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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
2章 託されたもの

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35/53

弱く脆い刀

――東雲凪視点――


 イビルジラーフはその巨体さゆえに、すぐ見つけることができた。


「莉愛」

「はい」


 莉愛に呼びかけると、彼女は手に持った魔石に魔力を注ぐ。

 

「魔力を維持できるのは良くて40秒ぐらいです」

「了解」


 莉愛から魔石を受け取った直後、体に温かいものが流れ込んできた。


「?」

「少しですが、身体能力をアシストします」


 莉愛から魔力を分け与えられていた。

 彼女の魔力は不思議と体に馴染み、力が溢れる感覚がした。


「頼みましたよ」

「任せろ」


 そう言って、一直線にイビルジラーフの元へ走った。

 その道中、いい感じのサイズの木を確認し、流れるように根本から切り裂く。

 そして、片手で木を持ち上げ狙いを定めた。


「根…性っ!」


 木を思い切り上空まで投げ飛ばす。

 

〈キィィィ…?〉


 おそらく複数の眼球のうち一つが俺の投げた木を捉えたのだろう。

 イビルジラーフは小さく鳴きつつ、足を止めた。

 その隙に、地面を強く蹴りイビルジラーフの後ろ足につかまる。


「っと…」


 イビルジラーフが俺に気づいた様子はない。

 こんな鎧のような鱗を体表にびっしりとつけているから、反応は鈍いと思っていたが、予想通りだ。

 そのままちょうどいい感じに鱗が足場になっていたため、一気に頭部まで駆け上がる。

 

〈キィ……〉


 後頭部辺りについていた眼球の一つが俺を捉えた。

 だが――


「遅かったな。――起動」


 魔石が手の中で熱を帯び、咄嗟の判断で魔石を手放した。

 直後、魔石は砕け中規模の火炎弾がイビルジラーフの頭部に直撃し、爆発した。

 使い方…もっと詳しく聞いておけばよかった…。

 爆発により発生した煙の中に飛び込み、おそらく頭部であろう場所に足をつける。

 

〈キィィィィィィ!!〉


 イビルジラーフの鳴き声で発生した衝撃波により煙がはれる。

 眼球のいくつかが軽く焦げ、皮膚は痛々しく爛れてはいたが、致命傷には見えない。

 母さんの日記では田中勇人さんの魔法を頭部にぶつけ、弱点が分かったらしいが、さすがに『賢者』と量産品の魔石じゃ格が違うか…。

 

「っと」


 イビルジラーフは頭を振り回し、俺は空中に投げ飛ばされる。

 魔石の効果がいまいちな以上、やるしかない。

 イビルジラーフの頭部に狙いを定め、空中で体をひねり遠心力を生み出す。


(彩霞流『刻旋花』)

 

 俺の刀は頭部にある複数の眼球を深く切り裂いた。


〈キィィィィィ!!!!!〉 

「ついでにっ!」


 欲が出てしまった、そう後悔したのは、降りるついでにイビルジラーフの首あたりに刀を突き刺した時だった。

 落下の勢いで、下へ向かって思い切り切り裂くつもりだった。


「!?」


 首に刀が刺さったは良いものの、下がらない。

 硬すぎる…

 

「あっ、これマズ――」

〈ギィィィィィィィィィィィ!〉


 イビルジラーフの先端の尖った尻尾が向かってきていた。

 全力で刀を引き抜き、首を強く蹴って距離をとる。

 ひとまず安心だと思った瞬間、イビルジラーフの尻尾の軌道が変わり、空中で無防備となっていた俺を叩き飛ばす。


「東雲くん!!」


 遠くで莉愛の叫ぶ声が聞こえた。

 ………

 ……

 …


「はっ!」


 一瞬意識が飛んでいたらしい。

 気づけば地面に倒れていた。

 背中と腕に痛みを感じ、視界は安定していない。

 呼吸をしようと、息を吸い込んだ瞬間――


「ゲホっ」

 

 吐血した。

 これはまずいやつだ。


「東雲君!」


 莉愛が駆け寄り、俺の口に何かを入れる。

 すると、徐々に痛みが消え、視界が安定した。


「助かった」

「本当に気を付けてください。この場所とは違う方向に飛ばされていたら、回復が間に合いませんでした」

「ごめん、流石に油断しすぎた」

 

 立ち上がり刀を鞘に納める。


「莉愛、今のエリクサーを合成した携帯食だろ?」

「はい」

「2つ貰えるか?」

「……無茶する気ですね」

「無茶しなきゃ勝てない」


 俺の返答に莉愛の表情に迷いが表れたが、すぐに携帯食を手渡してくれた。


「体に違和感を感じたら戦闘をやめて逃げてください。死んだら許しません」

「…了解」


 木々の隙間から見えるイビルジラーフは俺たちを探している様子だった。

 

「莉愛、魔石の効果は確認したか?」

「はい。微妙でしたね」

「ああ、だからもう少し莉愛は様子見を続けてほしい。これは勘なんだけど、弱点は別にある気がする」

「勘ですか…。わかりました。ただ、危険と判断したら私も出ます」

「わかった」


 最短距離でイビルジラーフの足元まで移動し、再び足から体を駆け上がる。

 胴についたあたりで、違和感を覚えた。


「――ん?」


 時間が切り離されたかのように、ものすごくゆっくりに感じた。

 その世界で、俺の目はイビルジラーフの後頭部にあった眼球を見つめていた。


(あんなところに目玉なんて…あったか?)


