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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
2.5章 静かに壊れて

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不穏

 佐藤との決闘に勝利した翌日、ようやくいつも通りの日常が始まるかと思っていたが…


「東雲君、今度僕に剣術を教えてくれないか?」

「ずりぃ、俺もいいか?」

「あ…あぁ」


 別のベクトルで面倒事が増えたように感じる。

 別に頼られることは嫌いでもないし、人脈を作るのは重要なことだとは把握しているつもりだ。

 ただ…

 

「……」


 隙あらば佐藤の睨むような視線に意識を持っていかれてしまう。

 それには鍵谷も苦笑していた。


「あはは…、佐藤…ずっと睨んできてるな」

「東雲君、佐藤君は口や態度は悪いかもしれないが、良いやつなんだ」


 どこが?と聞こうとしたが、ここは明石のフォローに乗ることにした。


「ああ、それは薄々気づいてるよ」


 これ以上の争いを生みかねない発言は自重しなければ。

 しかし、佐藤の睨むような視線は放課後まで続いたため、とりあえず話をつけることにした。

 

「で、屋上に来てまで俺に話ってなんだよ」


 放課後になってすぐ、佐藤と共に屋上に足を運んでいた。

 ここなら一応立ち入り禁止扱いを受けてるし、他の生徒が来る心配がないはずだ。


「いや、佐藤って強いんだなって思って」

「はぁ!?お前、わざわざ煽りに来たのか?」

「気が早いぞ。これは素直に感心しているんだ。魔法と剣術、どちらも実戦に使えるぐらいの技術は持っていた。あ、剣術の方は対人戦レベルじゃなく、あくまで知能の低いモンスターが相手の場合――」

「普通に言ったらどうだ?低レベル相手にしか通用しないってよ」


 少し意外だった。

 てっきり佐藤は、他人からの評価ばかりを気にしていると思っていたから。


「佐藤って結構客観的に自分とか見れるんだな。それなら呆気なく紗優に負けるとは思いにくいけど」

「油断しただけだ」

「そうか、油断か。少し安心した。紗優が三人を相手に余裕で勝ってたら、人間枠として見れなくなりそうだったからな」


 空気を和らげようと冗談を交えると、佐藤は悔しそうな顔をした。


「はっ、どうせあいつが本気だしたら、俺たちなんて簡単に倒せるだろうよ」

「え……」


 紗優の話は避けた方がいいな。

 ただ、今の会話から佐藤の本質を垣間見ることができた。

 彼は俺を通して自分の弱さに怒りをぶつけているんだ。

 その姿は…どこか俺と似ている。

 だからだろうか…つい余計な事を口走ってしまった。


「今すぐにとかは無理だけどさ。今度戦う機会があったら、魔法の使用制限なしで戦おう」

「お前だって本気じゃなかっただろ」

「それもそうだな」

「…なんか舐められてる気がして腹立つ」


 そんなやり取りをしていると、ふと過去を思い出す。

 母さんと模擬戦をしている中で、よく優が木刀を手放して泣き言を言っていた。


『…お母さん強いー。手加減して』

『優、無茶言うな。師匠はめっちゃ手加減してるぞ。あからさま過ぎて少し腹が立つけどな』


 そんな優に俺はいつも通りの対応をして…、最早日常となったそのやりとりを見ていた母さんが、いたずらっぽい笑みを浮かべて煽ってくる。


『ふっふっふっ。私は英雄って呼ばれてるんだよ?子供に負けるわけないじゃん』


 ここまでの流れが定番だった。

 こんな記憶を思い出したのは、佐藤がその時の俺と似てるからだろうか。

 

「ま、いいや。次は俺が勝つ。それでいいだろ?」


 佐藤はそう言って、屋上の出入り口へ向かって歩き出す。

 

「そうだな」

 

 短く返したあたりで、扉が閉まる音がした。

 聞いていたのかいなかったのか、定かじゃない。

 ただ、俺と佐藤の距離感は今はこの程度でいいと思った。

 佐藤が去って少ししたあたりで、屋上を後にし階段を降りていく。

 その途中、莉愛らしき姿の生徒が、廊下を呆然と歩いているのを発見した。

 

「莉愛」


 普通程度の声量で声をかけたつもりが、彼女には聞こえていないのか、反応が見られない。

 そういえば、今日の莉愛は元気が無さげだった。

 もしかして、どこか悪くなったんじゃ…。


「り…あっ」


 そこで気づく。

 

「そういうことか…結乃」

「ん?あぁ、東雲君ですか」


 今度はすぐに反応があった。

 冷静に考えてみれば、周囲に人がいなくても校内であることに変わりはない。

 どこで人が聞いているかわからない以上、リスクのある行動は避けないとな。

 そんな事を考えつつ、彼女に近づこうとした時、足が止まった。


「……どうしました?」

「…あ、いや…なんでもない」


 正直、自分の認知能力を本気で疑った。

 なぜなら、目の前の少女が莉愛か紗優がわからなくなったから。

 おかしい、普段ならわかるはずなのに…


「そうですか。それで、用事ですか?」

「え?あ、いや別に姿が見えたから…」

「すいません。少し急ぎの用事があるので、今度ゆっくり話しましょう」

「あぁ…」


 そう言うと彼女は歩き去っていく。

 

「……やっぱりおかしいよな…」


 この階に教室はない。

 あるのは職員室や校長室、保健室のみ…。

 

「…こういう時の嫌な予感って、当たるんだよな…」


 距離的に近かった保健室の扉を開ける。

 室内には先生は見当たらず、代わりに2年か3年の先輩がいた。

 

「ん?申し訳ないけど、今先生は不在で…って、先生に用はなさそうだね」

「はい。聞きたいことがあって、さっきここに天宮結乃さんがいたと思うんですけど…」

「あー、すれ違っちゃったね。君は?彼氏かな?」


 変な勘違いをされそうだったので、すぐに訂正を入れる。


「違います。友達です」

「へぇ~。ま、いいや。彼女さんのこと気にしてあげてね」

「だから彼女じゃ…。もしかして、結乃ってどこか悪かったりするんですか?」


 心拍数が上昇し、思わず食い気味に質問してしまった。


「たまたま廊下で見つけてね、本人曰く軽い立ち眩みを起こしたらしい。一応、保健室まで来てもらったんだけどね。水を一杯ほど飲んだら出ていったよ」

「立ち眩み…ですか」


 莉愛が立ち眩み?

 先程見た莉愛は、特に体調不良という様子もなかった。


「私の経験上…彼女は何か精神的に不安定になっているんだと思うよ」

「そうですか…。結乃の事は注意して見ときます」


 そう返答し、保健室を出ようとすると先輩が引き留めてくる。


「君は、他人である私の言葉の信じるのかい?」

「正確にいうなら、自分の勘を信じてます」


 俺の言葉を聞いた先輩は満足そうに笑う。


「君、私の好きなタイプだ。ここは自己紹介をするべきだね。私は2年の獅童しどうひとみ、君は?」

「1年の東雲凪です」

「東雲君か。困り事があったらここに来るといい。可愛い後輩の頼みだ。面倒じゃなかったら協力するよ」

 

 最後に余計な言葉がある気がするが、悪い人じゃなさそうだ。

 どことなく、楠乃先生に似た雰囲気なのが不安要素だな。


「ありがとうございます。困ったら遠慮なく来ます。それでは」


 会話を終えた俺は保健室から出て、帰路につく。

 

「さて…、どうしたものか……」


 まだ俺は、いつも通りの日常に戻れたわけじゃないのかもしれない。

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