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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
1章 偽りの果てに

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意図の見えない誘い

 デートに誘われた翌日、待ち合わせ場所にて結乃の到着を待っていた。

 

「…どうしてこうなったんだ…」


 デート…か。

 彼女は他人に恋愛感情をもつようには見えない。 

 なら、この誘いは一体何なんだ…。

 

「おはようございます」

「おはよう…。あの、結乃さん?」

「なんでしょう?」


 驚くほど似合っている結乃の私服姿もそうだが、それ以上に彼女の背後にあるものに意識を取られた。


「後ろにある車と、ボディガードさん方は一体…」


 いつも通りの無表情を貫く結乃の後ろには、黒スーツを纏った男女が数人いる。

 少し冷静になって思考を巡らせてみる。

 しかし、いくら何でも現代社会において、ボディガード付きのデートをするお嬢様なんているものか。

 自分の思考にツッコミを入れるだけになった。


「ああ、気にしなくて大丈夫ですよ。目的地に到着後は離れてもらいますので」

「目的地?」

「伝えていませんでしたか?あなたに土日に予定があるか聞いたとき、土日どちらも暇そうだったので、1泊2日のデートにしました」

 

 結乃の口から衝撃的な事実を告げられ、俺の頭は一瞬フリーズした。


「いやいや、ストップ。さすがに1泊はまずい。家には弟や妹が…」

「それなら心配いりません。あなたの家族のお世話係として堂島さんを送りました」


 彼女はそう言いながら、俺にスマホを渡してきた。

 何かと思い画面を覗くとそこには…


「兄ちゃんだ」

「お兄だ」

「え?ナニシテンノ?」


 弟と妹が楽しそうな表情で映っていた。


「今日からお兄デートでしょ?」

「俺たちのことは気にせずに楽しんでね」

「…え。俺の知らない間に話進んでんの?」

「だからお兄、私たちの心配はいらないよ。だってドウ子ちゃんがいるもん」

「そうよ〜」


 混乱しそうになっていると、知らない人の声が画面越しに聞こえる。


「は?誰?ドウ…子……ちゃん?」


 二人の背後に映ったのは、メイド服を着た筋肉のすごいおっさん…いや、バケモノだ。

 笑顔でフライパンを持っている。


「あたしが二人の面倒を見るから楽しんできてちょうだい」

「結乃通報だ。不法侵入」

「落ち着いてください」


 その後の結乃や時雨たちの説明を聞いて、ようやく状況の整理ができた。


「じゃあ、時雨と舞花をお願いします」

「おっけ〜よ」


 ビデオ通話を終了させ、スマホを結乃に返す。


「では、車へ」


 俺が乗車すると共に、車が発進した。

 車内の空気は一言で言えば、最悪に近い。

 元々口数の少ない結乃は一言もしゃべらず、ボディガードたちはずっと俺を見ている。


「……」

「……」


 この一連のイベントには明らかに計画性があり、間違いなく結乃が何かを企んでいることぐらいわかる。

 でも…この空気じゃ聞けるものも聞けない。

 ふと、車が停車した。

 そして、開いた扉から見覚えのある人物の乗車してくる。


「あら?東雲くんじゃないですか」

「マジか…」

「結乃…もしかして」

「紗優、その話は後にしましょう」


 結乃の言葉で紗優は黙った。

 一刻も早くこの空気を誰か壊してくれと願っていると、またも人が乗ってきた。


「おはようマイシスター!って、あれ?紗優と結乃の知り合い?」


 乗り込んできた男は俺を見た瞬間、紗優と結乃の二人に訊く。


「結乃のお友達らしいです」

「え?友達…ってことは――」

「――お兄様」

「……おーけ」


 兄すら一言で黙らせる結乃に疑問を募らせるが、空気が重くなったおかげで口すら開けない。

 天宮兄と入れ替わりでボディガードが消えて、多少マシにはなったことを喜ぼう。

 諦めかけていると、紗優が静寂を壊した。

 

「黙っているのは窮屈ですね。東雲君、ゲームをしませんか?」


 思わぬチャンスに、少し強めに食いつく。


「この車の中でゲームって、何をするんだ?」

「ふっはっは。聞いて驚くなかれ。この車の車内はボタン一つで、椅子の配置が換わるのだよ」


 天宮兄が説明をした直後、椅子の配置がゆっくりと変化した。

 一つのテーブルを囲むように配置された椅子。

 広い車内のおかげで、あまり窮屈には感じない。

 これが財力か。


「では、東雲くん。チェス…できますか?」

「ああ、多少知識はある」

「では、私と対局しましょう」


 車内で天宮紗優とチェスで対局することになった。





「チェックメイトです」


 紗優VS俺のチェス勝負は俺の完敗で終了した。

 持ち時間がかなり少なめに設定されていたはずだが、紗優は最適な手を常に打っていた。

 

