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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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誰そ彼時の夢

「なぁ…莉愛なんだよな?」

 

 俺の質問に莉愛は首を傾げながら答える。


「もちろんです。なんで急に?」

「本当に自分が何をしていたのか、分からないのか?」

「ん?東雲君は何の話をしているんですか?」

「何って…それ、は……」


 おかしい。

 俺は何で莉愛に怒っていたんだ。

 別に莉愛が何かしていたワケでもないのに……。

 

「今日の東雲君は何か変ですね。頭でも打ちましたか?」

「いや…」


 ただその言葉は否定しないといけない気がした。

 でも、理由がわからない。

 俺は…一体……

 

「顔を見ればわかります。相当疲れていますね」


 彼女の優しい声を聞いていると、いつの間にか反論する気も失せた。


「……少し休んだ方がいいのかもしれないな」


 その場に座り、横になろうとした時、声をかけられた。


「地面は固いですよ」


 莉愛の言う通り、地面は固い。

 先程まで、柔らかい枕があったんだ。

 そう言えば、どこに……


「はい、どうぞ」


 彼女は正座し、太ももを軽く叩きながらこちらを見てきた。


「え?」

「膝枕ですよ」

「マジ?」

「マジです」


 少し迷ったが、莉愛の妙に圧のある視線に負けて、膝枕をしてもらう。

 

「どうですか?」

「あぁ…寝心地が良い……」


 後頭部に当たる柔らかい感触に、思わず眠気に負けそうになった。


「眠い、ですか?」

「そう、だな。これならすぐ…寝れそうだ」

「それはダメです」


 膝の上に俺の頭があるにも関わらず、莉愛は立ち上がる。

 その際、置き場を無くした俺の頭は地面に衝突した。

 

「ったた……莉愛?」

「今日はやりたい事が沢山あるので、寝させませんよ」

「やりたいこと?」





「重い…」


 莉愛のやりたいことの一つは、買い物だった。

 両手に下げた袋の中には、服やアニメか何かのグッズが大量に入っている。


「実は私、こういうグッズ買ってみたかったんです」


 莉愛は楽しんでいるのか、足取りがとても軽い。


「普段は買えないのか?」

「…そうですね、普段は買えません。でも、今日は東雲君がいるので、思い切って買うことができます」

「なんだそれ」


 全く、普段の莉愛なら必要最低限のものしか買わな……


(普段の…莉愛……)

 

 一瞬だけ、周囲の空間が揺らいだ気がした。


「……」


 なぜ、俺はそんな事を考えたんだ…。

 だって、目の前にいる莉愛は、いつも通りの莉愛で…


「東雲君、今度はあそこでご飯食べましょう」


 莉愛に声かけられ、思考をやめた。


「…ああ、分かった」


 そう…これは普通の日常なんだ。

 表情の変化は激しくないけど、莉愛は確かに楽しんでいるし…俺だって楽しめている。

 それでいいじゃないか…。

 昼食を一緒に食べている時も、ボディガードの人を呼んで荷物を預けている時も、ずっと何かが引っかかっている。

 無視しちゃいけない何かが…

 もしかすると、莉愛なら何かわかるかもしれない。


「なぁ…莉――」

「――次はゲームセンターにしましょう」

「…そうだな」


 彼女の姿を見ていると、言いにくくなってしまった。

 ゲームセンターに入っていく莉愛を追いかけると、彼女はすでにクレーンゲームに挑戦していた。


「クレーンゲームか…。景品は…」


 莉愛が取ろうとしているのは手のひらサイズのクマの人形だった。

 

「クマか」


 でも少し意外だった。

 莉愛の挑戦している白熊の人形の横にも、同じクマの人形のクレーンゲームがある。

 そちらのクマはキャラメルベージュ色の毛並みで、莉愛の好みの人形のはずだ。

 なんで白熊を優先して取っているのだろうと不思議に思い、声をかけた。

 

