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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
2章 託されたもの

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36/50

兄として

――東雲凪視点――



 優は小さく呟きながら、こちらに近づいてくる。


「…結乃は見つけたのか?」

「ええ、同行していた沢田先生が行ったわ。安心して、あんたたちは沢田先生の『転移』で助かるわ」

「じゃあ、今すぐ――!?」


 顔に衝撃が走り、視点が大きく優からずれる。

 一瞬、何をされたか気づかなかった。

 

「は?」

 

 少し遅れて、頬の痛みに気づく。

 その痛みを実感するとともに、自分の身に何が起きたのか理解した。

 俺は優に叩かれたのだ。


「いい加減にしてよ!お母さんのお墓参りに行って、あんたと出会った時もそう!俺が全部悪いですみたいな雰囲気で、私とロクに喧嘩もできない。ねぇ、そこまでして何が得られるの?何を得たいの?」


 優の目には涙がにじんでいた。

 言い訳をするつもりはない。

 ここまで優を追いつめていたのは、他でもない俺自身だから…。

 

「言い返しもしないんだ…。じゃあ、友達が……結乃が死んでもよかったんだ」


 彼女の言葉に向き合うと決め、黙って聞くつもりだった。

 だが、結乃の名前を出された瞬間、反射的に口が動いた。


「っ!優!」

「そうじゃない!もし、本気であの子を守る気があったんなら、あんたは使っていたでしょ!?誰かを守るための力をお母さんに貰ったんじゃないの!?」

「……そ…れは」


 多分、俺がどんなに頭の回転が速い人間だったとしても、その言葉に反論はできないだろう。

 自分勝手なルールを決めて、大切なものを失くすまで学ばなくて…。

 そんなことはとっくの昔にわかっていた。


〈〈キィィィィィ!!〉〉


 頭部の再生が終わりかけていたイビルジラーフが鳴き声を上げる。


「あんたは先生たちと一緒に離脱すればいい」

「…優は?」

「あんたなんかと一緒に出たくない」


 そう言ってイビルジラーフに向かって刀を握り、歩き出した優の背中を見つめる。

 その姿は、俺の知っている優とはかけ離れ、ずっと強くなっていた。

 それはそうか…。

 俺は母さんだけじゃない…、優からすらも目を背け続けていたんだから。

 

「東雲君!」


 背後から莉愛の声が聞こえた。

 振り返ると、莉愛と沢田先生が小走りでこちらに向かってきていた。


「り…結乃、ごめん」

「東雲君、沢田先生の『転移』でここから脱出……もしかして、戦うつもりですか?」


 顔に出ていたのか、莉愛にはすぐに気づかれた。

 俺は静かにうなずく。

 そのやり取りを見ていた沢田先生が、少し焦ったような様子で口を開く。


「このゲートではスタンピードが起きようとしているんです。ここで時間を消費して、スタンピードが起きてしまえば『転移』があっても、無事に脱出できるかもわからなくなるんです。だから出ましょう」

「…スタン…ピード…。結乃は知っていたのか?」


 あまり驚いた様子のない結乃に訊く。


「私は一足先に聞きましたので」


 スタンピードのことを考えれば先生の言う通りにするのが最善だ。

 だが、何かが引っかかる。

 なんで優は脱出しようとしない?

 いくら俺が嫌いでも、命の危険に身を晒すほど優は馬鹿じゃない。

 なら…きっとあるはずだ。

 優が残る…理由、が…。

 まさか……


「俺はここに残ります」

「「え?」」


 結乃と沢田先生の声が重なる。


「早く出ないとあのバケモノが――」


〈〈キィィィィィィィ!〉〉


 イビルジラーフの頭部は完全に回復し、先程よりも甲高く、迫力のある鳴き声を上げた。

 その様子を見ながら優の隣へ移動する。


「今更何?あんたがいたところで邪魔なだけ」


 冷たく突き放そうとしている優を見ながら言った。


「このモンスターをゲートの外に出さないため、か?」

「……この大きさでゲート外に出られるなんて思わないわ。何を根拠に――」

「――ずっと前から見てたんだろ?」


 俺は母さんがいなくなったあの日からの優は知らない。

 でも、それ以前の優は知っている。

 だからこそ、嘘や隠し事をしていることぐらい見抜ける。

 優はずっと前に俺たちを発見していて、イビルジラーフと戦うところを見ていたんだ。


「……まったく、面倒ね…家族って」


 見ていたからこそ、優はイビルジラーフの恐ろしさを予測してしまったんだ。

 刀を握りしめる。


「あんた…足手まといになる自覚、ないの?」

「あるさ。あるからこそ、俺は覚悟をしないといけない」

「何を言って…」

 

 正直な事を言うと、別にイビルジラーフが危険だからという理由でこの場に残ったわけじゃない。

 ただ、優から逃げたくなかったんだ。

 ここで逃げてしまえば、優の隣には二度と立てなくなる気がしたから。

 唯一の家族である俺がこんなダメ人間になった後も、優は一人で母さんの仇を討つという目標のために努力を続けた。

 その努力は()()()()()俺もするべきものだった。

 このまま優だけに師匠の…母さんの仇を追わせる。

 そんな最悪で無責任な選択をさせるほどの愚者にはなりたくない。

 だからこそ、ここで俺は――


「――優、お前の兄でいさせてくれ」


 胸に手を当てる。


(大丈夫、使い方は覚えている)


 呼吸を整え、かつて師匠に教えてもらった通りに、自身の中にある力をイメージする。

 魔力が無い俺は、イメージするしかない。

 でも、それは()()()()()だった。


「はぁ!?凪!あんた何やって――」


〈〈キィィィィィィィ!!!!〉〉


 イビルジラーフの頭部から巨大な光線が放たれる直前だった。


「しまった――」


 俺に気を取られたせいで、優の対応が遅れた。

 彼女は急いで技を放とうとしているが、明らかに間に合わない。

 絶望的なこの状況。

 しかし、この一連の流れは想定内だ。

 ポケットからある物を取り出し、口の中に放りこみ、軽く噛んで飲み込んだ。

 次の瞬間、激痛が全身を走り、体の内側が爆発しそうな感覚に襲われる。


「ぐっ!―――」


 痛みがピークに達したと同時に、視界が暗転した。

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