレイは彼らから目を逸らさなかった。


だけど私が彼を見ると、ちらりと一瞬、私に視線を向ける。


「俺は、好きだよ」


「は……」


思いがけない言葉に、目を見開く。



──と、その時、王太子殿下が小声で囁いた。


「話は後だ、行こう」


その端的な言葉に、私も意識をふたりに向ける。


ちょうどその時。

アンドリューは王女殿下を強く抱き締めた上で、奪うような口付けを交わしていた。

感情が昂っているのかなんなのか、とにかく激しい。


(え?……え!?)


ふたりのキスシーンを見ても、頭の中はそれどころではなかった。


(今のって……。え!?)


混乱しているうちに、ふたりのキスはますます激しくなった。


何度も角度を変えて口付けを交わす彼らに、我に返る。

一瞬私は何のためにここにいるのだっけ……と呆然となったが、すぐに目的を思い出した。


王太子殿下、グレイと同様に立ち上がった、ところで。




「どういうことですか!?!?」


その場の空気を一変させる程大きな、そして高い声が響き渡った。


「……!?」


驚いてそちらを見る。

すると、そこにはいつからいたのか、純白のドレスに身を包んだ、緑の髪の女性がいた。

年は、私よりいくつか下だろう。

長い髪をサイドに纏めて編んだ髪型は、年頃の令嬢らしく可愛らしい。


彼女は、その瞳いっぱいに涙をため、王女殿下とアンドリューを見ていた。


「アンドリュー様!!話が違うのではありません?」


「は?メアリー!?どうしてここに」


「どうしてもこうしても、アンドリュー様がよその女に心を預けているとお聞きしたので、慌てて来たのですわ!どういうことかご説明頂けますか!?」


「ちょ、声が大きい……!!」


アンドリューは相当焦っているようで、今しがたまで熱烈なキスを交わしていた王女殿下の肩を押し、離れた。

それに、王女殿下が怪訝そうに眉を寄せる。


「どなた?あなた……」


「呆れた!王女だというのに、私が誰かも分からないのですか!?王女失格なのでは?愛人の娘といえど、社交界の面々の顔は覚えておくべきでは?少なくとも、王子殿下はそのように振る舞っておられますわ!」


「な……!!」


こ──れは、どういうこと、なのかしら?


思わず、問うようにグレイを見る。

しかし、グレイの視線の先は回廊で揉めている三人ではなく、王太子殿下そのひとだった。

グレイは声を潜めて、王太子殿下に言った。


「きみの仕業か?」


グレイの言葉に、王太子殿下が肩を竦める。


「まあね。どうせなら、悪性腫瘍は一度に切除したい。とはいえ、ここまで騒ぎ立てられるとは思わなかったなぁ、僕も」


疲労を覚えたように、王太子殿下は言った。

その間にも、回廊の三人の会話は続く。


「説明を願えますか!?」


詰め寄る緑色の髪の女性。


(彼女、どこかで──)


記憶を探るより先に、アンドリューが怒鳴る。


「だから声を抑えろと……!」


「あら、あなたが私に命令するの?あなた、立場をお分かり!?」


「ひっ……怖いわ、アンドリュー。この怖いひとは誰?」


王女殿下が怯え、アンドリューに縋り付く。

その様子が癪に触ったのだろう。緑髪の女性が、鼻で笑った。


「怖いのはあなたでしょ!このビッチ!」


「ビッ……」


王女殿下があまりの言葉に息を呑む。

その瞬間、私はようやくその女性の正体に思い至った。


(思い出したわ……!!)


彼女、エムルズ公爵家のご令嬢……!!


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― 新着の感想 ―
ここまで、貴族時代風にきていて、「ビッチ」は無いんじゃ?興ざめ
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