「なぁ…横のクマはいいのか」

「え?」


 莉愛はクレーンを操作する手を止め、俺を見てきた。

 何かおかしなことを言っただろうか…


「なんで、そう思ったんですか?」


 そう聞かれ、答えようとした時、ふと気づく。

 あれ…そういえば、なんで俺は莉愛の好みを知ってたんだ…。


「…なんでだろ……莉愛?」


 彼女はなぜかとても悲しそうな顔をしていた。

 莉愛のそんな表情は初めて見た。

 いや…以前にもあった気がする。


「すいません。実は、横のクマの人形は以前に取ってしまったんです」


 そう言って莉愛はクレーンの操作を再開した。


「なかなか取れないですね」


 これも意外だった。

 莉愛はなんでもそつなくこなすイメージがあった分、クレーンゲームにてこずる姿はどこか新鮮だ。

 

「莉愛はクレーンゲーム下手だな」

「じゃあ、東雲君は取れるんですか?」

「まあ、見てな」


 莉愛と場所を交代し、お金の投入口に100円を入れて、挑戦してみる。

 結果的に、お金を消費するだけに終わった。

 なぜか口角の上がっている莉愛に背を向け、もう100円入れて挑戦する。

 1回目で感覚はつかめたからか、アームが良い感じに景品を掴む。

 が、途中で景品を落としてしまった。

 その後、100円、もう100円と挑み続けたが、景品は取れなかった。

 

「ふふっ、東雲君も人の事言えないですね」


 莉愛はとても楽しそうに笑う。

 景品は取れなかったが、彼女の楽しそうな笑顔を見たら、そんなことはどうでもいいと思えた。

 笑う姿も新鮮でいいな…そう言いかけたが、声に出さないように言葉を飲み込む。

 外へ出ると、日は沈みかけ、周囲は薄暗くなり始めていた。


「最後に行きたい場所があるのですが…いいですか?」

「ここまで付き合って断るわけないだろ」

「ありがとうございます」


 莉愛の行きたい場所、それは花畑だった。


「結局花畑か」

「はい、私のお気に入りの場所なんです」


 彼女は花畑の中心にある大きな木を背もたれにして、景色を眺めた。

 もうすっかり日は沈み、花畑の地面に仕込まれているライトが発光する。


「どうですか?この景色は」

「綺麗だと思うよ」


 莉愛は俺の顔を見つめ、いたずらな笑みを作り言った。


「実は、これよりいい景色にすることができるんです」


 ふと、彼女の笑顔に違和感を感じる。

 今日一日、彼女は表情豊かだったはずなのだが、どうしてか見慣れない。


「そうなのか?」

「はい。今から見える景色はある条件を満たさないと見れないものですから、レアですよ」


 彼女は立ち上がり、花畑の中に立つ。


「しっかりと、見ててくださいね」


 そう言って彼女はスマホを取り出し、操作を始める。

 すると――


「え?」


 花を映えさせるための光源がすべて消えた。

 

「どうですか?いい景色でしょ?」


 月明りが一面に広がる花を照らし、とても神秘的だった。

 でも、それ以上に俺の心を動かす景色があった。

 

「……」

「東雲君?」


 それは月明りに照らされた花畑の中にいる莉愛だった。


「あぁ…、すごく綺麗だな」

「そうでしょう」


 莉愛がこちらへ来て、再び木を背もたれにして座る。


「座って話しましょう」


 彼女は、真横の地面を軽く叩く。

 座ろうと腰を下ろそうとした時、ふと違和感を感じた。


「そういえば、木の下に何かなかったか?」

「下に?いえ…特に何もないはずですよ」

「…そうか」


 ゆっくりと腰を下ろし、莉愛と同じように木を背もたれに空を見た。


「今日1日、楽しかったです」


 莉愛の表情はとても明るく、目は月明りに照らされる花畑を見ていた。

 

「それは良――」

『今日はとても楽しかった』

「え?」


 突如として何かが、莉愛と重なった。

 

「どうかしましたか?」

「いや…なんでもない」


 なぜかは分からないが、《《それ》》を理解することに躊躇いを覚えている。

 

