浸食
――翌日――
「東雲!次の体術、俺と組め!」
俺の記憶が正しければ、先日は良い感じの話し合いを佐藤として終わった。
はずなのだが、今目の前にいる佐藤はまるでリセットを食らったかと疑いたくなるほど、初期状態に戻っている。
「え……」
いや、正確に言うなら佐藤の俺を見る目は変わった気がする。
今は憎しみや殺意などは感じられず、ライバル視をされている感覚だ。
「いいけど、体術なら俺が有利だぞ?」
断ればしつこさが増すだけだと判断し、ノリ気な雰囲気を作る。
こういうのは穏便なのが一番だ…。
「いつまで調子に乗ってられるか見ものだな」
「そっか…」
結果は俺の圧勝だった。
目の前に倒れる佐藤の肩を揺らす。
「なあ、大丈夫か?」
「くそ…が」
完全にダウンした。
こいつ本当に記憶リセットされたんじゃないのかと本気で疑った。
なぜ『祝福』のある俺に体術で競おうとするんだろうか…。
「東雲と佐藤って一気に仲良くなったな」
「確かにな」
明石と鍵谷が話しかけてくる。
「そう見えてんの?」
「ああ」
まあ、他人からそう見えているなら、面倒という本音を上手く隠せているんだろうな。
「ところで東雲、天宮…結乃さん最近変わったくね?」
「確かに。雰囲気が柔らかくなった感じがするね」
そう言われ、莉愛へ視線を向ける。
彼女の周りには長石や高山、藤本がいる。
莉愛がクラスメイトとあれほど距離を詰めている。
以前じゃ考えられない光景だった。
「結乃さんの魅力に気づかれてしまう。って不安になったか?」
「は?」
鍵谷がニヤつきながら肩を叩いてくる。
「クラス対抗戦の時から違和感あったんだよ。妙に信頼し合ってるっていうかさ」
「何を言うのかと思えば――」
ふと、莉愛と目があった。
「お、こっち見てるな。東雲、手ふってやれよ」
鍵谷に言われるままに手を振ろうとした瞬間、視線を逸らされた。
「ん?これは青春の匂いがしますな」
「気のせい…か?」
視線を逸らすほんの一瞬、彼女は苦しそうにしていた。
昨日の違和感といい、彼女の身にやはり何か良くない事が起きているのは確定みたいだ。
放課後に入ってすぐ、俺は教室を後にする。
「優がいるうちに何とかしないとな……」
「優さんがどうかしましたか?」
振り返るとそこには莉愛…いや、紗優がいた。
「気にしないでくれ。ただの独り言だ」
「そうですか」
放課後に入って真っ先に教室を出たはずなのに、紗優は待ち伏せていた。
その時点で、俺の知らない何かが動き出しているんだろうと予測できる。
「東雲君、少し付き合ってくれませんか?」
スマホをタップし、時間を確認する。
「…まあ少しだけなら大丈夫だ」
「それは良かったです。では、ついてきてください」
紗優について行った先には、空き教室があった。
「この中でお話しましょう」
「あ、ああ」
教室内にあった椅子と机と椅子の配置を少し変え、俺と紗優は向き合う形で椅子に座る。
「では、単刀直入に言います。莉愛は死へと向かっています」
――莉愛視点――
放課後、東雲君が素早く教室から出ていった。
東雲君の後を追うように教室を出ようとした瞬間、視界が揺らぐ。
「あっ!」
「ちょっ!結乃ちゃん!?大丈夫?」
倒れそうになった私の体を受け止めたのは長石さんだった。
「すみません長石さん」
「いや、私は大丈夫なんだけど…。結乃ちゃん、どこか痛いの?」
「すいません、睡眠が十分にとれてなくて、フラついてしまったようです」
自然と嘘をついた。
「そっか、それならよかった。キツいときはちゃんと言ってね」
「はい、ありがとうございます」
本気で私を心配してくれた彼女に対し嘘をついた罪悪感は感じない。
嘘をついて人を騙す。
今更罪悪感を感じるなんて、私にはもう遅すぎる。
長石さんから離れ、廊下へ出たが、そこに東雲君の姿はない。
「行って…しまいましたか」
なのに、なぜだろう…。
嘘をつき続けた私は、彼に…東雲凪には嘘をつきたくない。
そんな感情が芽生えてしまった。
「私…らしくないですよね…」
俯瞰して自分を見つめ、冷静さを取り戻す。
まだ、機会はある…明日にしよう。
そう考え、私は帰宅した。
「……っ?」
玄関の扉の鍵を開けた瞬間、一気に睡魔に襲われる。
ここまで強いのは久しぶりだ。
リビングまで頑張って移動し、巨大クッションに倒れる。
そして、数秒も立たないうちに意識は沈んでいった。
…
………
……………
『忘れないで…これは■■■■なの』




