出会い
優のその発言に耳を疑った。
「中心部…柱のある場所に行けない?……冗談じゃないよな?」
「今ここで冗談を言う意味も理由もないわ」
俺は頭を抱え目を瞑る。
今日一日、驚く情報や出来事ばかりで、とっくにオーバーヒート寸前だ。
そう言えばスタンピードの時もこんなことあったな…。
「実は…俺と莉愛は中心部に行けたんだ」
「は?……なんで?」
俺が行けて優が行けなかった理由。
違いがあるとするなら…
「莉愛の存在」
常識的に考えて、個人の存在がゲートの進行に影響されるなんてありえない。
だが、最近の俺の周りはそんな常識に当てはまらない事象ばかり起きている。
だからこそ、ただの妄想だと一蹴できない。
「まさか…そんなことがあるの?特定の人がいないと進行できないゲートなんて、聞いたこともない」
「いや、多分それが結論じゃない。優はどこまで進めたんだ?それと同行者はいたか?」
優は考える素振りを見せる。
「本当に入口付近までよ。森に入った瞬間、気づけば入口前に戻っているの。同行者は加瀬さんよ」
と、なると俺の仮説が真実に近い可能性が高い。
「莉愛に聞いたんだが、天宮家当主と共にあのゲートに潜ったハンターたちは、中心までじゃないが、ある程度は進めていたらしい」
「…ってことは…天宮の血が関係している。凪はそう考えているのね」
優の視線に静かに頷く。
「って、早く行くわよ。時間が無くなる。その話は今度聞かせて」
「わかった」
準備しておいた荷物を手に持ち、優と共に外へ出た。
――翌日――
「おいおい…あれマジかよ…」
昨日に引き続き、今日は今日で何か騒ぎがあったらしい。
校舎内の職員室の前に、多くの生徒が集まっていた。
その集団を見守る生徒たちの中に鍵谷の姿を見つけたので、事情を聞くことにした。
「なぁ、なんの集まりなんだ?」
「ああ東雲か。いや、なんか神葬光がこの学校に来てるらしくてな。今職員室の中で先生と話してるらしい」
「神葬…光……。どこかで……」
「神葬光を知らないのか?あの『十二天』の神葬家の歴代最強当主なんて言われている有名人だぞ」
「へー」
そういえば昔、テレビか何かで見たな。
過去の記憶を思い出している中、横を優より少し色の淡い金髪の女の子が通り抜けていく。
制服を着ていないところを見るに、この子――
「?」
なぜか吸い込まれるようにその子へ視線を向けたあたりで、相手もこちらを振り返った。
「……」
彼女は何も言わず、その翡翠色の瞳で俺を見つめたまま動かない。
「……えーっと」
気まずさを感じ始めた頃、ようやく彼女は口を開く。
「あなたの名前を教えてください」
「「え?」」
驚いた声を出したのは俺だけではなく、一連のやりとりを見ていた周囲の生徒たちもだった。
「東雲凪です」
「…東雲…凪さん…。ありがとうございます」
そう言って彼女は職員室へ向かって歩き出す。
え?それだけ?
とは思ったが、どうやら俺の勘は外れたらしい。
いや…もしかしてこれからなのか…?