 時間がいつも通りに戻ると同時に、俺と目が合っていた眼球が光る。


「っ!?」

 

 濃厚な死の気配を感じ、進む足を止め全力で横に飛ぶ。

 直後、真横を光線が過ぎ去った。

 

「嘘…だろ……」


 イビルジラーフは、自分の体を貫いてまで俺を狙ってきた。

 この戦い方…俺の経験上『再生』するタイプだ。

 イビルジラーフは首からバキボキと骨を砕くような音を立てつつ、無理やり俺を見てきて、口角を上げる。


〈ギィィ…〉

「本当にタチ悪いな…お前」

〈キャァァァァァ!!!〉


 イビルジラーフは、突然高い声を出した。

 光線を放つかと思い、構えるが一向に目玉は光らない。

 

(攻撃の合図じゃない?だったら…何の…)


 俺の抱いた疑問は即座に解消された。

 なぜなら、イビルジラーフの首に裂け目が現れ、そこから新しい頭が生えてきた。


「グロ…」


 1つの首に2つの頭、さらに見た目が見た目だから、悍ましいの一言に尽きる。

 ただ、問題は見た目じゃない。

 このモンスターの一連の行動…それは適応という名の進化であるという点だ。

 頭数、そして目玉の配置…もしそれを俺を排除するためという目的のためだけに、この短時間で進化したというのなら、このモンスターは一体…どこまで成長するんだ?


〈〈キィィィィ!!〉〉


 二つの頭が同時に鳴き声をあげる。

 

「まずいな…」


 すぐさまイビルジラーフの胴から飛び降りる。

 四足歩行である以上、胴体の下部分なら…そう考えた直後だった。

 胴体を貫通して、光線が飛んできたのだ。

 

「なんでもありかっ!」

 

 よけつつも、命中率は高くないと確信していると、違和感のある光線が視界に入る。

 

(あの光線、明らかに頭部から来た軌道じゃ…っ!)


 そんなことを考えていると、光線が加速する。


「んなっ!」


 ギリギリで回避するも、光線は再び方向を変えて戻ってくる。


「ホーミング機能もついてんのか!」


 しょうがないと思い、刀で光線を迎え撃つ。


「ぐぅぅぅ!くそっ!」


 刀の性能と合わせて、ようやく弾けるレベルだ。

 こんなものを数発なんて、たまったものじゃない…

 いやがらせ程度に、足に向かって刀を振った。

 まあ実際大したダメージにもならないだろうが、なぜかすんなりと刃が通る。


「?」

〈〈キィィィィィィィィ〉〉

 

 イビルジラーフは周囲の木々に対し光線を数発放ち、木々を消滅させていた。

 莉愛が見つかったかと不安になった直後、イビルジラーフの長い尻尾が俺を胴体下からたたき出す。


「ぐっ!」


 この時ようやくイビルジラーフの先程の木々を消滅させた行動の真意に気づいた。


「そういうことか…俺を見失わないためにね…」


 俺がたたき出された先に木々はない。

 最初のように、尻尾で叩き飛ばして見失った経験から学習したんだろう。


〈キィィィィ〉


 イビルジラーフの光輝く目を見つめる。

 エリクサーがどれほどすごい治癒効果を持っていたとしても、一瞬にして体が消滅してしまえば関係ない。

 竜の鱗を素材にした武器は魔法耐性が強く、弾けるなんて言われちゃいるが、先程の軽い光線ですらやっとなのに、今放たれようとしている光線の規模じゃ無理だ。


「詰み…か」


 手に握る刀を見つめる。

 俺は結局、向き合うフリして…何も見ようとしていなかったんだろう。

 過去にとらわれすぎていたんだ…。

 どうしようもない自分を再認識すると、笑いがこみあげてくる。


「はは…弱いなぁ…俺……」


 光線が放たれる気配がした時、頭に浮かんだのは莉愛でも母さんでもない。

 優の顔だった。

 こんな俺の姿を見たとき、きっと優は大声でこう罵倒してくるんだろうな――


「バカ凪!!」


 ――って。


「え?」


 自分の中で想像していた優の声と現実の誰かの声が重なった。

 思わず目を見開いて声の聞こえた上空へ視線を向ける。

 その瞬間、イビルジラーフの頭部に物凄いスピードで何かが接近し、一瞬にして2つの頭は切り刻まれた。


〈〈ギィィィィィ!!!!〉〉


 そして、イビルジラーフの頭部から見覚えのある金髪と刀を持った人物が下りてきた。


「…優、どうしてここに」


 彼女は俺の質問に、少し怒ったような表情で刀を鞘に納め、髪をかき上げつつ答えた。


「喧嘩別れなんてふざけた真似をさせないためよ」


 優の目は力強く俺を見つめていた。

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