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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
2.5章 静かに壊れて

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目覚め

――東雲凪視点――



「はぁあ」 


 スマホのアラームを止め、大きな欠伸と共に背伸びをする。

 スタンピードの件からおよそ2日が過ぎた今日は、久しぶりの登校日となっている。

 つい昨日まで入院していたが、俺のあまりにも健康的な体を見て、医者は驚愕しつつ、退院を認めた。

 正直、学校は面倒だが、後の事を考えれば早めに戻ったほうがいい。

 登校の事を考え、憂鬱になりつつ階段を降りると、朝食の準備がすでに済まされていた。

 おとなしく椅子に座ると、優がごはんを目の前に置いてくれる。


「いただきます」

「食べたら学校でしょ?」


 静かに現れた優は目の前の椅子に座り、スマホを触りながら訊いてくる。


「ああ」

「帰ったらいつも通りね」

「助かるよ」


 あのスタンピードが起きた日、優が突然うちに泊まると言ってきた。

 理由は教えてはくれなかったが、俺としても優に頼みたいことがあったから、二つ返事でOKを出した。


「別に泊まるからって、食事を作ってもらうのは…」

「親しき仲にも礼儀あり、って言うでしょ?タダで泊めてもらうのはごめんだわ」

「そっか」


 口調や俺に対しての態度は昔とは全然違うけど、真面目なのは変わってないな。

 

「ねぇ…、時雨と舞花のことなんだけど」

「ん?どうかしたか?」


 優は何か言いづらそうに表情を曇らせた後、椅子から立ち上がった。


「いや…なんでもないわ」

「うわ…気になるんだけど」

「いいから、早く食べて学校行きなさいよ」


 そう言って彼女はこの場から立ち去った。

 

「何なんだ…。と、俺も出るか…」


 あらかじめ準備しておいた荷物を手に、玄関を出た。

 そこからはいつも通り、ハルと合流し共に校門前まで移動する。

 が…そこで俺の忘れていた問題が発生した。


「なあ…あれ…」

「そうだよな…クラス対抗戦2位って……」

「……」


 試験での出来事が濃すぎて完全に忘れていた。

 

「そういや俺、クラス対抗戦で目立ったな」

「そうだな」


 おそらく俺に関してであろう陰口が至る所から聞こえてくる中、極力反応しないように教室前まで歩く。


「…」

「じゃ、俺別クラスだから頑張れよ」


 足早に3組の教室へ歩き去るハルを見届け、俺も教室の扉を開けた。

 その瞬間――


「おい、東雲。俺と勝負しろ」

「マジか…」


 反応しないと決めていたのだが、さすがに声を出してしまった。

 確か、早々に1組方面に向かって脱落した3人組のリーダーポジションの生徒だったはず。

 元々俺にいい印象を抱いていなかったことも重なり、絡んできたってところか。


「俺はお前が対抗戦個人の2位なんて認めねー。だから勝負しろ!それとも何か?まぐれで勝ちましたって言うのか?」

「そうだけど?」

「お前…舐めてんのか?」

「あのさー、厄介事は放課後にでもしてくれるか?」


 背後から楠乃先生の声がしたため振り返る。


「楠乃先生」

「めんどくせーけど、『決闘』の手続きぐらいならしてやる。はぁ…外で問題起こされるよかましか…」


 ため息交じりの先生の言葉に、佐藤は納得したのか席に戻っていった。

 

「じゃ、ホームルームだ。席に着け」


 来てほしくない時間というのは、あっという間に来るものだ。

 放課後、俺たちは体育館へ足を運ぶ。

 

「それじゃあ、試合なり決闘なり好きにしてくれ…というより、早く終わらせてくれ」

 

 俺と佐藤は向かい合い、審判役の楠乃先生が間に立つ。

 周囲には、見物に来ているクラスメイトと、一部他クラスの生徒たちがいる。

 

「棄権するなら今のうちだぞ?」


 佐藤が煽りを入れてくるが、反応する気力すら湧かない。


「棄権はやめてくれ。俺の移動した力が無駄に終わる」

「…ふっ、逃げ道を失ったな東雲」


 楠乃先生の一言で、煽りが台無しになったな。

 先生も大変だな…。

 莉愛が昼あたりに言っていたが、この学校は以前まで『決闘』は生徒のみで行うことができていたらしいが、ある生徒が『決闘』で命に関わる重症を負わせてしまい、そこから教師の許可、監視が必須となったらしい。

