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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
2章 託されたもの

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交差する刀

――東雲凪視点――



 優の息遣いが伝わってくる。

 何年ぶり…だろうな。

 母さんと模擬戦をしていた頃を彷彿とさせる。

 

「行くわよ…」

「あぁ」


 優と呼吸が一致した瞬間、ほぼ同時に二人で前へ走り出す。

 

〈キィィィ!〉


 片方の頭が叫び声をあげ、もう片方の頭の目玉は優を捉えた。

 

(そりゃ危険度が高い方を狙うよな)


 イビルジラーフの頭部が光り始める頃には、俺と優はそれぞれ左右に展開する。

 

〈キィィィ!!〉


 初代が力を扱っていた時の感覚を思い出しつつ、風を身にまとうイメージを作る。

 片方の頭から光線が優へ放たれると同時、体に風を纏い、力強く地面を蹴った。

 空気抵抗を最小限に抑えたためか、一度の跳躍で胴体の上に着地できた。

 下では、光線により発生した砂埃のせいで優の姿は確認できない。

 でも、優はこの程度で止まらない。

 一気に頭部まで駆け上がる。


〈ギィ!〉

 

 片方の頭が俺に気づき、鳴き声を上げる。

 

「また、遅かったな!」


 目玉をできるだけ多く、刀で斬りつけていく。


〈ギィ!…ギ……〉

〈ギィィィ!〉


 優を狙っていた方の頭が俺に狙いを定めた。

 が、その直後、イビルジラーフの頭に雷が落ちる。

 下を見ると、雷を纏った優がいる。


「私を忘れないことね」


 優が作ってくれたこの隙を逃さないよう、刀に風を纏う。

 

「はぁっ!」


 思い切りイビルジラーフの首に刀を突き刺した。

 前は切れなかったけど、今はいける。

 その直感を信じ、そのまま首を一周する。

 思った通り、ちゃんと刃は通り、不安定になった首は頭の重さに耐えれずに地に落ちていく。


〈ギァァァァァ!!!〉


 残った頭が断末魔のような鳴き声を上げ、尻尾が俺を狙ってきたため、地に落ちた頭目掛けて落下した。


「っと…流石に高いな…」


 着地の際、少しだけ足の痺れを感じ、思わず呟いた。


「あんた祝福があってよかったわね。常人なら無事じゃないわよ。で、あれを見て何か勝つ方法は思い浮かぶ?」

 

 彼女の視線の先には頭部を再生しているイビルジラーフの姿がある。

 両方の頭にある眼球を負傷させたためか、イビルジラーフはその場で暴れている。

 俺たちは巻き込まれないように少し距離を取り、作戦を考える。

 

「切り落とされても再生する以上、弱点を確実につかないと、無駄にこっちが削られるだけだな…」

「ええ。お母さんの日記には目玉が弱点だって書かれていたんだけど。もしかして、違う個体かしら。それに、進化するなんて書いてなかったわ」

「その可能性はゼロじゃない。異常個体あたりかもな」


 最悪、進化によって弱点が変わっている可能性は十分にある。

 

「……凪、あいつの体の一部を消し飛ばせるぐらいの力は使えるの?」

「使えると思う?」

「1%に賭けて聞いてみたの」

「1%しか希望ないんか」

「あるの?」

「ないな」


 優がジト目を向けてきたため、顔を少し反らした。


「今はその1%が大事なの。あんたがさっき放った斬撃クラスの火力がないと勝てない」

「何回も力を使ったんだが、あの斬撃を放つイメージが全くできない」

「……冗談、じゃないみたいね」


 あれはあくまでこの力を初代継承者が扱った場合だ。

 今の俺じゃ1万回試したってあのレベルの力を引き出すことは不可能だという確信がある。

 俺たちに足りないのは決定打となる火力だ。

 優の力は機動性はあるが火力が出せない。

 だから俺が……ん?…火力…火……魔法……。

 

「あっ。り…結乃がいる」

「はぁ?あんた忘れたの?スキル保持者は魔法を…」

「使えるんだよ、それが。結乃!」


 名前を呼ぶと、近くの木々から沢田先生と結乃が現れる。

 

「どうしましたか?」

「力を貸してほしい」

「力…ですか?東雲君と優さんの戦いを見てる感じ、私じゃとても…」

「あの不良品の魔石…あの火力が必要なんだ」


 莉愛は俺たちの意図を察してくれたのか、すぐに頷く。


「わかりました。ですが、どうやって魔法を当てる気ですか?この不良品、魔力を込めた瞬間、即座に発動するので…最初にやったように、魔力をあらかじめ込めておいての使用は不可能かと」


 なんとなくそんな予感がしていたため、あらかじめ策を考えておいた。

 