「おい東雲!彼女とどういう関係なんだ!?」
鍵谷が血涙を流しそうな勢いで問い詰めてきた。
「いや…俺も…あっ」
「っ!?なんだ!まさか生き別れの――」
「――名前聞けてねぇ」
「「は?」」
俺としたことがうっかりしていた。
ただ…彼女には既視感のようなものを感じる。
「ほらお前ら、教室に戻れー。ホームルームが始まるぞ!」
いつも通り怠そうな態度を隠すことない楠乃先生が職員室から出てきたあたりで、生徒たちは解散していった。
「俺たちも戻るか」
「そうだな。あれ?ハルは?」
「先戻ってたぞ。まあ…興味ないやつは長居するようなものじゃないしな。それに、ここの生徒じゃないっぽいし、俺たちと関係のあるような事じゃないだろ」
そう言う鍵谷と共に教室に戻り、いつも通りホームルームが終わった。
ただ、1限目の『体術』の授業の際、鍵谷のフラグは見事に回収されることになる。
「はい、じゃあ今日は見学の人来てるんで、みんな頑張っていこー」
なぜかこの授業の担当じゃないはずの楠乃先生と、その隣に金髪の兄妹らしき二人が俺たちの前に立っていた。
「あの…」
この状況の違和感に耐えられなかったのか、長石が恐る恐る手を挙げた。
「なんだ?」
「楠乃先生って体術の担当じゃないですよね?」
「今日から俺の担当になったから。これからよろしく。質問はそれだけか?」
「…えっ?あ、はい」
納得してくれというより、受け入れろってことか…。
「まあ全員知ってるだろうけど…見学者の二人、自己紹介をしてくれ」
「了解」
一歩前に出たのは、男の方だった。
「神葬光って言います。一応『十二天』神葬家の当主やってるけど、怖くないから気軽に接してくれると助かるよ。今日は妹の高校見学についてきました」
神葬光が自己紹介を終えると交代するような形で、神葬の妹も一歩前に出た。
「妹の神葬雪です。来年からこの学校に通う予定です。少し時期が早いですが見学のために来ました。今日はよろしくお願いします」
神葬兄に比べ、妹の方は礼儀正しかった。
自己紹介が終わったことを確認した楠乃先生は、近くにあったホワイトボードに何かを書き始めた。
「じゃ、始めるぞー。とりま、『体術』の授業は、前回までが基礎体力作りだったが、これからは個人で頑張ってくれ。ハンターってそういうもんだから。で、本題」
ホワイトボードには『剣術コース』『銃剣コース』『魔道具コース』と大きく書かれていた。
「授業の名称は体術だが、今後は武器も扱っていくぞ。で、今から10分以内にコースを選んでくれ。まあ、現代の主流武器しか書いてないが、大雑把に説明すれば剣のような近接武器を扱うか、遠距離武器をメインで扱うか、魔道具みたいな特殊武器を使うかの違いだ」
本当に最低限の説明だったが、意図はしっかりと伝わった。
俺は基本的に刀を使うから、この場合剣術コースでいいはずだ。
「あ、集計面倒だから、ホワイトボードに名前でも書いといて」
担任教師への不安が募る中、周囲を見る。
ざっと見た感じ、8割の生徒がまだ迷っている様子だ。
今のうちに名前書いとくか…。
そう思い、ホワイトボードの剣術コースの下に名前を書く。
マーカーを置こうとした時、背後に気配を感じ振り返る。
「あ、結乃。はい」
「ありがとうございます」
彼女へマーカーを手渡すと、迷う事なく銃剣コースの下に名前を書いていた。
そう言えば対抗戦の時も銃を持ってたっけか。
名前を書き終わった莉愛と共に邪魔にならないよう、離れた場所まで移動する。
特に会話がなかったため、話題を記憶の中から探っていた頃だった。
「まー、半分は埋まったか?そりゃ言葉だけじゃ伝わらないしな……。んーっと…、そうだ東雲、鍵谷。お前ら戦え」
「「はい?」」
「だってお前らある程度剣術の基礎が身についてるだろ?剣術コースの宣伝にちょうどいいじゃないか」
残念ながら、迷いのある生徒がいるこの現状じゃ正論寄りだ。
そして、おそらくだがあの教師、逃げ道はうまいことつぶしてくる。
「体術の担当は俺だし、授業への積極性は見ないとな~」
なんて分かりやすい脅しだろうか。
「はぁ…わかりました」
こうして俺と鍵谷は先生が言うままに武器を手に握り、対峙した。
「そんじゃ、戦ってー」
楠乃先生のふざけた合図とともに、俺と鍵谷の模擬戦が始まる。
