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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
1章 偽りの果てに

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なるべくして成ったもの

 俺こと東雲凪はハンター資格を持っている。

 別にこれは隠していたことではない。

 単純に話すような関係の人間がいないから、誰にも認知されていなかっただけだ。

 それが、入学後数週間が経過した今日、バレた。



――放課後――


 

 一部から悪意にも似た視線を受けつつ、息苦しい授業を終えた。

 ようやく帰れると一息つきながら、校門を目指す。

 俺の親友たるハルは交友関係が広く、今日は友達とカラオケに行くらしい。

 全くもってそのコミュニケーション能力を俺にも分けて欲しい限りだ。

 靴箱から自分の靴を取り出し、校門に向けて歩き出す。

 その途中、俺に対する陰口が聞こえた。


「おい、あいつ…」

「ああ、おそらくあいつだ。魔力9のくせにハンター資格持ってるらしいぜ」

「確か中級だっけか?」

「マジ?じゃ、俺も中級とってくるわ」

「あまり大きい声だすと聞こえるぞ」


 まったく…現代社会の情報の拡散力は驚異的だな。

 

「東雲君」


 物凄く聞き覚えのある声…これは天宮さんか。

 天宮…結乃……、あれ?天宮……

 俺の脳内にとある一場面が再生された。


『それで、俺に用事?』

『はい、放課後でいいので少し付き合ってください』


 ……まずい。

 普通に忘れて帰ろうとしてた。


「あ、天宮さん」


 声が震えそうになるのを抑えつつ、ゆっくりと振り返る。


「天宮は二人います」

「結乃さん」

「正解です」


 相変わらず無表情、だけど俺が名前を呼ぶ瞬間だけは少し嬉しそうに見える。

 いや、俺の目の青春を求めるフィルターがそう見せているだけかもしれない。


「相変わらず良く見分けられますね。それで、今からお帰りですか?」

「はは…まさか、結乃サンを待って――」

「――忘れてましたよね?」


 無表情だからこそ見つめられると怖い。

 無言の圧に耐えかね、すぐさま謝る。


「ごめん、完全に忘れてた」

「正直でいいですね。それじゃあ、行きましょうか。周囲の視線をこれ以上集めたくはないでしょう」


 そう言われて俺は周囲を見渡す。

 すると、チラチラと俺たちを見てくる生徒たちが多…いや、めっちゃいるなホントに。

 足早に学校から距離を取り、結乃に訊いた。


「それで、聞きたいことがあるんだろ?ハンター資格のこととか」

「それもあります」


 天宮結乃が、何を考えて俺に接触をしてきたかが不明すぎて、どの行動が最善なのか判断に苦しむ。

 断ってしまえばよかったのか?と思ったが、後が怖いと気づき思考を捨てた。


「じゃあ、立ち話ってのもあれだし、近くにゆっくりできる店が…」

「あなたの家でいいですよ」


 結乃と言葉が被る。

 

「え?」


 思わず間抜けな声を出してしまうほど、理解不能な言葉が聞こえた。

 流石に幻聴だろうと思うことにしよう。


「結乃さん…どちらに行こうと?」

「あなたの家ですが?」


 そんなナチュラルに言えることじゃなくね?

 こんなすんなりと男の家に…しかも、今日初会話した俺の家に来ようとしている?

 普通の女の子の発言だったら、少しは舞い上がれたのかもしれない。

 ただ、目の前の…天宮結乃の今の発言には、警戒を強くせざるをえない。

 




 道中、別の場所をオススメしてみたものの、全く効果はなかった。

 おかげ様で俺の家の前までノンストップだった。

 

「ここが俺の家だ」


 そう言いながらインターフォンを鳴らす。

 

「はーい」


 中から元気な子供の声が聞こえると同時に、玄関の扉が開かれた。


「あ、兄――え?」

「シグ兄、どうし――あれ?」


 目の前には固まる弟と妹、隣には相変わらずの無表情な結乃。


「オッケー二人とも、何も言うなよ」


 二人が何か言う前に、天宮を自分の部屋に連れ込んだ。


「東雲君に弟や妹がいたなんて知りませんでした」

「あー、血はつながってないけどな」

「血はつながっていない?」

「ああ、拾い子なんだよ。二人とも」


 別に隠すようなことでもない。

 流石に理由までは話せないけど…。


「そう言えば、ご両親は――」

「――いないよ。この家には俺と弟の時雨しぐれと妹の舞花まいかの3人だけだ」


 しまった…、少し口調が強くなりすぎた。

 これは俺が悪い。

 質問は予想できたのに反射的に声が出てしまった。

 

「おおよそ理解しました。あなたがハンター資格を持っている理由を」

「察しが良いことで」

「…東雲君」

「ん?」


 突如、天宮結乃から放たれる雰囲気が一変した。


「短い時間でしたがあなたと過ごして確信しました。これから私はあなたに頼み事をします。これは、あなたにしか頼めないと思ったからこそする、頼み事です」


 ただならぬ嫌な予感はこれのことだったのか?