「…強くない?」

「そりゃ紗優は全国トップレベルの頭脳の持ち主だからな」


 紗優の圧勝を見て、天宮兄が自慢気に言った。

 あながち天宮兄の紗優に対しての評価は間違っていない。

 実際、紗優は全国模試で5位の成績を修めているし、数々の馬鹿げた逸話を残している。

 今のチェスだって、俺が認識できてない手の対策を同時に思考していたんだろう。

 というか、これは遊びじゃなくて、俺の思考能力を試しているように思えた。


「それにしても意外でした。東雲くん、意外とチェス強いですね」

「圧勝した紗優さんがそれ言う?」

「ふふふ、チェスとは面白い物ですね。私もプロではないですが、相手の思考の癖というものがある程度読めるんですよ?」


 紗優はどこか意味ありげに微笑んでくる。

 

「貴方はどこか自分を抑える癖があるようです…。もしかして、()()()してました?」

「まさか。全力でやったつもりだ」


 一瞬、紗優は鋭い目つきで俺を見てきた。


「面白い人ですね。もし機会があればまた勝負をしましょう」

「気が向いたらでお願い。ちょうどトランプがあるんだし、ババ抜きでもしないか?結乃が不満そうになってるから」

「「え?」」


 俺の言葉を聞いた紗優と天宮兄が驚く。

 何かまずいことでも言ったのだろうか?

 もしかして、ババ抜きは禁止とか?


「東雲くん、今結乃が不満そうに…と言いました?」

「言ったけど、もしかして禁止ワード?」

「いや、そういうわけではありません」

「なるほどそういうことか。……っといけないね。テンション上げていこう。ババ抜きだろ?カード配って」


 天宮兄がテンションを上げ、カード配りを急かしたため、先程の紗優たちの反応の理由はわからないままとなった。

 まあ、今はババ抜きを適度に楽しもう。

 突然、紗優が手を叩き言った。


「ただ普通にババ抜きするのもあれですし、罰ゲームとかやっちゃいましょう」


 ゲームは遊びじゃない、全力を尽くそうか。





「到着しました。皆様……。あの、そちらの方は?」

「客人だね」

「「東雲君です」」


 ワックスによって髪型はワイルドに。

 そして、サングラスをつけることによって、古臭い不良のイメージ像を体現した人間へと変貌を遂げていた。

 

「見た目が完全に不良ですね」

「そうでしょう。私の想像していた不良そのものです。東雲君はこういうの苦手そうだったので」


 ただの礼儀正しいお嬢様かと思っていたが、意外とこの人は性格が悪い。

 その優秀な頭脳と観察眼をこんな形で実感したくはなかったな。


「お嬢様が楽しそうで何よりです」

「それとすみませんが、私と東雲君は少し用事があるので家に帰り着くのは午後になりそうです」


 俺は結乃に手を引かれる。


「了解。18時までには戻ってこいよ」

「二人とも、気を付けてくださいね」

「わかっています」

「いや、俺この見た目のまま歩くの?マジ?」


 いろいろ言う俺に、無表情で聞き流す結乃。

 やはり彼女のことはわからない。



――天宮兄視点――



 結乃は東雲を連れ、歩き去っていく。

 紗優も気になるのか、彼らを眺めていた。


「妹よ、さっきの結乃の顔見たか?」

「ええ。本当に久しぶりに見た。結乃の楽しそうな表情」

「ああ。でも意外だったな。家族以外に結乃の感情が読み取れる奴がいたなんて。俺でさえ、よく見ていなきゃ何考えているなんてわからない」


 俺は東雲凪の姿を思いだした。

 

「ところで、彼…東雲君のこと里香に探らせているみたいだね?」

「そうですね…ただ、白井からは特にこれといって有力な情報は聞いていない」


 東雲君が去った事で、口調をもとに戻した紗優の顔からは、どこか不安が感じ取れた。

 まあ、不安といえば俺にもある。

 彼の情報があまりにもないということに対してだ。

 紗優が調べるよう、指示を出したタイミングとほぼ同じぐらいに俺も個別で彼の調査を依頼していた。

 その結果、分かった情報は、11歳という若さで中級ハンター資格を取得している、ということだけだった。

 俺自身も調べてみたが、小学校に通学していたという記録は一切なく、中学は2年からの記録しかない。

 天宮家の情報収集能力をもってしても、これだけしか集められなかった。

 あの年齢で中級になれれば、将来は困らないだろう。

 魔力量が9でなければ超級上位のハンターに届きうる存在となっていた可能性もある。

 ただ、やはり異常だ。

 現代社会に生きている人間が、ここまで情報を隠せているのはおかしい。

 そこから考えられることは、権力を持つ何者かが隠蔽している。

 もしくは、東雲凪が裏の人間であるかだ。

 これは少し監視しておく必要があるのかもしれない。

 頭を掻きながら空を見上げる。


「最悪、結乃に嫌われるかもなぁ」

「実はちょっとウザがられたり」

「妹よ、兄だって傷つくんだぜ」


 無情にもトドメを刺そうとしてくる紗優を、軽いノリで受け流した。

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