裏側
――凪たちがゲートを脱出する数十分前 神葬視点――
「ふぅ」
額に滲んだ汗を拭い、目の前に広がるモンスターの死体の山を眺める。
「流石に疲れたかな」
周囲を見渡しつつ、探知をしてみる。
「……」
もうモンスターの気配はなかった。
ただ…少しおかしい。
本来なら、A級ゲートのスタンピードを俺一人じゃ抑えられるはずがない。
だから、できるだけ数を削ってから逃げようかと思っていたのだが…その必要が無いほど、呆気なく処理できてしまった。
「まあ…今は楠乃さんの心配が優先かな…」
雰囲気であのハンターたちの相手を任せたけど、実際楠乃さんが無事である保証はない。
少し早足で来た道を戻っていくと、驚きの光景が広がっていた。
「ぐぅぅ…」
「あ…ぁ」
佐藤博と斎藤裕也は苦痛に顔を歪めつつ、壁に貼り付けられていた。
手足には巨大な針が突き刺されている。
その針は折られた形跡があるため、楠乃さんがやったのだとすぐに気づく。
「うわ…エグ」
その奥には余裕の表情の楠乃先生と、額から汗を流し剣を構えている針竿がいる。
「くそっ!」
「そっちは片付いたのか?」
楠乃さんが俺に気づいたのか、声をかけてくる。
「目に入ったモンスターは一応全部片付けたよ。ちょい不安だったんだけど、ずいぶん余裕そうだね」
「冗談よせよ」
楠乃さんが針竿へ歩み寄る。
「随分と余裕じゃねぇか!」
一瞬にして楠乃さんの足元から針の先端が生成された。
「ん?」
「串刺しになれや」
針竿の言葉と共に、針は勢いよく楠乃さんへ伸びていく。
(へぇ…針の生成と、サイズ調整できるのか。意外と汎用性はありそうなスキルだね)
スキルの観察をしていると、楠乃さんの足元に魔力が集まる。
「串刺しはやだなー」
魔力で強化された足で、針竿の生成した針を蹴り砕く。
「バケモノが」
「バケモノ?お前も冗談はよせ。俺はたかが教師なんだろ?」
「へっ油断したな?」
周囲の壁から針が出現し、楠乃さんへ向かって射出された。
サイズはそれほど大きくないが、直撃すれば流石に形勢逆転となりそうだ。
静かにスキルを使おうとしたとき――
「はぁ、学ばないな」
楠乃さんへ放たれた針すべてが静止した。
「負け、認めろよ。大人だろ?」
針はゆっくりと向きを変え、先端は針竿へと向けられた。
「お…おい、俺を殺せばお前らタダじゃ済まねぇ――」
「――あっそ」
針が勢いよく針竿の両手足を貫通した。
「アァァ!くそっ、何しやがる!」
「うるさくなったな」
「ふざけんじゃねぇ!テメェ本当にっ!」
楠乃さんは針竿の頭を勢いよく蹴り飛ばし気絶させた。
その後は、他のハンターたちも同様に気絶させ、引きずりながらゲートの入り口を目指し歩き出す。
「ねぇ楠乃さん」
「ん?なんだ?」
「わざわざその人たちを外へ連れ出す必要あるの?ここに残してモンスターの餌にした方が世のためってものじゃないの?」
「それはそうかもしれないが、こいつらから聞かないといけないことがある」
俺は楠乃さんの背中を眺める。
ただの教師だと思っていたが、どうやら見方を変える必要がありそうだ。
試しに何か聞き出せないかと思い、カマをかけようと話しかけた。
「楠乃さんってさ――」
「――思ってた以上に強いからビビったか?」
「…まあ正直に言えばそうだね。それにそのスキル、俺と似てない?」
「『念動』、それが俺のスキルだ。使い方次第じゃ、お前のスキルに似てるだろうな。ただ、制限は多い」
まさかスキルのことを口にするとは思っていなかったため、目を見開いて驚いた。
「え…、マジで言うとは思わなかった」
スキルを持つハンターは秘密主義の人が多い。
理由は至極単純で、スキルの内容は切り札になりえるから。
だからこそ、あっさりと言った楠乃さんに対し驚きを隠せずにいる。
「へー、そんな簡単に言うんだ。もしかして、嘘ついて俺を騙し打ちしようとしてた?」
「馬鹿かお前。早く入口へ戻るぞ」
俺の冗談を楠乃さんは軽く流し、足を進めた。