 楠乃先生に頭が下がるな。


「あーっと、一応言うけど武器が木製だからって油断するなよ。当たれば最悪骨折だからな?」


 先生の注意を聞いていたのか定かでない佐藤が、距離を詰めてくる。

 完全に怒りを越えて殺意があるように見えるのは気のせいじゃないな。

 木剣を握りしめ、佐藤の初撃を受け流す。


「っ!」


 剣術基礎の『流動』だが、対策が見られなかった。

 剣の扱いは年齢相応か…。

 となれば、俺でも苦労せずに勝てる可能性が高い。

 しかし、この場では多くの人間の視線がある。

 もし、あっさり佐藤を倒してしまった場合、どうなるのだろうか?

 少なくとも彼のメンタルはズタボロになる。

 だからこそ、できるだけ彼に精神的ダメージを与えないように勝たなければならない。

 受け流し直後で体勢の崩れかけている佐藤を横目に、足をかけ転ばせた。


「ぐおっ!」


 彼は転倒する勢いを利用し、そのまま前転しすぐさま体勢を整えた。

 まあ、この学校に入れている時点で弱い人ではないことは確定しているから、驚くことでもない。

 そう、弱い人じゃなかったからこそ――


「お前、なめてんのか…。今、手加減しただろ」

 

 俺の手抜きは気づかれた。

 とはいっても、俺と佐藤とでは経験と努力の差が大きすぎる。

 紗優や彩霞たち『十二天』の家系の英才教育があれば話は変わるが…それを佐藤に求めるのはさすがに酷だ。


「次手加減したらぶっ殺す」


 そう言いつつ、佐藤は距離を詰め木剣を振り上げた。


「はっ!」

 

 上段に構えた木剣を振り下ろしてくる。

 かなりの力が込められているであろう木剣を、俺は正面から受け止める。


「ちっ!『祝福』かっ!」


 咄嗟に佐藤は剣を引く。

 ここで俺は違和感を感じた。

 剣術基礎の知識と技術が足りないのに、どこか戦闘慣れをしているように感じる。

 まるで、剣での戦いに慣れていないかのような…。

 そんな事を考えている間にも佐藤は再び攻撃を仕掛けてくる。

 

「……」


 正直言ってとても荒い。

 俺じゃなくてもこの程度なら…

 

「――よ」


 ふと、佐藤が何かを言った気がした。

 彼の口元に意識を集中させ、何を言っているのか確認する。

 敵を…潰せ…


「っ!?」


 その言葉と俺の知識の中にある魔法の詠唱文が結び付いたと同時、何もなかったはずの体育館の床から石柱が生成される。


「くっ!」

 

 木剣で防御はするが、衝撃は殺しきれず、空中に身を投げ飛ばされた。

 

(そういうことか)


 違和感がすべてつながった。

 妙に剣に慣れてないのに感じた戦闘慣れの正体。

 佐藤は近接戦闘じゃなく、魔法戦闘が本領なんだ。

 生成された石柱を足場に、佐藤へ距離を詰める。

 彼の口はまだ動いている。

 多分、このまま走ってもギリギリ間に合わない。

 だったら――


「ふんっ!」


 勢いよく木剣を佐藤に向けて投げた。


「なっ!?」


 やはり対人戦は経験量がものをいう。

 詠唱を再び再開しようとする佐藤の懐に素早く入り込む。

 剣士に限らず、戦闘において武器を手放すのは自殺行為だと、師は弟子たちに教えるのが常識だ。

 ただ、俺たちの師匠は全く別のことをよく言っていた。

 それは――


「はぁっ!」

「ガハァっ!?」

 

 ――拳ほど便利な武器はない。と。

 俺の放った拳は佐藤の腹に深々と食い込み、彼の体を宙に浮かせた。

 

「がはっ!」


 その後、地面に落ちた佐藤が起き上がることはなかった。

 と、いうことは――


「俺の勝ちだな」

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