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【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務  作者: ごろごろみかん。
アデライン・アシュトンの矜恃 〈中編〉
16/46

16.見逃してくださいませ

「準備は整っているよ。こちらに」


言葉短に言う王太子殿下に私とグレイは互いに目を合わせた。


(どうやら、獲物は無事ひっかかってくれたようね)





王太子殿下先導の下、ホールを抜け、バルコニーに出る。


そのまま、バルコニーを降りて王太子殿下は庭に降りると、裏手に回った。

この先は──


「う、嘘でしょ……?」


さすがに、これは予想外。

思わず顔をひきつらせると、グレイも同様に肩を竦めた。


「きみのプランは大成功に終わりそうだな」


「出血大サービス、ってわけ?想像以上の効果があったってことかしら」


庭の裏手──その回廊の先には、夜会で疲れた人のための休憩室が用意されている。

とは言っても、休憩室なんて名ばかりで、実際は火遊びを楽しむ人々のための場だったり……するのよね。


貴族なんて、大半は暇を持て余しているもの。

享楽的で刹那的な生き物だもの。


仕方ないといえば仕方ないのかもしれないけど、不特定多数と遊ぶことだけは、どうにも理解できない。

私向きの分野ではない、ということなのでしょうね。


ひとり納得していると、先を歩いていた王太子殿下がふと振り向いた。


彼はさらに声量を落とし、言った。


「二人とも静かに。そろそろ到着する」


──ふたりは、この先にいる。




このプランを立てるにあたり、必要なのは城の協力者と、そしてタイミングだった。


王女殿下とアンドリューを揺さぶりにかけ、王家主催の夜会で逢瀬を交わすよう誘導するまでは、私ひとりでも辛うじて達成可能だろう。


だけどその先。

アンドリューと王女殿下の密会の場所を突き止めるためには、城の協力者が必要不可欠だと思うの。


そして、次にタイミング、だけれど。

それは、ふたりが愛を語らっている、まさにその時、というタイミングでなければならない。

これに関しては、私に考えがある。


だけど、逢瀬の場を突き止めるのは私ひとりでは難しい。この広大な城の中から短時間で見つけ出すのは至難の業だ。


その点、王太子殿下なら、城は我が家だ。

彼なら思うように行動できるだろう。


そう思って、私は王太子殿下をこの計画に引き込んだのだった。


(だけどグレイも、私と似たような計画を立てていたとは知らなかったわ……)


私のプランを説明した後、彼に尋ねると、なんと彼も彼でふたりの逢瀬の場を突き止めようとしていたらしい。

そして、その場で責任追及するつもりだった、とのことだった。


しかし、彼は場を突き止めた後の対応で躓いていた。


何せ、逢瀬の場に潜入するには、どうしたって足音や気配を殺さなければならない。


絶好のタイミングを掴むより先に、こちらに気付かれてしまえば、全てが水の泡。

彼らは何としても誤魔化すだろうし、言いくるめようとしてくるだろう。


この計画は一度限り。


流石に一回焦れば、次はもう隙を見せないだろう。


だから、一度失敗したらその次はないのだ。


気配と足音を殺す──グレイは魔獣学専攻で実技も習得済みなので、それに関しては難しくない。

だけど、隠れる場所もないところに隠れることはそもそもが不可能だ。

気配を殺すにしても限度がある。

視界に入れば、いやでも気がつかれてしまうものだろう。


──そう、魔法でもない限り。



私は静かに、シャトレーヌに提げたポシェットから目的のものを三つ、取り出した。


「これが、例のやつか?」


グレイの言葉に私は頷いて答えた。


「例のやつ、って言われると怪しく聞こえるけど……。でもそうよ、これが遮断薬。砂糖菓子のようなものだから、すぐに食べ終えると思うわ」


「………………アデライン嬢?これは違法なんじゃないかな」


続けて言ったのは王太子殿下だ。


流石、王太子殿下。

気付かないはずがなかったわね。


私は頷いた。


「特例でお許しいただけませんか?それか、見逃してくださいませ」


「ハッキリ言うねぇ……。全く、僕としては立場上いいよ、とは言えないんだけどね。あなたは僕が思う以上に豪胆な女性(ひと)らしい。流石、グレイと同期なだけあるな」


王太子殿下のお褒めの言葉──と受け取っておきましょう。今は。


その言葉を聞きながら、ひとまず今は見逃されたと受け取ることにして、私は砂糖菓子を口に運んだ。


この砂糖菓子──もとい、遮断効果を練り込んだ魔法水(ポーション)だけれど。


基本的に、魔法水(ポーション)というのはその名の通り、液体のものを指す。

固体、あるいは気体にして作成することは王国法律上禁止されているのだ。


魔法薬は、練り込む魔法によっては危険な代物になる。

気体状の魔法薬を作って公共の場で霧散、なんて暴力行為が起きたら大変なことになるので、そういう法律が設定されているのだ。


(……私も最初は液体で作ろうと思ったのよ?)


でも、ポシェットに入らなかったのだ。

どんなに細く華奢な瓶でも、さすがに三本は無理。

そして、歩く度に瓶の音がしたら、それこそ目立つ。


(作戦どころの話ではなくなってしまうもの)


そういうわけで、違法行為と知りながらも私は固体の魔法水を作成したのだった。


王太子殿下に事前許可を得ようか考えたけれど、彼の立場からして、一個人の、そして私的な問題での固体での魔法水(ポーション)作成を許可する、なんて言えないと思うのよね。


そして、もっと言うなら、弱小貴族(ぽっと出)の令嬢が、王太子殿下とコンタクトがそう簡単に取れるはずがなかった。

取れたとしても、相当周囲は訝しむだろう。


不用意な行動は、計画の破綻を招く可能性がある。

そういう訳もあって、私は独断で決行したのだった。




それに、口に含めばこの証拠は消えるもの。


王太子殿下もグレイも既に食べ終わったようなので、私の有罪を示す証拠はこの世から無くなったことになる。


というわけで、今回の件はノーカウントということで、いいと思うの。


私たちの会話を聞いたグレイが怪訝そうに私を見た。


「違法薬物だと?」


「薬物ではないわ、違法魔法水(ポーション)よ」


「どっちにしろ違法なんじゃないか……」


グレイの突っ込みを無視して、私は王太子殿下に尋ねた。


「ふたりは、こちらに?」


「ああ。もう少し、近づくぞ」


王太子殿下の言葉に、私とグレイは目配せをして、頷いた。

気配と自身が発する音は遮断されるが、それでも全てが消されるわけではない。


大きな物音を立てては気付かれてしまう可能性があるので、私たちは慎重にふたり──アンドリューと王女殿下に近付いた。




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