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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
2.5章 静かに壊れて

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静かに壊れて

――東雲凪視点――



「対抗戦個人2位に佐藤、鍵谷、神葬雪に模擬戦で勝利…か。一躍有名人だな」

「なんでお前嬉しそうなの?」


 いつも通りハルと登校していると、校門前に見慣れた姿を見つけた。


「ん…あぁ…、じゃ俺はお先に~」


 何を誤解したのか、ハルは先に校舎へと走っていった。

 

「…あいつ……」


 今度ハルと会ったら文句の一つでも言ってやろうと決心しつつ、その人物へ視線を向ける。

 

「…どっちだ」


 ここ最近、何かがおかしい。

 紗優と莉愛の見分けがつかなくなり始めている…。

 わかる日は分かるのに、不思議だ…。

 そんな事を考えていると、彼女と目が合った。


「東雲君、おはようございます」

「あ、あぁ…おはよう」


 この口調は莉愛か…。

 

「何か俺に用があるんだろ?」

「はい。その…今日の放課後、デートしませんか?」


 デート、その言葉の響きに懐かしさを感じた。


「懐かしいなそれ」

「…そうですね。あまり日は経っていないですが、とても懐かしく感じます」

「まあ、特にすることもないしいいぞ」

「ありがとうございます。時雨君や舞花ちゃんたちは大丈夫ですか?」


 莉愛はどこか心配そうに聞いてくる。


「ああ。優がいるからな」

「優さんがいるなら安心ですね」


 そんなやり取りをしつつ、莉愛と一緒に教室まで歩く。

 さて…デートなんて言葉を使っちゃいるが…何を考えているんだろうな。

 莉愛の横顔を観察してみるが、いつも通りの無表情だった。

 …まあ、分かったらこれまでも苦労してないか。 

 放課後に入ってすぐ、莉愛が話しかけてくる。


「東雲君」

「ん?デート、だろ?忘れてない」

「それは良かったです」

「そんな簡単には忘れないだろ」


 そんな事を言っていると、莉愛からジト目を向けられた。

 そう言えば、初めて莉愛と話した時、忘れかけて…というか忘れてたことがあったな…。


「あ…あれは、まあごめん」

「…いいですよ。気にしてませんから」

「気にしてるよね」

「そんなことより行きますよ。時間は有限ですから」


 歩き出す莉愛の後ろをついて行く形で、教室から出た。

 

「目的地は?」

「そうですね…水族館にしませんか?」

「全然いいぞ」


 少し意外だった。

 あまり莉愛のイメージに合わなかったから。

 校門を出ると、黒スーツの人が俺たちの前に立った。


「結乃様、準備はできています」

「ありがとうございます。東雲君、目的地には車で行きますよ」

「あ…あぁ」


 やはり彼女の言うデートは、一般的な捉え方をしてはいけないな。

 車で数分移動し、目的地の水族館に到着した。

 

「近くで待機しておりますので、御用があればいつでも申し付け下さい」

「わかりました」


 莉愛と黒スーツの人が会話をしている中、俺は水族館に懐かしさを感じていた。

 俺の記憶が間違いじゃなければ、ここは昔…母さんと優、家族で来たことがある。


「東雲君、入りますよ」

「ああ」


 受付を手短に済ませ、水族館の中を散策する。


「……」

「……」


 平日ということもあり、そこまで人は多くはない。

 心地の良い静けさに、水槽の光が薄暗い通路を仄かに照らしたこの空間は、とても落ち着ける。

 こういう日もたまにはいいな。

 そんな事を考えつつ、水槽の中を泳ぐ魚を見つめた。


「東雲君は…」

「ん?」


 莉愛の方へ視線を向ける。


「どうした?」

「その、楽しめていますか?」


 視線は下の方を向き、体の前に組んだ手にはわずかに力が入っているように見える。

 わかりやすいな…。

 

「楽しめてるよ。こういうのも悪くないなってちょうど思ってたとこ」


 そう言いつつ、水槽の中を泳ぐ魚を見つめ直した。

 そんな俺の隣に莉愛は移動してくる。


「やはり私は人付き合いが下手ですね。こういう時、もっと楽しめるような場所が良かったんでしょうけど…」


 そう言いつつ、莉愛は水槽のガラスをそっと撫でた。


「私にはここしか思いつきませんでした」

「実はさ…」


 言おうか迷ったが、今の莉愛を見ていると言った方がいい、そう直感した。


「莉愛が行く場所決まってなかったら、俺もこういう静かなところを選んでたよ」

「え?」


 驚いた様子で莉愛は俺の顔を見てきた。


「だって莉愛、ここ最近元気ないだろ?」

「…それは……」

「2日前は立ち眩みで、獅童先輩に保健室まで連れて行ってもらったんだろ?」

「あれは本当にただの立ち眩みで…」

「昨日は俺が教室を出た後、同じように倒れそうになったらしいな」


 そう言った瞬間、莉愛はどうして?と言わんばかりの表情を向けてきた。


「明石とか長石が教えてくれたんだ」

「…そう、ですか。…すいません、やっぱり私といても楽しく――」

「――また変な事を言おうとする」


 莉愛の声にわざとかぶせて、彼女の言葉を中断させる。


「言ったはずだ。楽しめてるって。こういうのも悪くないって。嘘じゃない。そもそも俺だって人付き合いはうまくないんだ。だから、時間の無駄だと思ったら、莉愛と一緒に来ていない」

