表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
2章 託されたもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/51

開戦

――東雲優視点――


 

 突然、凪が胸を押さえて苦しみ始めた。

 結乃の焦った顔が視界に入る。

 彼女があれほどまでに表情を変えるところは初めて見た気がする。

 

〈〈キィィィィィィィ!!!!〉〉


 イビルジラーフの鳴き声が聞こえ、咄嗟に振り返るがすでに光線を放つ直前だった。


「しまった――」


 凪たちに気を取られたせいで出遅れた。

 このままじゃ直撃だ。

 でも、それ以上に凪の状態が気になる。

 この場所で凪のやろうとしていることを理解しているのは私だけだ。

 同じ力を貰った私にしか理解できない。

 

(今すぐ止めないと、凪が死ぬ!)


 でも、状況はそれを許さない。

 光線はすでに放たれた。

 

(ここ…までなの……)

 

 諦めて目を閉じた瞬間、お母さんの顔が脳裏をよぎる。

 そして、私は自分の成すべき事を思い出す。


「――死ねない!お母さんの仇を討つまでは――」


 あの強力な光線を防げるかはわからない。

 しかし、何もせずに死ぬよりはマシだ。

 いや、死ぬつもりなんて一切無い。

 この程度の壁を乗り越えなければ、母さんの仇を討つなんて夢物語もいいとこだ。

 全身に雷が迸り、力が溢れてくる。

 覚悟を決め、刀を構えた瞬間――


「――ちょうどいい」

「え?」


 凪の声が聞こえたと同時に、光線が真っ二つに裂け空中で霧散していった。

 私はゆっくりと、視線を凪へと向ける。


「ふぅ、手本を見せたからな」

「…凪?」


 見た目も声も凪のはずなのに、纏っている雰囲気が少し違う。

 数年間本物の家族のように暮らしてきた私ですら、目の前にいるのが凪である確信が持てなかった。

 凪?は私を見つめてくる。


「……まだ、救える」

「え?」


 凪が呟くその言葉の意味が理解できなかった。


「どういうこと?」 


 言葉の真意を聞こうとしたと同時、凪は頭を下げる。

 

「優?」


 次に頭を上げ、口を開いた彼の声は、私の知っている凪のものになっていた。


「……凪なの?」

「もちろん。東雲凪、お前の兄だ」

「いや、でも今――」

「――詳しい話は後でな、まずはこいつを何とかしよう」


 凪はそう言うとイビルジラーフへ視線を向ける。

 その姿は、私が大好きだった昔の凪の姿と重なった。

 思わず笑みがこぼれる。


「凪、気持ちの整理はできたの?」


 どこかすっきりしたような顔の凪に訊く。


「うーん、できた部分はある。でも、全部じゃない。残りはもう少し時間がかかりそうだ」


 その答えを聞いて安心した。

 すぐに答えを出さないところ…それだけ真剣に考えているってわかる。

 とても、凪らしい。


「へぇー、もう私が言うことはなさそうね」

「足は引っ張らないようにする」

「引っ張ったら蹴り飛ばすわ」


 刀を構える凪と背中を合わせ、私も刀を構えた。

 

「覚えてる?」

「あぁ」


 懐かしい感覚とともに、もう一度凪に背中を預けて戦えるという嬉しさを胸の奥底に封じ込め、冷静さを保った。



――楠乃視点――



 ゲートに入ってから、隠し通路まで沢田先生の魔力の痕跡が所々に残っていた。

 意外と有能で気が利く友だ。

 そう感心しつつ、隠し通路を通り過ぎ、さらに奥まで進む。


「……あのー楠乃さん?どこ目指してます?」

「ん?」

「いや、隠し通路、とっくに過ぎてると思うんですけど」


 神葬は不思議そうに聞いてくる。

 隠し通路を過ぎてすぐに言わなかったあたり、俺に何か別の目的があると勘づいているんだろう。


「気づいてんだなー」

「そりゃもちろん」

「別に変な企みはしてねーよ。俺の目的が隠し通路(そこ)にないだけだ」

「目的ねぇ…教え子、心配じゃないんすか?」 

「さほど心配はしてないな。明人もいるし…それに――」

「それに?」

「……話は終了だ神葬。お出迎えが来た」


 目の前に人の姿はないが、壁に違和感を感じた。

 これで特に何もなければ恥だな。


「ちっ、勘のいいヤツだ」


 壁の一部が消え去り、そこから3人の男が出てくる。

 

