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【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務  作者: ごろごろみかん。
アデライン・アシュトンの矜恃 〈中編〉
15/46

15.結構、根に持つタイプです




そして、迎えた夜会当日。

予め合流場所を決めていたのもあって、私はすぐグレイと落ち合うことが出来た。

落ち合う、といってももちろん人目のないテラスなどではない。


会場の隅、偶然見つけた、という体でグレイが私に声をかけるのだ。


グレイはグルーバー公爵家の嫡男で、私は歴史の浅い弱小貴族の娘だもの。

私から声をかけると差し障りがあるので、ここはグレイに声をかけてもらう必要がある。


「ごきげんうるわしく。アシュトン伯爵令嬢」


「ごきげんよう、グルーバー卿。ずいぶんお久しぶりですわね。先日の件、なにか進捗でもございましたか?」


ここまでは気持ち声大きめで言うことにする。

私の様子に、グレイも困ったように笑った。


グレイが笑うのは珍しい、が、ここは社交場だ。

彼も、それくらいは取り繕えるということなのだろう。


そそくさと端により、周囲の視線が逸れたことを確認してから、私はそっと彼に尋ねた。

扇で口元を隠して。


「首尾はどう?」


「トラブルは特にない、かな」


「そこは上々、ではないの?」


私はちら、とグレイを見た。



ここまで、私のシナリオ通り。

あれから、私とグレイ、そして巻き込まれた王太子殿下の三人は、ある計画を練り、決行した。


その名も【王家主催の夜会で、不貞現場を抑えてしまおう!】というもの。


捻りがないわね。でも、わかりやすいと思うの、これくらいの方が。


この計画を成功させるために、このひと月、とにかく王女殿下を焚き付けた。

私とアンドリューはラブラブです、という嘘を吹き込んだのだ。

そして、アンドリューには王女殿下が不安定なようだと嘘を吹き込み、逢瀬の場を用意するよう誘導した。


私だけならともかく、グレイも共に協力してくれたので、信ぴょう性は増したことだろう。




先月、私は予定通り14日に王女殿下とお茶会をした。

王女殿下は、前回の件──大聖堂でのことを気にしていたけれど、私は全く気にしていない素振りを見せた。

本心は、別だけれど。


そして、その際、とにかくアンドリューとの仲の良さをアピールしておいたのだ。


『王女殿下の存在なんて全く気にしておりませんわ!!私たち、ラブラブですの!!』と執拗なまでに印象付けておいた。


王女殿下の反応は顕著で、戸惑いを隠せていない様子だった。

その証拠に、彼女が持つティーカップは小刻みに震えていたもの。


グレイにも、王女殿下には

アンドリュー(わた)とアデライン(したち)が円満である』

という嘘を吹き込んでもらった。


そしてアンドリューの方には私が

『王女殿下が私に嫉妬している(・・・・・・)ようだ』

と相談する素振りで伝えておく。

併せて、『王女殿下の悋気に晒されたら怖いから、夜会の日はなるべくそばにいて欲しい』とお願いすることも忘れない。

準備はこれくらいのものだ。


だけどこれが、思った以上の労力を要した。

今夜の王家主催の夜会に間に合わせるため、とにかく私は頑張ったのだ。


(とっ……ても疲れたわ……)


扇で口元を隠しながらも、このひと月の記憶に思いを馳せて、私は思わず遠い目になってしまった。


(思い出すだけで疲労するわ……)


あれ以来、私はアンドリューが絵に書いたようなナルシストにしか見えなくなってしまった。


そう思ってしまったからには、もう今まで通りではいられない。


何せ、彼のキザな振る舞いを目の当たりにする度に、鳥肌が立ってしまう。

寒い。とにかく寒いのよ……。


それを押し隠して微笑むのは、かなりの精神力が必要とされた。


だけど全ては、この婚約を破棄(・・)するため。


(王女殿下、あなたはすっかり忘れていると思うけれど)


私は、忘れていないわ。


あなたが、何を言ったのか。

あなたが、何をしたのか。


まだ言葉の意味が分からないからと言って、アンジーを侮辱したこと。


(ごめんあそばせ、王女殿下。私って結構、根に持つタイプですの)


されたことは、決して、忘れないのよ。


王女殿下に対しては、とにかく、『二度とアンジーに会わせてたまるものですか!』という気持ちが働いた。

そういう意味では、王女相手の方がモチベーションは高かったと言えよう。


──そういうわけで。


このひと月の努力がようやく実る。




しかし、油断は禁物。

まだ、完全に計画は遂行された訳では無いのだから。


気を引き締めたところで、隣のグレイがぽつり、言った。


「俺も、やれることはやっておいたさ。だけど、きみと彼の話を吹き込んだところで彼女の反応は薄かった。むしろ──。いや、とにかくそういう意味では、完璧(パーフェクト)とは言えないだろうな」


意図して、だろう。

グレイは名前を出さなかった。


だけど誰の話をしているかは分かったので私は頷いて答える。


「何回も聞かされて、新鮮さに欠けてしまったのかしら……」


「だとすると、腹の(うち)では相当耐えかねていると見ていいだろうな。それに……きみがここにいる、ということは計画は成功したも同然だろ?」


「……そうね」


答えながら、私はホールを見た。

どんなに探しても、今、私の婚約者とグレイの婚約者はこの場にはいない。


──私の目論見通り、アンドリューは途中で私を放置した。


『ごめんね、王女殿下が呼んでいるから』


そう言って、悪びれもせず私を置いていった。

王女殿下との関係をカミングアウトして、その後、私が受けいれたように見えたから、許されたと思っているのだろう。


本当は、全く、なにひとつ許されていないと言うのに。


詰めが甘いのか、それとも相当、私は馬鹿にされているのか。


(アデル)に大それたことなんて出来るはずがない、と……そう思っているのかしらね)


確かに私は事無かれ主義だ。

口論は苦手。ひとと争うことも苦手。


(だけど、だからといって、(イコール)何をされても許容する、というわけでは、ないのよ?)


アンドリューの不貞予告については、もちろん、笑顔で返したわ。

後はもう、タイミングを待つだけだもの。


そのタイミングを教えてくれるひと、というのが──


「やあ、お待たせ」


私が強制的にこの計画に巻き込んだ、王太子殿下、そのひとである。



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― 新着の感想 ―
エンジェルちゃんを貶められた件は、ちゃんと、お母様には報告したのかな? 全方位から行かないと!
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