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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
3章 笑顔でいられるように

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思い出のあの地で

「あー、体いてー」


 ほんのわずかな筋肉痛と倦怠感に見舞われつつ、アラームを止め、ネットニュースに目を通しながら階段を降りる。


『魔法の在り方が大きく変化!今話題の空式記述型魔法起動陣と刻印型魔法起動石について迫る!』

『上級ハンター資格の実技試験中のゲート崩壊。これは人為的だった!?事件発生から数日が過ぎた今、考察していく』


 莉愛の言っていた新技術は、今や大々的に取り扱われていた。

 まあ、魔法を使う人間にとっては、かなり革新的なものだろうし、妥当か。

 階段を下りた先には、妹の舞花がいた。

 

「あ、お兄だ」

「おはよう舞花」

「おはよう。優お姉ちゃんがご飯の準備してくれてるよ」

「了解」


 階段を上がっていく舞花を見た後、歩き出す。

 

「おはよう、疲労はとれたかしら?」

「わかって聞いてんだろ…。残念ながら、めちゃくちゃ動くのが怠い」


 椅子に座ると、目の前に朝食が置かれた。

 そして正面の椅子に当たり前のように座り、俺を見つめてきた。


「ねぇ…あんたはどう思う?」


 どう思う…か。

 十中八九、魔石やら無詠唱魔法についてのことだろう。


「ハンター全体の戦力向上が見込めるんじゃないか」

「そうね。で?」

「で?っていわれても…」

「あんたが予測できないほど馬鹿じゃないのは知ってるわ。『獄炎龍』の討伐作戦…、そう遠くないうちにあるかもしれないってことよ」


 食事に手を止めて優を見つめた。


「……」

「……」


 お互い無言で見つめ合っていると、舞花が笑顔で優に抱き着く。


「ねぇ優お姉ちゃん。稽古しよー」

「ん、そうね。稽古しましょうか」

「やったー!」


 優は立ち上がり、庭の方へ歩き出す。

 その途中、こちらを振り向き短く言った。


「凪、私は明日か明後日出ていくわ」

「そうか」


 驚くことはない。

 彼女は現役の上級ハンターで、国内で有名なギルド『明星あけぼし』に所属している。

 忙しいのは当然だ。


「優、ありがとな。手伝ってくれて」

「別にお礼なんていらないわよ。私の目的のついでに、あんたの頼みに付き合っているだけだから」


 そう言えば、優がここにいる目的ってなんだろうか。

 かれこれ優が泊りに来て4日ほど経過しているが、全く聞くこともしなかった。

 この際だし聞いておくかと思い、優に聞く。

 

「なあ、目的ってなんだ?」

「……秘密」


 彼女はそう言うと、どこかへ歩き去っていく。

 1人残された俺は、優の座っていた椅子を見る。


(結局、本題に入らなかったな…。そんなに言いにくいことなのか?)


 優が何か言いにくい話をしようとしていたことぐらいわかる。

 俺に嘘が下手という割に自分も下手じゃないか…と心の中で呟きつつ、大きくため息をつく。

 多分、タイミング的に――


「莉愛のこと、だよな…」


 今まで結乃と名乗っていた人物に、最近になって本当の名前があったということに、興味を示さない方が難しい。

 優は興味で莉愛を調べ、何かを見つけたのかもしれない。

 

「まあ、考えていても結論なんて出ないよな」

 

 朝食を素早く済ませ、玄関を出て学校へ向かう。

 一応、莉愛本人に、ここ1週間優と話したか聞いてみよう。

 普段通り、ハルと登校し教室へ入るとなぜか興奮した佐藤が目に入る。


「…何あれ」

「東雲君、今日の1限何か覚えてる?」


 明石に聞かれ、今日の授業の時間割を思い出す。


「ああ、『体術』だろ。確か、前回に続いて、コースごとの軽い模擬戦をもう一回するって…言って……。そういうことか」

「そういうこと。だからあいつが興奮して突っかかってくる前に避難しといたらどうだ?」


 話に参加してきた鍵谷のアドバイスは最もだな。


「それが良いかもな」


 ホームルームが始まるまで、屋上で時間を潰そう。

 そう考え、屋上の扉の前まで来たのだが、向こう側から声がわずかに聞こえる。


「どう、何か分かった?」

「いいえ。実家に連絡したのですが…」


 声からして紗優と白井さんだろう。

 この二人なら、そこまで遠慮する必要はないだろうと思い、扉を開ける。


「東雲君でしたか」


 こちらにいち早く気づいた紗優が声をかけてくる。


「盗み聞くつもりはなかった。今は教室から距離を置きたくてな」

「そうですか。それにしてもちょうどいいタイミングです。あなたに聞きたいことがあったので」

「聞きたい事?」

「昨日の放課後、莉愛と一緒にいましたよね?」


 その質問をされたとき、周囲の音が遠ざかったような感覚に陥る。

 いや…まさか、そんなわけがない。


「ああ、一緒に水族館に行ったかな…」

「そうですか…。家に帰りつくところまでは見ました?」


 嫌な予感はすでに確信へと至っている。

 でも、これ以上思考をしたくなかった。

 折角、あんな地獄のような経験から日常へと戻れたのに…。

 どうしてこうも…。

 

