確信犯
結乃に手を引かれ、流れるように付近の住宅街へ到着した。
「住宅街?ここに用事が?」
「用事…と言えば用事ですね」
「ほう…で、具体的に何の用事で?」
「買い物です」
買い物…なぜ俺まで、と考えたあたりで、これがデートであることを思い出した。
「ここです」
視線を上げ、店名を見る。
「花屋?」
「はい。今日は天気が良いので」
天気が良い日に花を買うということは、お見舞いかお墓参りあたりか。
「おお、結乃ちゃんじゃねぇか」
「お久しぶりです、花田さん。今日はお墓に添える花を選びに来ました」
「そういうことか…好きな花を選ぶといい」
口調は優しいが、体はもの凄くイカツイ男性だった。
年齢は30代後半に見えるが、どこか若々しさもある。
第一印象は怖そうな人だったが、案外人は見た目によらないらしい。
彼は花の水やりを丁寧な動作でしていたし、結乃に対する口調も柔らかく、温かみがある。
「ところで結乃ちゃん、そこの彼は?」
「今通っている学校の友達です」
「へぇ、友達ねぇ…。おい、ガキ。もし結乃ちゃんを泣かせてみろ。ケジメつけにお前を地獄の果てまで追い詰めてやる」
人は見た目によるかもしれない。
「花田さん、彼はそんな人じゃないですよ。不良の恰好をしているのは彼の…趣味?」
「え?元戻していいの?いいなら戻すけど?」
『花屋』のイカツイ店主である花田さんに圧をかけられつつ、結乃に訊いた。
「はい、もう戻していいですよ。花田さん、彼に洗面台を貸してあげてください」
「結乃ちゃんの頼みならしょうがねぇな」
洗面台とドライヤーを使い、ワックスを塗られた髪を元に戻す。
店頭に戻ってすぐ、結乃は俺に気づき手招きをしてくる。
「東雲君、あなたも花選び手伝ってください」
「え?俺も?」
「ええ」
「墓参りって言ってもなぁ…、花詳しくないんだけど」
「直感でいいですよ。そもそも期待してません」
「随分直球に言ってくれるな…」
店内に並べられている花に一通り視線を向ける。
「あれは…」
無意識に俺はとある花を手にとった。
「勿忘草ですね。東雲君、その花に思い出でも?」
「ああ、この花はし…母さんが好きだったんだ」
「そうですか…それはちょうどよかったですね」
「ん?それはどういう…」
「花田さん、この花と彼の持っている花を買います」
結乃は俺の声など聞こえていないかのように、花を持って花田さんの元まで移動した。
◇
花は無料でもらえた。
花田は結乃にはすごく甘い人で、俺を睨みながらも無料にしてくれた。
「ラッキーでしたね。まさか無料で貰えるとは思ってませんでした」
そう言いながらやってきたのはお墓、ではなく巨大な花畑だった。
「花畑か、かなり広いな」
見渡す限り花だらけで、色も鮮やか。
ここだけ日本じゃない、別の世界みたいだ。
「ここは天宮家が所有している土地なので、安心して入っていいんですよ」
「これ、全部…か。すごいな。それで、こんな場所にお墓があるのか?」
「この花畑の中心にありますよ。そうですね…あそこを見てください」
結乃が指さした方角へ視線を向けると、一本の木が立つ場所があった。
なぜかその木の周囲には花がなく、地面は周囲と比べ小高くなっている。
「ん?ってかあの木…葉の色、珍しいな。鮮やかな紫色?いや、花か?」
「正直、あの木はよくわかってません」
「え?天宮の保有している土地なんだろ?植えた人にでも聞いてみればいいんじゃないか?」
俺がそう言うと結乃はこちらを見てくる。
「ん?おかしなこと言ったか?」
「…この木を植えた人、あなたなら知っていると思いますよ」
結乃はそれだけ言うと、木に向かって歩き出した。
「俺なら知っている?ちょっと待ってくれ結乃。さっきから説明しなさすぎじゃないか、どういうことなんだよ」
「今はついてきてください。多分、口でいうよりは理解できるでしょう」
言われた通り、結乃についていった。
そして、中心部の木の手前まで到着した。
「すごい木だな。まるでこの世界のものじゃないみたいだ」
「この木を植えた人は、このお墓に眠っています」
そう言って結乃は勿忘草を含めた数種類の色合い豊かな花を添えた。
「へぇ…じゃあ、木の名前とかも書いて、あった…り……」
視線を下げ、改めて墓を見た。
その瞬間、全身から血の気が引いた。
『東雲 優凪』
墓に刻まれた名前を見て、視界が揺れ…うるさいくらい、心臓が鼓動する。
ダメだ、落ち着け。
そう自分に言い聞かせ、湧き上がる感情を抑えた。
一度深呼吸をした後、結乃を見つめる。
「結乃…これはどういうことだ?」
「どういうこと、と聞かれましても…ただのお墓参りですよ」