 

 そう伝えると、莉愛は呆然と俺を見ていた。

 まだ、彼女の心に響いていない気がしたため、もう一言続ける。

 

「今の俺にとって、莉愛といる時間は楽しいんだ」


 言い終わった後に、莉愛の顔を見ようとするが、彼女は物理的に距離をとってきた。

 

「え…莉愛?」

「すいません、少し離れてください」

 

 マズったかもしれない。 

 莉愛に離れてなんて言われ、強いショックを受ける。

 流石に熱くなりすぎて、気持ち悪かったか?

 内心焦りつつも、莉愛の頼み通り距離を保ったまま立っていた。

 これからどうしよう、先の事まで考えていると、莉愛が戻ってきた。


「すいません、少しだけ考える時間が欲しかったので」

「考える時間?何それ?」

「東雲君には教えません」


 莉愛は無表情で水槽を見つめた。

 その様子を見て、嫌われたわけじゃないとほっとする。


「ありがとうございます」

「え?」


 突然、感謝されたことに一瞬困惑したが、先程の俺の言葉についてだと察し、静かに笑った。


「あぁ」


 1、2時間ほどの莉愛とのデートは、以前と違い、何事もなく静かに終わった。



――莉愛視点――



「送迎ありがとうございました」

「いえ、これも仕事ですので」

「それでもです。…では、おやすみなさい」

「結乃様もおやすみなさいませ」


 そう言って走り去る車を横目に、私は玄関の扉を開ける。

 東雲君とのデートで、夕食は済ませてきたため、空腹感はそこまでない。

 クッションに倒れ込み、目を瞑る。

 制服の予備はあるし、朝にシャワーを浴びれば大丈夫。

 そんな思考をするほど、今の私はひどい眠気に襲われていた。


「…あぁ、楽しかった、な……」


 呟くと同時に意識は闇の中へと沈んでいった。

 ………

 ……



『どうして!?なんでなの!』


 気づけば黒一色の空間で、正面には『私』…いや、結乃が悔しそうな表情をして立っていた。

 もうこの光景にも()()()ものだ。

 

『それは私のセリフです。私はもう、思い残すことはありません。だから、もう私のことは良いんです』


 そう言うと、彼女は私に触れようと手を伸ばしてくる。

 でも、その手は見えない壁のようなものに阻まれた。


『莉愛…あなたはそれでいいの?』


 か細く震えるその声に、静かに答える。


『はい。もう、私の存在は揺らいでいることぐらい理解していますよ。この一週間で3日…、あなたが私を演じたその時間は、私が望んだものでもあるんです』

『馬鹿な事言わ――っ!―――!』


 結乃の声は途中から聞こえなくなった。

 ただ、必死に何かを伝えようと、叫んでいることだけは分かる。

 そんな彼女を見ながら言った。


『頑張ってね、結乃』


 ………

 ……

 目を開けると、真っ暗な部屋でクッションを枕に寝ていた。

 スマホを手に取り時間を確認する。


「4時…ですか…」


 私は起き上がり、シャワーを浴び、洗濯済みの制服を着る。


「……何を、してるんでしょうね」


 もう、私には制服は必要ないのに。

 そう思いつつも、制服は脱がず、軽く朝食だけをとった。

 時刻を確認すると、まだ4時半を少し過ぎたあたりだ。


「始発までは時間がありますね…」

 

 私は玄関のドアを開け、散歩を始めた。

 薄暗く人気もない外で、肌寒い風を感じながら、目に映る景色の新鮮さを味わう。


「……」


 この際だから、私が存在していたこの場所を、覚えていようと思った。

 きっと彼と会わなければこんなこともしなかったのだろう。

 そう考えると自然と口角が上がる。 

 そこで気づく。

 私が本当に見たいものが、彼…東雲凪の顔であることに。


「…私は本当に…未練がましい女ですね……」

「そのようですね」

「っ!?」


 咄嗟に数歩下がり、声の聞こえた正面を睨む。


「誰、ですか?」


 そこに立っていたのは綺麗な水色の長髪と、妖しく光る紫紺の瞳が特徴的な少女だった。

 

「…あなたは誰ですか?」


 私の問いかけに、少女は笑顔で答える。


「私は柊詩奈と申します。初めましてでしたね、天宮()()さん」

「なんでその名前を?」


 まさか私の名前を呼ばれるとは思わず、動揺が表に出そうになった。

 

「そう警戒しないでください」

「それはもう不可能ですよ、柊さん。あなた何者ですか?」


 私の質問に、柊さんは微笑みながら近づく。

 そして、眼光が鋭くなった彼女の瞳が私を捉えた。


「――莉愛さん。()()()()()()です」

「っ!?」


 その瞬間、私の視界は光に覆われた。

 

 

 

2.5章 静かに壊れて 完

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