伝播
――東雲優視点――
突如現れた賀茂さんが、カオスナイトを倒した直後の出来事だった。
目の前で凪が倒れた。
「っ!?な――」
「東雲くん!?」
私よりも早く結乃が凪に近づき、呼吸と心音を確かめていた。
その光景に違和感を感じる。
結乃はあんなに感情的な人間だったのだろうか?
そう言えば…凪がイビルジラーフと戦っている時変な事を言っていた。
「……莉愛」
もしかして、結乃は何かを隠している?
今回の事件で、二人は絆を深めたのだろうとは予測できる。
でも、なんだろう…ただの友情…或いは恋愛感情…じゃない。
もっとこう…深いというか…危ないというか…そんな感じがする。
ちょうど本人も目の前にいるし、聞くだけ聞いて――
「危なっ」
ゲートの方から声がしたため、そちらへ視線を向ける。
そこには金髪の男と、3人の男を引きずっている楠乃さんがいた。
「凹んでるなら言ってくださいよー賀茂さん。ん?これ、カオスナイト?」
「ああ、ゲートから出てきてな。被害が出る前に対応した」
「さっすがー」
軽い口調で金髪の男がカオスナイトを飛び越えた直後――
「ん?」
カオスナイトは素早く起き上がり、金髪の男目掛けて大剣を振り下ろす。
が、大剣が男の体に触れることはない。
「ふーん、俺、君と戦ったことないから期待してたんだけど…その程度?」
「光、お前は休め」
賀茂さんの拳が一瞬にして、カオスナイトの顔面に命中する。
カオスナイトの頭部を守る鎧は砕け、欠片が宙を舞う中、本体は勢いよくゲートの中へ吹き飛ばされた。
「スタンピードの対応をしてくれたんだろう。ならばあとは俺の仕事だ」
そう言って、カオスナイトの後を追うように賀茂さんもゲートに入っていった。
私は光と呼ばれた男を見つめる。
もし、今のやり取りが聞き間違えじゃないのなら、この人物は一人で…あるいは楠乃さんと協力してスタンピードを対処したことになる。
A級ゲートのスタンピードを二人で抑えるどころか、制圧するなんて聞いたことがない…。
「あー、っと。賀茂さん居なくなっちゃったんだけど…。この状況、どうしよ…」
「じゃ、ただの教師はこいつら連れていくから、あとは頼んだ」
「ちょっ、楠乃さん。俺を残していくんすか?」
「お前も『十二天』の当主なら、どうにかするのも役目じゃないのか?」
楠乃さんと光という男の会話を聞いて、ようやく頭の中で情報が結び付く。
あの男は、神葬光だ。
以前テレビで見た神葬光は金髪じゃなかったから、なかなか思い出せなかった。
「あー、モンスターの方はこっちで処理できたから…解散?」
「「は?」」
スタンピードに備え、直前まで士気を上げていたであろうハンターたちだ。
この反応は予想できた。
戸惑った様子の神葬の背後から、肩まで茶髪を伸ばしたスーツ姿の女性が現れる。
「ハンター協会魔法課に所属しています、泉朱里と申します。今回のスタンピードは、賀茂代表や『十二天』のハンターたちの活躍により、被害が出る前に対処できました。詳しい説明は後程致しますので、今は解散してください」
ゲートを囲むように立っていたハンターたちは、その場に座ったり、移動を始めた。
あれが『魔法課の賢者』…勇人さんの弟子…。
「朱里さん流石ですね」
「いや光が適当するぎるの。あの言い方で納得するハンターはほぼいないわ」
「すいません、本来なら私が対応することを」
駆け足で田丸さんが現れる。
「いえいえ、田丸さんの方こそ忙しいでしょう。気にしないでください。それよりも…」
泉さんは、こちらを見てくる。
「あちらの方たちの対応をすべきでしょうね」
そう言って、泉さんたちがこちらに向かってくる。
「えっと…あなたたちは…」
田丸さんが私と沢田先生を見て困惑していた。
そう言えば、私たちが行方不明になった凪たちを救出に言ったことを知ってるのは賀茂さんと楠乃さんだけだった。
今この場に二人はいない…。
どう言ったものか考えていると、神葬が口を開いた。
「あー、この人達は部外者じゃないよ。行方不明者捜索の本命はこの人たちで、俺と楠乃さんは、黒幕の退治が本命だったんだ」
「いや、部外者というより知り合いが…まあいいや。だが、それ以前にそんな話を俺は聞いてないんだけど…」
「まあ、楠乃さんだしね」
なぜか田丸さんは納得した様子を見せる。
「把握した…。とりあえず君たち4人をすぐに病院に――」
「――私と沢田先生は大丈夫です。それよりも凪と結乃をお願いします」
もともと準備はしてあったのか、素早く凪と結乃は回収され、病院に連れていかれた。
神葬光と泉さんは用事があるのか、足早にこの場を去り、残ったのは沢田先生と田丸さんだけだった。
「行方不明者の救出、ありがとうございます」
田丸さんが私たちに頭を下げた。
「身内でしたし、頭を上げてください」
頭を上げた田丸さんは沢田先生を見つめた。
「まさか明人が来ているとは思わなかった」
「俺の意思じゃないよ。直人に呼び出されて、流れるように行方不明者の捜索を頼まれた」
「相変わらずだな」
沢田先生の一人称が変わっていることから、二人の関係性がある程度理解できた。
それにしても沢田先生って――
「先生してるから一人称『僕』だったんですか?」
「え?」
「ハッハッハ」
私の質問に目を丸くする沢田先生と、笑いだす田丸さん。
「お前、まだそんなキャラ作りしてんのか」
「いや、キャラ作りとか言うなよ。一応は教師だから口調とかをそれっぽくって…あっ。君も学生か…」
「いえ、私は学校に行ってませんので」
私の回答に、笑っていた田丸さんまでもが驚いた様子で私を見てくる。
「学校に行ってない?もしかして、二十歳を越えていたりとか?」
「年齢は凪や結乃と一緒ですよ」
「何か理由があったりするのか?」
「はい、学校に行って私が得られるものは無いように感じましたから」
これは本音だ。
学校は、お母さんの仇を討つという目標に必要ない。
そう判断したから、通っていない。
「もしかして、獄炎龍だったりしないか?」
沢田先生の口から出た言葉に田丸さんの表情が険しくなった。
「明人?」
「君…東雲優凪さんの関係者だったりしない?僕も英雄に…優凪さんに憧れた時期がある。勘違いかもしれないけど、君の姿がどこか彼女に重なって見えるんだ」
「……」
まあ、あれだけ戦っていれば察しの良い人なら気づいてしまうか。
私の剣の技術はすべてお母さんに教えてもらったものだから、重なって当然だ。
表情に言いづらさが出ていたのか、すぐに沢田先生が口を開く。
「あ…ごめん、少し踏み込み過ぎた」
「……いえ」
「明人、こういう話は本人が話す気になるまで待つのが正解だ」
「…真司の言う通りだね」
「……」
「……」
私たちが無言になったタイミングで、泉さんが再び現れ、私に話しかけてくる。
「取り込み中失礼ですが、私としても東雲さんに聞きたいことがあるので来てもらえますか?」
「わかりました。では田丸さん、沢田先生、失礼します」
田丸さんと沢田先生に一礼し、泉さんについて行った。




