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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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思い出のあの地で②

――東雲凪視点――



 莉愛が消えた。

 そう紗優に聞かされ、共に莉愛の家へ行くことになった。


「ここが莉愛の家です」

「すごいデカいな…」

「はい、天宮の人間ですから」


 莉愛の事は心配だが、学校をサボるという行為にも多少罪悪感のようなものを感じていたため、冗談交じりに言った。


「皆勤賞を目指そうと思っていたんだけどな」

「東雲君は皆勤賞に興味が?」

「んー、そんなないな。ただ、少しだけ喪失感がある。それよりも優等生の紗優は、サボっても支障はないのか?」


 紗優に聞いたはずが、白井さんが不機嫌そうに答えた。


「お嬢様はあなたと違って優秀ですので、数日休んだくらいでは成績に影響はありません」


 クラス対抗戦の時から、白井さんの俺を見る目には敵意が含まれている。

 なぜそこまで敵視するのか、理由に心当たりはない。


「白井、鍵を」

「はい」


 紗優が玄関の扉を開けるため、白井に鍵を貰う。

 その最中、俺は玄関の扉を開けようとする。

 鍵がかかっているのは分かりきって――


「――え?」


 扉は簡単に開いた。

 振り返ると、紗優と白井が固まっていた。


「鍵、かかってない、ぞ?」

「っ!?」


 咄嗟に紗優が家の中に飛び込む。


「莉愛!どこにいるの!出てきて!」


 冷静沈着を体現したような普段の紗優とはかけ離れた姿に驚く。

 いや、俺も驚いている場合じゃない。

 

「莉愛!いないのか?」


 紗優が探している方向とは別の部屋に入る。

 

「っうわ!」


 足元にあった何かに躓き、近くにあったクッションに倒れてしまった。

 

「っ!?これは莉愛の匂――じゃない」

 

 すぐに立ち上がり、大きくずれたクッションを元の位置に戻そうとした時だった。

 クッションの下から、ノートのようなものがはみ出していた。

 

「なんだこれ…」


 悪いとは思いつつも、開いてみる。

 

『わたし』


 大きな字でそう書いてあった。

 そしてその下にびっしりと何かが描いてある。

 ページをめくり、書かれた文章を断片的に見る。


『弥郡流銃剣術の指導が今日から始まる』

『優さんが遊びに来て、一緒に食事をした』

『中級ハンターの試験を受けた』

『今日は高校の入学式でした』

『人付き合いが苦手で、また一人です』

『クラスメイトに変な人がいます』


 書かれている内容は、徐々に覚えのある出来事へ変わっていく。


『東雲凪という男子に話しかけてみた』

『デートと言って、彼を天宮本家へ連れて行った』

『優凪さんのお墓参りに、東雲君を連れていく』

『あの騎士と東雲君を会わせた』

『クラス対抗戦で東雲君が2位になった』

『東雲君と上級ハンターの資格試験に挑戦する』

『神葬雪さんと光さんが学校見学に来た』

『もしかして、私は東雲君のこと――』


 そこから、文の雰囲気が一変した。


『ダメだった』

『東雲君と出会わなければ、こんな感情はなかった』

『私は誰?』

『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい』


 そして最後の一文は…


『■■■■■■■■■』


 読めなかった。

 どこの国の言語だろう。


「東雲君、何か見つけたんですか?」

「紗優、これに見覚えは?」

「っ!?」


 紗優はノートを手に取り真剣に見つめ、ページをめくり続ける。

 最後のページまでめくり終えると、彼女は急いで誰かへ電話を掛けた。


「紗優です。莉愛はそっちにいますか?……はい、はい……わかりました。白井、すぐに本家へ戻ります」

「わかりました。手配します」

「ちょっと待ってくれ。どういうことだ?」

「東雲君、前に話した頼み事、あれは忘れてください」

「どうしてだ?」

「莉愛を拘束する…、それはもう不可能です」


 思考を加速させる。

 なぜ不可能なのか。

 元々、莉愛を拘束するという行為は、ゲート『追憶ノ双生』に近づけさせないというのが目的だった。

 ということは…


「ゲートに入ったのか?」


 紗優は険しい顔で唇を嚙む。

 その反応で、今の状況が最悪に近い事を理解する。


「ゲートに向かうんだろ?俺も連れて行ってくれ」

「莉愛の拘束ならまだしも、S級ゲート内にあなたを連れていくのは無理です」

「足手まといにはならない」

「東雲君、状況が状況ですので、はっきりと言います。あなたじゃ力不足です」

「それでも――」

「――予想はしていました。あなたは説得できない。堂島さん、お願いします」


 突如、紗優の後ろにメイド服を着たマッチョが現れた。

 堂島と呼ばれたその男には見覚えがある。

 以前、天宮本家へ連れていかれた時、舞花と時雨のお世話をしてくれた天宮家のメイドの1人だ。


「白井、声をかけていたハンターさんたちを早急にあのゲート付近に集めてください」

「すでに連絡済みです」

「流石ね」


 紗優たちはこの場から小走りに去ろうとしていた。

 

「ちょっと待――」

「東雲凪さん、手荒な真似はしたくないの。おとなしく学校へ戻ってくれる?」


 俺の前に堂島さんが立ちふさがる。

 即座に周囲を見回す。

 この場所じゃだめだ。


「わかりました」

「聞き分けが良い子ね」


 堂島さんと共に莉愛の家から出る。

 

「良かったわ。あなたが言うことを聞いてくれなかったら、手を出さないといけなかったもの」


 彼の言葉を聞き流し、紗優たちと乗ってきた車が無いか確認する。

 

「もう行ったのか…」


 車は既に無くなっていた。


「どうしたの?学校に戻るわよ?」


 堂島さんの大きな手が、俺を掴もうとしてきた瞬間――


「そんなに学校に行きたいなら、1人で行ってくれ」


 その手を振り払った。

 直後、堂島さんの雰囲気が一変する。


「まあ…、実力行使はしたくないの。舞花ちゃんや時雨君に嫌われたくないから。お願い、このままおとなしく――」

「おっさん、しつこい」

「……ふっ…ふふ………」


 俺の放った一言で、堂島さんは不気味に笑いだした。

 

「教育が必要なようね。レディに向かっておっさん……常識外れにも程があるわ、よっ!」


 ノーモーションで放たれる素早い拳を、ギリギリで回避する。

 これ、気絶どころか、手足の一本持ってくつもりだ。

 そう直感しつつ、さらに煽る。


「すまん、ゴリラだったわ」

「再教育ねっ!」


 先程の拳よりも素早い回し蹴りが放たれる。

 それを素手で受け止めた。


「学生だからって舐める…な」


 まさか素手で受け止められるとは夢にも思っていなかったのだろう。

 堂島さんは驚いた表情のまま固まった。

 やはり佐藤然り、感情に飲み込まれるタイプは読みやすい。

 その場で跳躍しつつ、堂島さんの顔面へ回し蹴りを放つ。


「っ!?」


 腕で防御されたことを確認し、地面に向かって蹴り飛ばす。

 衝撃を殺せなかった堂島さんは頭から地面に突っ込み、小規模なクレーターを作る。


「勘違いするなよ。純粋な力勝負なら俺の独壇場だ」

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