「うわぁ~、あんな見え透いた餌に食いつくもんだね」

「わざわざ先回りさせるために時間を空けたんだ。食いつかないと困るわ」

「で、楠乃さん、メンツは予想通り?」

「えーっと、試験のサポートとして参加していたハンター、伊藤針竿(はりざお)、佐藤(ひろし)、斎藤裕也(ゆうや)。おー、ドンピシャ」


 針竿以外は俺に名前を知られていることに、多少驚きを見せていた。


「これは驚いた。まさか、こいつらまで目をつけられていたとは」


 よくもまあそんなセリフを吐けたものだな、と内心呆れる。


「サポートとして参加していたハンターの中で大分出身じゃない奴はお前たち3人だけだ。そして、サポート募集の際、お前たち3人はほぼ同じ時刻に、ハンター協会へ連絡を入れている。怪しまない方が無理だろ」

「ふっ、まあいいさ。お前じゃ俺たちの計画を止めることなどできない」


 針竿たちはそれぞれ武器を構える。


「どうすんの?」


 殺意を向けてくる超級ハンター3人を前に、神葬は涼しい顔で質問してくる。


「ここは俺だけでいい。それより奥からモンスター共の気配が物凄いだろ。神葬はそっちの討伐を頼む」

「ん?いや、モンスターを討伐するのは良いんだけどさ。あの人ら一応超級でしょ?」

「ああ、そうだな」

「大丈夫なん?」


 まったく、最近の子供は教師を舐めすぎじゃないか?


「大丈夫だ。俺も超級ハンターの資格は持っているしな」

「そこまで言うなら行くけど…油断せずお願いしますよー」


 神葬はそう言うと、針竿たちの方へ歩き出す。


「はぁ?行かせると思ってんのか?」


 佐藤博は俺たちの会話で苛立ちを抑えきれなくなったのか、横を通り過ぎようとした神葬に向かって武器を振り下ろす。


「ねぇー、おっさんらに俺を止める権利はないんだけど?」

「は?」


 聞こえたのは佐藤博の間抜けな声だった。

 彼の剣は、神葬に触れる直前で停止している。


「は?は?なんだこれ」


 戸惑いを隠せない佐藤に神葬は笑う。


「おっさん、そんなビビらなくていいよ。今回の相手は俺じゃない」


 神葬は佐藤の横を通り抜け、歩き去っていった。


(あのガキ、俺を見定めようとしてんのか?今のは1人倒して歩き去る場面だろうが)


 心の中で不満を言いつつ、2人でも3人でもやることに大差ないなと冷静になる。


「おい、佐藤何行かせてんだ」

「あいつヤベェ、動かなかったんだよ」

「あ?何言って…神葬……あいつ、本物の『十二天』神葬家当主か。偽物かと思ったが…まさかこんな所にいるとはな。ま、まあいいや…お前、ハズれを引いたな。あいつなしで俺ら3人に勝てるとでも…思ってんのか!」


 針竿が叫んだ瞬間、俺の周囲の地面から鋭い針が現れる。

 針は人の腕並みに太く、1~2mとランダムな長さで数十本以上確認できる。

 

「もう逃げられねぇぜ?お前もあのガキ共のように死ねや」

「……」


 俺は無感情で見ていたのだが、何を勘違いしたのか針竿たちは煽るように喋り始めた。


「あれ?もしかしてキレてんの?あー、そういや教師だったよな?どんな気持ちだ?あの天宮と連れのガキなぁ、蹴り落してやったんだよ。面白かったぞ」


 不快極まりないその声で、話を続けられるのはたまったものじゃない。

 男の声を遮るように、大きくため息をついた。


「はぁ…。俺も暇じゃないんだ。仕事があんだよ」


 楽しそうな表情から一変し、針竿は俺を睨みつけてくる。


「あぁ?…たかが教師如きが…頭がたけぇんだよ」


 流石に今の一言にはピキっときた。

 正直、教師に憧れとか誇りとか持っているわけではない。

 だが、今年は1年の担任もしているし、担当している授業が実習系なだけあって、授業に使う道具の点検などやることが格段と増えた。

 そのため、仕事は毎日ベリーハードだ。

 そんな仕事と戦っている教師を、こんなしょうもない計画をして、無関係の人を死に追いやるクズの口から()()()なんて出てきたら、流石にピキる。

 だが、俺も大人だ。

 ここは感情を表に出さず、大人の対応をしよう。

 

「教職舐めてるお前ら、全員半殺しな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