 しかし、疑問は多くある。

 接点を持って数時間レベルの人間に、重要な事を頼むような人間がはたしているのだろうか。

 もしも、その願いが危――

 

「――私と友達になってください」

「……は?」


 本気でコケてやろうかと迷うほど、彼女の頼み事は俺の予想を大きく外れていた。



――翌日――



「おはようって元気よく言いたいんだけど…どした?」


 登校中に合流した親友にいきなり心配された。

 顔に出したつもりはなかったが、ハルは鋭いな…。


「いや、少しいろいろあってな」

「いろいろ?まさか…イジメ的な?」


 ハルの雰囲気が一瞬だけ変わった気がした。

 

「いやそういうのじゃないんだ。例え話なんだけど、ハルはいきなり有名人に話がしたいって言われたらどうする?」

「人によっては大歓迎だな」

「話をする場所は自分の家」

「怪しいな。というより俺なら逃げるね」


 彼の意見を聞いて、自分の思考回路が一般的であることを再認識できた。

  

「ってか、いきなりそんなことを聞くってことは…」

「ああ、昨日天宮さんとな…」

「天宮!?まさか…天宮紗優か!?」

「いや、天宮結乃の方」

「天宮結乃?ああ…そう言えば双子だったような?」


 ハルは中学の頃、2年連続で天宮姉妹とクラスが一緒だったことがあるらしい。

 そんな彼でも双子だと忘れるほどの存在感というのは、少し異常に感じる。

 天宮結乃とは昨日初めて接点を持ったから詳しくはわからないが、何か裏…とても深い事情がありそうだ。


「どちらにせよ気を付けろよ。本当の本当にな。いくら天宮結乃が相手でもだ。…それで、話って何だったんだ?

「いきなり友達になってくださいだって」

「は?で?なんて言ったん?」

「とりあえずOKだした」


 ハルは真顔でこちらを見てくる。

 その気持ち、死ぬほどわかるぞ。


「惚気話か?」

「どうしてそうなった?」 

 

 空気はすっかり緩み、ハルはいつも通り陽気に軽口をたたく。

 俺がこれ以上深く考えすぎないよう、彼なりの気遣いだったのかもしれない。

 気づけば学校についていた。

 

「じゃあな」

「ああ」


 教室前でハルと別れ扉を開ける。

 一瞬だけクラスの何人かが俺を見てくるが、すぐに視線を逸らす。

 いつも通りだな。

 自分の席の前まで移動した時、異変に気付く。


「……」

「……」


 結乃がずっと俺を見てくる。

 用事があるのか?と思い、目を合わせたまま待ってみる。

 しかし、結乃は立ち上がりもしない。

 用事じゃないのか?

 校内に朝のホームルームを知らせるチャイムが鳴り響いた。

 担任である楠乃先生が現れ、出欠確認と短い話をしホームルームは終わる。

 

「……」

「……」


 やはりまだ見られている。





「えー、なので――」


 1限の座学の授業が始まって数十分が経過した。

 先生が魔法の詠唱について語っている間ですら、結乃はチラチラとこちらを見てくる。

 2限目の魔法実技になっても、結乃の視線を感じる。


「じゃあそれぞれの適正の基礎魔法を的に当てていこうか。前回、的に当てれなかった人は、的に当てる努力を。当たったやつは…自主トレがんばってれ」


 楠乃先生の軽いノリの声が響く中、結乃と目を合わせてみる。

 彼女は視線を逸らすことなく、堂々と見てくる。

 

(……いい加減、頬を染めて視線をすぐに逸らす、って展開があってもいいと思うが…)


 不気味さと徐々に大きくなる恐怖を紛らわせるため、心の中で軽口をたたいてみる。

 効果はイマイチだった。

 地獄とも形容できる1から4限の授業を終え、昼休みに入った。

 クラスに友達というものが存在しないから、教室にいても気まずいだけの俺は、毎回一人になれそうな場所を探している。

 今日、俺が目をつけたのは学校の屋上だった。

 立ち入り禁止の張り紙を見つつ、屋上の扉を開ける。

 

「あまり綺麗とは言えないな…ん?」


 全体的に汚れていると思っていたが、一か所だけ綺麗な場所がある。

 誰かが掃除をしているのだろうか。

 

「少し時間を貰ってもいいですか?」


 背後で結乃の声がしたため振り返る。


「結乃さん…どこからいた?」

「扉を開けているところからです」

「全然気づかなかった」

「……」


 結乃は黙ってしまった。

 会話の流れで、今日の行動の理由を話すと思っていたんだが、聞く必要があるらしい。


「ずっと俺のこと見ていただろ?用事があるなら言えばいいんじゃないか?」


 そう言った直後、待ってましたと言わんばかりに結乃がこちらに歩み寄ってくる。


「用事…もありました。ただ、見ていたのは単純に観察をしていたんです」

「観察?俺を?」


 俺が好きなのか?なんて軽口をたたいてやろうと思っていたが、次の発言で思考が止まった。


「はい、あなたはなぜ()()()()()をしているのか気になったので」


 普通のフリ…だと?

 

「……」


 思わず結乃を睨みつけそうになった。

 

「言いたくないのなら言わなくて大丈夫です。私もこれ以上詮索するつもりはありません。では、ここからが本題です。東雲君に頼みたいことがあります」


 彼女が詮索をしないと言った以上、引っ張ることじゃない。

 気持ちを切り替える。

 結乃の表情からして、かなり重要なことっぽい。

 いや、これはデジャヴじゃないか?

 昨日も重要な頼み事をしてくると思った途端、友達になってくださいなんて言ってきたんだ。

 断る選択しもあるだろうが、今日の行動から彼女はかなり粘り強い性格という予測がついている。

 無難にやり過ごすなら、適当にオーケーとでも言って言うべきだな。

 それに、彼女は現時点で唯一の同クラスの友達だ。

 ここらで好感度を多少上げとくのも損じゃないだろう。


「今週の土日どちらかに私とデートしませんか?」

「わかった。……え?」


 正直、この時の俺は脳死状態だったと思う。


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