「久しぶりにこんなに動きました」

「確かに、莉愛は普段こんなに活発………」


 普段…その言葉に強い違和感を覚え、思わず言葉が詰まった。


「東雲君?」

『凪君?』


 そんな俺に声をかけた莉愛の声は再び何かと重なった。

 思わず立ち上がり、莉愛を見下ろす。


「なあ、気のせいかも――」


 こちらを見上げる莉愛の顔を見た瞬間、全身に電気が流れるような感覚と共に、脳内で記憶が再生される。

 記憶の中の俺は、今と同じ位置に立っていた。

 そして、目の前には今の莉愛と同じように木を背もたれに座り、景色を眺める少女がいたんだ…。


「ここで、何をしているんだ?」


 思い出しているせいか、思わず声を出してしまった。

 記憶の中の少女は、俺が声をかけるとこちらを見つめてきたんだ。

 最初は驚いていたみたいだけど、すぐに表情は柔らかくなって…それで、俺の質問に答えたんだ。


「自分を探していたんです」


 そう…今の莉愛が言ったセリフと全く同じよ――


「え?」


 ワンテンポ遅れて莉愛が、記憶と全く同じセリフを口にしていたことに気づく。


「っ!?今――」

「――分かっていました」

 

 言葉を遮られた。

 先程まで楽しそうだった莉愛の顔は、今は暗く悲しそうだ。

 

「貴方はいずれ気づいてしまう」

「……どういう…ぐっ!」


 唐突に頭痛が襲い掛かってきて、思わず片手で頭を押さえた。

 

「頭痛がするんですよね?」

「……原因を知っているのか?」

「それはスキルの影響ですよ」

「スキル?なんのスキルなんだ?」

 

 答えにくい事だったのだろう。

 莉愛は少しの間を置いて口を開いた。


「……『封印』です」

「ふう……いん?………っ!?」


 その瞬間、すべてを思い出した。

 俺は『追憶ノ双生』を目指して移動している時、莉愛の後ろ姿を見かけて…それで…


「俺は…三春さんに『封印』されたのか?」

「はい。封印対象は意識ですね」

「意識?」

「『封印』のスキルは、観測可能なあらゆるものを封印することができます」

「チートかよ…」

「いえ、そこまで便利な代物じゃないんです。封印対象の認識や、対象の魔力量が自身よりも低いことみたいな制限がいくつもあるんです」


 その情報込みだと、一概にチートだなんて言えないスキルだな。


「ひとまず、状況は把握できた。莉愛、学校に戻ろう…」


 莉愛があのゲートから離れるなら、ひとまず安心はできる。

 紗優たちにゲートの攻略を待つようにも言える。

 だから…ここで……


「もう、無理ですよ」

「は?」


 莉愛の無機質な声を聞き、鼓動が早くなり、冷や汗が全身から噴き出す。

 

「何を言っているんだ?無理じゃないだろう。だって莉愛はここにいる。行こうとするなら、俺が止める」


 もう動揺を隠せるほどの余裕はなかった。

 そんな俺に彼女は冷静に言った。


「違いますよ。私はここにはいない。もう、『双生ノ追憶』の内部に入っています」

「……だったら、今からでも連れ戻す」

「薄々勘づいているでしょうが、ここは現実じゃないですよ」

「だったら、現実に戻って――」


 莉愛に背を向け、花畑の入り口を目指して歩き出す。


「今はまだ、東雲君は現実に戻れません」


 莉愛の意味深な言葉に、足を止め振り返る。


「今は…まだ?」

「はい、お母様の封印は完璧じゃありません。封印対象が意識などという実体のないものなら、封印の効果はとても弱いでしょう。弱いと言っても、あと数十分ぐらい封印状態のままですが」

「時間は現実の10分の1なんて設定はあるのか?」

「ないですよ。現実でも数十分かかるでしょう」


 最悪の一歩手前のような状況だ。

 どうする…せっかく優たちが時間を稼いでくれてるのに…。

 

「ですから東雲君。封印が解除されるまでの数十分を有効活用しましょう」

「有効活用?」

「はい。今から東雲君には私の記憶を見てもらいます」

「莉愛の記憶を?どうやって?」

「秘密です。記憶を見るか見ないかは強制ではないので、あなたの意志を尊重します」


 この状況で、俺の意志を尊重って、ほぼ尊重できてないような気がする。

 というかそれ以外に、何か引っかかる。

 が、今は記憶の追体験が優先だ。

 彼女が何を想って、こんな行動に出ているのか。

 その真意がわかれば、この事件は解決するかもしれない。


「記憶を見よう」

「わかりました。では始めましょう。追憶の旅を」


 周囲の景色が歪み、視界が真っ黒に染まった。

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