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【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務  作者: ごろごろみかん。
アデライン・アシュトンの矜恃 〈中編〉
11/46

11.裏切り者は、誰?



急用が出来た、というのは決して嘘ではない。

あの後、私はアンジーだけアシュトン伯爵邸に返すと、魔法学院へと向かった。


三階の角部屋。

E-19、というプレートが下げられた部屋が、私の目的地だ。


その扉をノックすると、しばらくして、中の住人が顔を現した。


「……きみか。突然来ると聞いた時は何事かと思ったが……。どうした?」


突然の訪れ──もちろんアポイントメントは取ったが、それだって今さっきの話だ。

急な来客であることには違いない。


それでも受け入れてくれる彼、グレイ・グルーバーには感謝しかない。


「急用があるの。ここでは差し障りがあるから、場所を移動したいのだけど──」


何せ、密室に男女がふたり。(侍女もいるけど、侍女は場合によっては主のために虚偽の申告をすることもあるため、カウントしない)

社交界に知れたら、どれほど誇張表現されるか分からない。


不貞行為をしているのは王女殿下とアンドリューだというのに、話がすりかわって対象が私たちになったらたまらない。


そのため、場を移そうと言おうとしたところで。

ひょい、とグレイの後ろから思いがけない人物が現れた。


「あれ、アデライン嬢。どうしてあなたがここに?」


「王太子殿下……」


グレイの後ろから現れたのは、明るい赤毛の男性。


この国の、王太子殿下である。

深いエメラルド色の瞳は優しげで、慈愛深さを感じさせる。


……のだけど。


「王太子殿下こそ、その眼鏡?は一体……」


彼は、ファンシーな眼鏡をかけていた。

透明ではあるのだけど、僅かに色がついており、ピンク、紫系統の塗色がされているようだ。

これはオシャレ眼鏡の仲間のひとつなのだろうか。

それに、社交界で見る王太子殿下は、いつも髪を下ろしているのだが、今日の彼は襟足で結んでいた。

眼鏡と相まって、とても軟派な……軽薄な印象を受ける。


あまりにも社交界で見る王太子殿下の印象と違う。

これでは、彼を見ても王太子だと気が付かないひともいるだろう。


私の指摘に、王太子殿下は今気がついたというように眉を上げた。


「ああ、これ?留学先で、ルームメイトにもらったんだ。お互い王族だからね。セイクレッドに戻ったら、もう今までのようには会えなくなる、っていうんで貰ったのさ。帰国の餞別に、ってやつかな?」


「そうでしたか……」


この国の王太子であるエリック・セイクレッド殿下は、昨年、留学先から戻られた。


グレイと親交があるとは知らなかった。


(……というか!!王太子殿下がいらしているなら私の訪問は断りなさいよ……!!)


じっと抗議の意味を含めてグレイを見るが、しかし彼は、さっさと室内に戻ってしまっていた。

机上に広げた文献のようなものを広げているのを見るに、書類整理をしていたようだ。


グレイは簡単に広げていた文献をまとめると、こちらを見て言った。


「それで。アデライン・アシュトン。きみの訪問理由は?今年復活するとされている獣王の対策案について検討したい、なんて漠然とした理由で先触れ(アポイントメント)は貰ったが、それが理由ではないだろう」


どうやら、グレイは私の訪問理由にあたりがついているようだった。

王太子殿下が同席しているのは予想外だったが、幸運(ラッキー)だと思うことにしよう。


この際だ。王太子殿下も巻き込んでしまおう。


(……それに、王太子殿下がいるなら話は別だわ)


私は、ちらりと侍女を振り返った。


私の服装や小物が王女殿下と被ることから、アシュトン伯爵邸に密偵……のようなものがいると考えて間違いない。

それが誰かは分からないうちは、誰も信頼できない。

だから、私は侍女に言った。


「ごめんなさい、リリア。禁術に触れる話だから、隣の部屋で待っていてい欲しいの」


研究室は、基本的に続き部屋になっている。

グレイの研究室に立ち寄ったことはないが、間取りは私と同じはずだ。

それなら、隣は応接室のはず。

私の言葉に、侍女のリリアは眉を寄せた。


「お嬢様のおそばを離れることはできません」


「部屋の扉は開けておくわ。それならいいでしょう?」


「ですが……」


リリアはますます難しそうな顔をする。

彼女とは、私が幼い頃からの付き合いだ。

さらに言うなら、リリアは私の乳母姉妹だった。


それでも、この計画を確かなものにするためには、信じることができない。


(ごめんなさい、リリア)


彼女を疑うような行為だ。


罪悪感に胸が痛むが、手緩いことはしないと、先程決めた。


ここは確実に話を固めるためにも、リリアは隣部屋にいてもらおう。


悩むリリアをさらに説得しようと口を開きかけたところで、思わぬ援護が来た。


「まあまあ。僕も同席している事だし、誓ってアデライン嬢の名誉は傷つけないと誓うよ。それでもだめかい?」


王太子に声をかけられて、リリアは相当驚いたのだろう。声もなくして固まっていたが、やがて深く腰を折った。


「……恐縮です。王太子殿下にお嬢様の名誉をお約束いただくなど」


「良いんだよ。僕も、アデライン嬢の話には興味がある」


「…………」


目を細めて笑う王太子殿下に、恐らく彼は私の持ってきた話の内容を、おおよそ予想しているのだろうな、と思った。


私とグレイに大きく関わりのあること。


それは、王女殿下とアンドリューの不貞行為について。



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