「ただの墓参りか…確かにそうだ。でも、俺が聞きたいのはそこじゃない。俺と東雲優凪…母さんとの関係を知ってて連れてきたな?」
結乃は表情一つ変えずに淡々と答えた。
「ええ、知っていましたよ。数年前、あなたが東雲優凪さんの訃報を聞いて、行方不明になっていなければ、この場に来ていたでしょう」
「……」
「質問には正直に答えます。だから、東雲君も私の質問に答えて下さい。あなたは、魔法を使えませんよね?」
結乃の目はまっすぐと俺をとらえる。
おそらく彼女には確信があるんだろう。
ただ、ブラフである可能性がある以上、馬鹿正直に言う必要はない。
「魔法は授業中使ったぞ?」
「…知らぬ存ぜぬは通用しませんよ?私は東雲君はスキル持ちだと確信しています。現に魔法学の時のあなたの詠唱は【吹き荒れる風よ、我の前に顕現し敵を薙ぎ払え】でした。間違っているのに、あなたの魔法は驚くほどに安定していました。それにもう一つ、面白い物を見つけたんです」
そう言って結乃が見せてきたのは飴玉のようなものだった。
「これはあなたの家にあった飴玉です。もう一つは食べちゃいました」
「窃盗罪ね」
軽口を叩くも、内心焦っている。
まさか、あの魔法学の時から企みがあったとは、俺も迂闊だった。
「これ、普通の飴玉じゃなかったんです。舐めると半日ぐらい、自身の魔力量が増えるんです。増加量はおよそ9」
「それはすごいな」
「そういえば、東雲君の魔力量は〈9〉でしたね。こんな偶然があるとは、驚きです」
「本当に驚きだよな」
どうやらブラフじゃなかったようだ。
「ずっと、あなたに対して違和感を持っていたんです。少しの隙があれば当然、入り込みますよ」
相手が同級生で、ある程度の知名度があるからなんて、警戒を弱めた俺の判断ミスだ。
結乃…わかっちゃいたが、天宮の人間なんだな。
「もう言い訳は必要ないでしょう」
「そうだな…。で、わざわざこんな場所でその話を持ち出して、何に協力して欲しいんだ?」
いつもながら、結乃は無表情だが、どこか嬉しそうに見えた。
「流石、英雄のお弟子さんですね。それじゃあ、私の本当の目的に付き合ってください」
◇
結乃についていった先には『ゲート』があった。
場所は森の中、近くに民家が無いことから、発見されていない『ゲート』なのだろう。
「この『ゲート』を、攻略して欲しいんです」
「なんで俺なんだ?『ゲート』の攻略ならハンター協会に依頼するか、天宮の家の力で潰せる気がするけど」
「…理由は話せません。ただ、約束はできます。あなたは絶対に死なないと。だからお願いします。私とこの『ゲート』に入りましょう」
彼女の表情や声から、真剣なのは察せる。
ただ、いくらなんでも怪しすぎる。
本来なら一蹴するところだが、どうする…。
「必要なら土下座でも何でもします」
いきなり結乃は地面に膝をつこうとしていたため、急いで止める。
「あぁもぅ…、わかったからそれはやめてくれ。戦力として期待はするなよ?」
「わかっています。では、行きましょう」
切り替えの早い結乃に手を掴まれ、『ゲート』の中に引きずりこまれる。
「ちょっ、結乃。せめてもう少し心の…準備…と…か」
目の前に広がるのは、現実世界じゃあり得ないような光景だった。
周囲は木々に囲まれ、上空には太陽に似た光源と、明るいのに流れ星のようなものが見える。
そして、一番存在感を放つのが、この空間のおそらく中心に位置するであろう、巨大な柱だ。
正確な高さは把握できないが、数十キロメートルの高さはある。
「…嘘だろ…これ、『ゲート』内部なのか?」
「はい、正真正銘ここはゲート…『追憶ノ双生』内部です」
「なあ、結乃さん。それ、このゲートの名称だったりするのか?」
「はい、そうです。『追憶ノ双生』はクラス不明のこのゲートの名称です」
この世界では、ゲートは絶え間なく出現と消滅を繰り返している。
だから、いちいち名称を『ゲート』につけることはしない。
だが、一部の『ゲート』には名称が設定されることがある。
そして名称が設定される条件は、大きく分けて二つ。
1つは、S級に相当する危険度が観測されたゲート。
そして、もう一つは――
――攻略が現状不可能とされているゲートだ。
※『ゲート』のランク付け
『ゲート』にもハンター資格やモンスター脅威度とは別にランクが設定されている。
S、A、B、Cの4段階が基本で、例外も存在する。
〈簡易表〉
C級 初心者ハンターや、教育機関の実習の場で使用される。
危険度は低いが、死者は毎年一定数は出る。
B級 専門教育機関の教育の場で使用される
危険度はC級の倍以上に跳ね上がる。
A級 危険度はかなり高く、実力の高いハンターの集団での攻略が基本
S級 『十二天』など、国そのものが対処に動くレベル