「東雲、お前とは対抗戦の時から戦ってみたかったんだ。だから、全力でいかせてもらうぜ」
鍵谷は大剣を構える。
「わかった」
俺は短くそう答え、彼の一挙手一投足に意識を向ける。
次の瞬間、鍵谷の雰囲気が変わった。
身体強化を使ったみたいだ。
と、なれば仕掛けてくるか。
「はぁっ!」
鍵谷の振るう大剣を木刀で受け止める。
「っ!」
想定しているよりも攻撃が重い。
木製とはいえ大剣で、鍵谷自身も身体強化がかなり上手いからか。
木刀の角度を変え、大剣の力の方向を利用する。
「させるかっ!」
鍵谷は大剣を手放し、腰に差していた木剣を振るう。
やはり基礎の『流動』の対策はしてるようだ。
「っと」
攻撃を中断し、距離をとった。
「やっぱり強いな…東雲」
「お前もな」
そう言いつつ鍵谷は木剣を腰に差し、大剣を再び構えなおす。
「勝負は長引かせないぜ!」
鍵谷は地面を強く蹴り、急接近してくる。
「決める!」
声が聞こえたと同時、鍵谷の移動速度が爆発的に上昇し、いつの間にか俺の間合いに入る。
『縮地』も使えたのか。
「危ないな」
大剣をバックステップで回避する。
「ふんっ!」
どうやら行動を読まれていたらしく、鍵谷は大剣を勢いよく投げ飛ばしてきた。
大剣が目前に迫る中、鍵谷も木剣を抜きつつこちらへ走ってきている。
やはり鍵谷鷹という男はセンスがかなりある。
ただやはり――
「経験不足か」
大剣の回転を目で追い、柄がこちらへ向く瞬間を狙い手を伸ばす。
「なっ!?」
うまく大剣を握ることができ、そのまま向かってくる鍵谷へ振るう。
「ぐぅぅぅ…」
木剣で大剣を受け止め耐える鍵谷を見つつ、空いた片手も使う。
そして――
「ぐぅわ!」
両手で握った瞬間、勢いよく大剣を振りぬき、鍵谷の体を宙へ浮かせた。
「だぁっ!」
そのまま落下し、尻餅をついた鍵谷は叫ぶ。
「降参!勝てっこねぇ!」
「じゃ、東雲の勝利な」
楠乃先生の軽すぎるその声で、この模擬戦は幕を閉じた。
観戦していたクラスメイト達へ視線を向けると、黙ったまま俺たち…というか俺を見ている。
それとは正反対に、神葬兄妹は拍手をしていた。
「ったく、どんだけ力つええんだよ」
「悪いな…『祝福』は常時発動みたいなものなんだ。でも、身体強化の練度が上がれば追い付ける範囲だと思うぞ」
鍵谷を励ましつつ、観戦してるクラスメイトたちの元へ戻ろうとした。
「ってことで、剣術コースはこんなもんだ。本当なら他のコースもやりたいが経験者不足でなー。時間もまだ余裕があるし……あっ、東雲と模擬戦をしたい奴を募集しようか」
「は?何言って――」
「――私も模擬戦に参加しても良いですか?」
楠乃先生の狂ったような提案を取り消させようと声を上げたが、どうやら遅かったらしい。
俺の視線は片手を控えめに上げた神葬雪へと向けられる。
「神葬兄、妹を参加させても大丈夫なのか?」
「問題ないと思うよ」
「それならいっか」
「よくないでしょ。俺はやるとは――」
「――じゃあ、準備してくれ。神葬妹はスキルはあるのか?」
どうやらこの人に耳はないらしい。
完全に楽しんでるな…。
「はい、あります」
「ならスキルを使っていいぞ。平等にしないと楽しめないからな」
「おい担任、それが本音だな?」
これが職権乱用か…腐ってるな本当に。
声には出さず心の中で愚痴っていると、雪が正面に立つ。
「私のスキルは『氷姫』。氷を生成することができます。例えば――」
雪の手に氷の刀が生成された。
「これとか、あとは…」
彼女の手から氷の刀が消えた次の瞬間、周囲に複数の氷の柱が出現した。
それと同時に冷気が周囲に溢れる。
「こんなこともできます」
能力自体は複雑じゃなくシンプルだ。
しかし、シンプルだから弱いわけじゃない。
むしろ彼女の氷系統の能力は近接戦において強すぎる。
「なんで手の内を明かしたんだ?」
俺の質問に雪は首を傾げつつ答えた。
「平等にするためですよ。先生、刃のない武器を生成するので使ってもいいでしょうか?」
「じゃあいいよ」
なんか先生適当になってないか?
それにしても、平等…か。
それほどの実力者か…あるいは慢心か…。
できれば後者であることを願っておこう。
「それでは、戦いましょうか」
彼女は氷で剣を生成し、構えた。




