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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
2.5章 静かに壊れて

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食違

――東雲凪視点――



「……」

「驚かないんですね」


 スタンピードの起きたあのゲートの中で、莉愛に過去の話を聞かなかったら、何を言っているんだと、物凄く疑っていただろうな。


「やはりあの事件の中で、莉愛と結乃の話は聞いていましたか」


 どうやら紗優もある程度は予測していたらしい。


「で、わざわざ俺に接触してきたってことは、頼みがあるんだろ?」

「話が早くて助かります。東雲君、莉愛を()()()()ください」


 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


「……なんのために?」

「莉愛を守るためです」


 俺は莉愛と紗優の関係を深くは知らない。 

 ただ、これまでの彼女たちの様子を見ていて、その言葉が嘘じゃないことぐらいはわかる。

 

「莉愛を守るため…か」


 しかし、やはり拘束というのは…。

 渋っている俺に、紗優は一冊のノートを手渡してくる。


「私は結乃の事を知りません」

「知っていたんじゃないのか?」

「正確に言えば、莉愛がなぜ結乃として生きているのか…その理由を知りません。以前、両親や莉愛本人に聞いたことはありましたが、はぐらかされるか嘘をつかれました」

「嘘ってわかるんだな」

「他人ならまだしも家族ですよ。ある程度分かります。まず最初に、答え合わせをしたいんです。それに私が立てた仮説が全部記されています」


 紗優から手渡されたノートを開く。

 そこには『多重人格の可能性』や『莉愛に限りなく近い別人説』など、複数のタイトルと、膨大な量の根拠となる情報が記されている。

 だが、いずれのタイトルも最後にはバツが書かれている。

 ページをめくっていき、つい最近書かれたとされる部分に目を向けた瞬間、思わず声が出た。


「マジか…」


 そこには、二重丸で囲まれた『莉愛の中に結乃が封印されている』という文章があった。

 最後まで見てもバツのマークはない。


「私の考えをお伝えしますね。現在の莉愛の中には結乃が封印されている。これが最も真実に近いと思います。根拠を聞きますか?」


 これはただの茶番だ。

 それに気づかないほど、鈍くはない。

 

「……いや、十分だ。答え合わせする必要なかったんじゃないのか?紗優はすでに確信している。じゃないと莉愛を拘束するなんて言わない」


 紗優は目を丸くして俺を見てきた。

 そんなに変なことを言っただろうか?


「ふふっ、やはりあなたは察しが良くて助かります。正直な事を言うと、確信しています」


 読み終えたノートを紗優へ返す。


「で、拘束するのは莉愛を守るためだったな?どうして、守るに繋がるんだ?」

「拘束できれば、莉愛があのゲートに近づかずに済むからです」

「莉愛がゲートに?それには理由があるのか?」


 紗優は立ち上がり、ゆっくりと窓に近づいた。


「私の勘です」

「……勘?」

「はい」


 いや、違う。

 おそらく勘なんかじゃない。

 紗優のことを詳しく知っているわけじゃないが、この状況の中、勘なんて曖昧なものを信じて動く人とは思えない。

 まあどちらにせよ、現状の俺にできることはないのは確かだ。

 紗優から情報を引き出せるほど、俺は口は達者じゃないしな。


「わかった」

「ありがとうございます。準備ができたら連絡しますので、東雲君も心の準備をお願いします。期待していますよ」


 紗優はそう言うと教室を出ていった。


「…はぁ。一体、どうなるんだ…これ」


 紗優が先程立っていたあたりの場所へ移動し、窓から外を眺める。

 

「なんで俺だったんだ…」


 脳裏に以前、デートという名目で天宮本家へ行ったときの事を思い出す。

 あの時に久しぶりに優の顔が見れて…それで……


「あ」


 忘れていた。

 確か莉愛は優と面識があると言っていた。

 もしかすると、優なら何かを知っているんじゃないか。

 いても立ってもいられず、急いで帰宅し優に訊いた。

 

「優、昔のり…結乃のこと、何か知らないか?」

「はぁ?覚えてないの?」

「んん?」


 予想の斜め上の返しをされ、呆然と優を見つめた。

 

「何がんん?よ。昔お母さんと一緒に天宮本家へ行った時、会ってたでしょ。それも1回2回じゃない」

「それ…本当?」

「なんであんたにこんな嘘をつかないといけないわけ?」


 この反応、本当っぽい。

 でも、さすがにおかしくないか?

 1回程度の出会いなら忘れていてもおかしくはない。

 だが、3、4回ほどで会って、これほど綺麗に忘れるってあり得るか?


「で、どうしてそんなことを私に聞いたの?」

「いや、結乃が――」

「莉愛で良いわよ。私に隠しても意味ないから」

「っ!?」


 声が詰まった。

 

「…どこで知ったんだ?」

「イビルジラーフにトドメを刺す時、なんて呼んだか覚えてないの?思いっきり莉愛って叫んでたわよ。それに、紗優に聞いて思い出したわ。昔、あんたとお母さんが天宮の家まで行ってた時、莉愛って子の話をしていたような気がするわ」


 まさかの自分のミスと、衝撃の事実を告げられ多少なりともショックを受けるが、すぐに情報の整理を始める。


「昔…に?」


 莉愛のことはひとまず置いといて、紗優の方は繋がったな。

 やはり、俺に接触してきた時点で、確信していたのか。

 だったら、あの答え合わせは何だったんだ?

 考えても埒が明かない。

 つい考え込んでいたら、何かを察した優が言ってくる。

 

「別にあんたが気を落とす必要はないわよ。私たちにとって、名前は重要なものだから…。莉愛に名前を大事に思って欲しいって気持ちが大きいのは理解しているわ。それに、昔からあんたは嘘下手でしょ」

「嘘が下手は余計だろ…。でもまあ、優の言う通り、俺たちの名前は師匠…母さんが残してくれた数少ないものだからな」

「えぇ…」


 どこか遠い目をしていた優はふと、我に返る。

 

「それはそれとして、早く準備して行くわよ」

「そうだった」


 靴を履いて玄関を出ようとする優を見ていると、もう一つ聞きたいことがあったのを思い出した。


「なあ、優は『追憶ノ双生』っていう名前のゲートに聞き覚えがあるか?」

「…あるわよ。というか一度見てるわ」


 まあ、母さんのお墓に定期的に通う優なら気づくか。

 そもそも、莉愛とも友達っぽいし。


「そして、多分忘れられないゲート…」

「ん?どういうことだ?」


 優はゆっくりとこちらを振り向き、答えた。


「あのゲート、どれだけ探索しても()()()()()()()()から」

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