「俺と優であのイビルジラーフの本当の弱点を見つける。だから結乃は沢田先生のスキルで、できる限り弱点の近くに『転移』して魔石を使ってくれないか?」


 俺のその提案に、優も沢田先生も驚く。


「は!?何考えているの?結乃に怪我を負わす気?」

「僕も一応は教師だからね。その作戦には乗れない」


 予想通りの反応だった。

 でも、こればかりは引けない。


「もちろん、結乃の意思を尊重する。この場で、その不良品の魔石を扱えるのは結乃だろ?沢田先生に魔力を使わせれば『転移』で現実に戻れなくなるかもしれないからな」

「……だったら、今から『転移』で外に出ましょう。そこまでして、あの化け物を倒す必要は――」

「――私は東雲君を信頼しているので大丈夫です」


 沢田先生の声を遮って結乃が言った。

 流石に本人がそこまでハッキリといえば、沢田先生も優も何も言えない。

 それに状況が状況なだけに、悩む時間は十分にないのも事実だ。


「わかったわ…ただし凪、結乃に怪我させたら許さないから」

「もちろん。全力で守る」

「…転移のスキルはここからの脱出にも必須になる。だから、チャンスは一度きりだよ」


〈〈キィィィィィィィィ!〉〉


 イビルジラーフの頭の再生が完全に終わった。

 再生速度すら、徐々に早くなっていっている。


「それじゃ行くわよ」

「わかった。結乃と沢田先生、後はお願いします」


 そう言い残し、優と共にイビルジラーフへ向かって走る。

 

「それで、弱点を見つけるなんて言ってたけど、どうやって見つけるの?」

「あのイビルジラーフ、首を切っても再生するだろ?多分、頭はさほど重要じゃないような気がするんだ」

「あぁ…だから重要な部分は頭より下にあるってことね?目星は?」

「なんとなくだけど、首の中間あたり…あの頭が分岐している部分だと思う。というか、優。優なら弱点の特定ができるはずだ」


 そう言うと彼女は、何かを思い出した顔で笑う。


「そうね。これで決めるわよ」

「もちろん」


 正面のイビルジラーフはすでに光線を放つ準備を終えようとしていた。



――沢田視点――



 僕は迷っている。  

 この場所から離れようと提案した時からずっと。

 勝てるはずがない。

 

〈〈キィィィィィィィィ!〉〉


 イビルジラーフと呼ばれているモンスターは咆哮を上げた。

 またあの恐ろしい光線が放たれることを想像すると、今にでも逃げ出したい。

 目の前には、そんなバケモノに向かって立ち向かう東雲凪と優さんの姿がある。

 なぜ、立ち向かえるのか理解ができなかった。

 近くにいる天宮さんは魔石を握ったまま、イビルジラーフをジッと見つめている。

 僕はそんな天宮さんに問いかける。


「怖くないのかい?」


 その質問に天宮さんは無表情のまま答える。


「怖いですよ。あんな巨大なモンスターと対峙したことなんてありませんし、あの光線の恐ろしさも十分理解していますから」

「だったら、なんで僕の提案を拒んだんだい?」


 天宮さんの視線はイビルジラーフから、立ち向かっていく東雲兄妹へ向けられた。


「ここで逃げたら、この先一生後悔する気がしたんです。私も東雲君も」


 その返答に僕は驚いた。

 そんな軽い考えでこんな危険な場所に残った彼女に、多少の怒りを覚えるほどだ。

 教師という職業上、生徒を見殺しにはできない。

 

「僕が間違ってた。最初から君たちを脱出――」

「――なんで、私たちがあのモンスターと戦えてるのかわかりますか?」


 天宮さんの無表情ながら力強い視線に、思わず気圧された。

 

「それは、先生がいるからです」

「え?」


 彼女の口から零れた言葉の意味を、即座に脳が受け取らなかった。


「転移を使える先生がいるからこそ、私たちは安心してイビルジラーフと戦えているんです」


 そんなことを言われたのは、初めてだった。

 呆然としている僕を無視して、天宮さんは続けた。


「……もし、本当に危ない時は、東雲…凪君の作戦を無視して、私たちをゲートの入り口まで転移させてください」


 彼女の矛盾したような言動で、我に返る。


「……一生後悔するって言ったけど…良いの?」

「はい、これは私からのお願いです。その後の事は任せてください。あの2人を説得してみせます」


 その表情に何か違和感を感じる。

 気のせい…か?

 

「天宮さん……、わかった。危ないと判断したら即座に転移させる」

「ありがとうございます。沢田先生」


 今は現状を考えよう、そして僕も覚悟を決めるべきだ。

 天宮さんたちの期待に応えられるように。

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