「莉愛に…何かあったのか?」


 聞きたくはない。

 でも、多分…聞かなきゃいけないことなんだ…。

 紗優は少し考える素振りを見せた後、真剣な表情で答えた。


「莉愛が消えました」

 


――神葬光視点――



 今朝、雪を見送り俺は大分に残ることにした。

 あの柊詩奈という少女の言った通り、雪を助けてくれた人物を見つけることはできた。

 しかし、彼女は謎に包まれたままだ。

 

「探すか…」


 探すといっても、手がかりすらないため、ハンター協会へ向かう。

 可能性は低いが彼女に関する情報があるかもしれない。

 街中を歩いていると、背後から声をかけられた。


「神葬光さんじゃないですか。奇遇ですね」


 振り返るまでもなく、声で誰かわかった。


「はぁ…俺と君は運命の赤い糸で繋がっていたりしないか?」


 いつの間にか背後に立っていた、柊詩奈の顔を見つめる。


「聞きたい事があるんだ」

「はい、わかっていますよ。でも、残念ながらその質問には答えられません」

「なんで?」

「あなたには、まだ役割が残っていますから」


 柊の言っている言葉の意味が理解できない。

 

「役割?なんのことだ?」

「そうですね……」


 彼女はスマホを手に取り、素早く指を動かす。


「ラインを見てください」

「?」


 スマホのロックを解除し、ラインを開く。

 通知が1件来ていた。

 送り主は――


「――柊詩奈…。俺、ライン交換した覚えないんだけど?」

「気にしないでください。それより、送った場所に行ってみてください」


 柊から送られたのは位置情報だった。

 ただ、印がつけられている場所には何もない。

 

「隠れた店か何かでもあるのか?」


 冗談交じりにそういうと、彼女は平然と答える。


「いいえ、何もないですよ」

「……だったらなんでここなんだ?」

「行けばわかりますよ」


 数回程度しか彼女とは会話をしていない。

 でも、なんとなく彼女は情報を意図的に隠しているようには見えない。

 どちらかと言えば、理由があって言えない。

 そんな感じがする。


「これは私からの頼みです。もちろん報酬は用意しましょう。私の出来る範囲で、ですが」


 報酬…ね。

 

「情報が欲しい。妹の…雪のスキルの暴走、その原因。これが俺の望む報酬だ」

「わかりました」


 簡単に了承した彼女を見つめる。


「本当に知ってるんだな?」

「嘘はつきませんよ」


 まだ様子見段階で確信はないが、彼女は嘘をつくような人間じゃないと思っている。

 俺としても情報を得られるし、特に不満は今のところはない。


「わかったよ」


 そう返答すると、彼女は少しだけ驚いた様子だった。


「神葬さんは意外と私を信じるんですね」

「正確に言えば、柊の頭の良さを信じてるんだ。俺に複数回接触してくるところを見るに、俺じゃないと解決できない何かがある。違うか?」

「ふふっ、神葬さんは頭が良いですね。信じてくれたあなたにサービスします」

「サービス?」

「もし、東雲凪君に会ったらできる限り力を貸してあげてください。報酬は質問回数+1でどうです。ちなみに、この質問回数はいつまでも有効なので、好きなタイミングで使っていいです」


 悪い話ではない。

 ハンター協会の情報網ですら見つけることのできなかった妹の恩人ですら、柊は簡単に見つけ出している。

 そんな柊から好きな情報を貰えるなら、十分すぎる報酬だ。


「わかった。俺にできる範囲内だったら力を貸す。…それと、柊。答えにくいことだったら無理に答えなくていい。もしかして『十二天』の柊家の人間だったりしないか?」

「それは質問回数を1回分消費すると受け取っても?」

「いや、それは――」

「――冗談ですよ。質問回数に影響しません。で、私が柊家の人かどうかでしたね……答えはNOです」

 

 答えを得た直後、彼女の顔を見て思わず固まってしまった。


「…どうした、その顔」

「私の顔、おかしかったですか?」

 

 柊の表情はいつも通りだった。

 いや、動体視力が良かったからこそ見えた一瞬だったのかもしれない。

 俺の認識している彼女は、小柄な体格に見合わない度胸と覚悟を持ち、自身の情報能力《強み》を理解し、器用に立ち回る。

 笑顔は多いが目は笑っていなく、人間というより、機械のような少女というものだった。

 だからこそ、意外だった。

 表情にはでなかったが、視線の動きや体の揺れからなんとなく、悲しみ…いや、寂しさのようなものが伝わってきたことが。

 

「いや、気のせいだ」

「そうですか」


 俺は、柊詩奈という人間が少し分からなくなった。

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