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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
2章 託されたもの

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タチの悪い麒麟

――東雲凪視点(過去)――


「ただいま!」

「あっ!お母さんだ!」


 勢いよく玄関の扉を開ける母さんの元に優が走っていく。

 

「優、こけるぞ」


 優の後ろを少し遅めの足取りで追いかける。

 玄関には、優を抱きしめた母さんがいた。


「優ー、可愛いー」

「んー」


 抱きしめられる優は苦しそうだった。


「母さん、優が窒息する」

「え!?あぁ、ごめんごめん」

「ぷはー。良いよ、お母さん大好き!」


 母さんがゲートの攻略のために家を数日空けた後は、毎回見る光景だ。

 

「凪も、ただいま」

「うん、お帰り。母さん」

「今日も面白い話を持って帰ってきたよ。ほら」


 そう言って母さんがバックの中から取り出したのは絵本だった。

 

「わー!」


 母さんはどういうワケかゲートの中での出来事を、ほぼリアルタイムで記録して、同じギルドの絵が上手い人に書かせていると、以前聞いたことがある。


「今日はねー、でっかいキリンの話なんだ」

「キリン!聞きたい!」

「うんうん。ちょっと待っててね。準備済ませるから」


 ゲートの中で絵本を描かされる人には申し訳ないとは思いつつも、俺たちの楽しみになっているから、頑張ってくださいと応援している。



――現在――



「母さんは、そのモンスターを『タチの悪い麒麟(イビルジラーフ)』と命名していた」

「イビル…ジラーフですか」

「ああ。母さんの絵日記に書かれている特徴と、あのキリンモドキはかなり一致している。さっき莉愛の言った探知妨害も、魔法耐性の高さも記録がある。攻撃手段も光線。莉愛はあのキリンモドキに追いかけられている最中、何か違和感を感じなかった?知性があるような…みたいな」


 莉愛は心当たりがあったのか、考える素振りをやめて口を開く。


「明確な知性を感じました」

「じゃあ、もう確定していい。あれは『タチの悪い麒麟(イビルジラーフ)』だ」

「…それで、そのイビルジラーフ攻略の糸口はあるんですか?」

「もちろん。あいつの弱点は目玉だ。それと、頭部は魔法耐性がないらしい」

「頭部…ですか。あの巨体のせいで狙いにくいですね…。もしかすると、あのいびつな渦を巻いた鱗のようなものが魔法耐性が強い可能性はありますね」


 莉愛の考察はあながち間違っていない可能性が高い。

 が…魔法耐性についてどうこう言っても、この場で魔法を使える人間がいない以上意味はない。


「あ、言い忘れました。魔法による攻撃手段はあります」

「……は?」

「正確にいうと、私が魔法を扱うんじゃなく…これです」


 結乃は小さなサイコロのような形状をした何かを地面に置き、手を添えた。

 すると、サイコロ状のものは『合成』の光に包まれ、気づけば魔法陣のようなものが刻まれた拳程度の大きさの石が3個現れた。


「いや…思いっきりアウトじゃ…」

「バレなければどうということはありません」

「…そ、そうか」


 動揺する俺をよそに莉愛は魔石を片手に持ちつつ、説明してくれる。


「話を戻します。これは、魔石という代物で、刻まれた魔法陣の魔法に限定されますが、魔力を込めることでスキル保有者でも魔法が一度だけ使用可能になるというものです」

「すごく便利だな…。というか初めて知った」

「そうでしょうね。また一般どころか十二天にも公表されていないので」

「はい?」

「その技術の開発に天宮家が協力していたんです。なので試作品として家に大量に魔石がありますよ。これも試作品です。2つが正常な品ですが…1つが不良品になっています」


 莉愛はそう言って他の2つよりもサイズが少し大き目な魔石を手に取る。


「不良、品?」

「はい。通常の魔石よりも魔力が多く必要だという点と…その、発動者すら巻き込む規模になるというデメリットがあります」

「本当に不良品だなそれ」


 でも使い方次第で、この状況を打破できる可能性が高いのも確かだ。

 

「それで作戦ですが、この魔石の発動条件は魔力が込められた状態で、使用者が起動と口にすることです。これを利用して、東雲君がイビルジラーフの頭に何とか当ててください」

「なんとかって…」

「私じゃあの高さまで魔石を投げるのはキツイですし、機動力を加味した場合、東雲君の方が適正です」


 確かに…。

 でも、さすがにあれは…じゃないな。

 やらなきゃ俺たちは生きて出られない。

 まあ、倒して探知ができるようになったからといって、無事脱出…なんて都合の良いようにはならないかもしれない。

 それでも、何もしないよりは数百倍マシだ。


「わかった。努力はする」

「期待しています。もし当てて効果がありそうなら、そのまま東雲君はヘイトを集めてください。私は隙をついて残りの魔石で魔法を当てにいきます」

「かなり莉愛もリスキーなことするな」

「東雲君だけに命を張らせるワケないでしょう。それに、出るなら東雲君と一緒です」


 莉愛の力強い瞳に見つめられ、思わず体が固まってしまった。

 意趣返しも兼ねて…か。

 莉愛がそんな返しをすることが予想外で驚く半面、本当の彼女の一面が少しだけ見えた気がして、どこか嬉しくなった。


「そうだな。あと正直に言うとな…莉愛か結乃、どっちかだとしても俺の友達が目の前にいる君であることに変わりはない」


 自分でも気恥ずかしいセリフを吐いてしまったと思ったが、後悔はしていない。

 俺は言いたいことを言っただけなのだから。



――天宮莉愛視点――



「そうだな。あと正直に言うとな…莉愛か結乃、どっちかだとしても俺の友達が目の前にいる君であることに変わりはない」


 なぜか、彼のその言葉に世界の音が消えたような錯覚を覚えた。

 彼は…東雲凪は、本当の私が見えているのだろうか…。

 無音だったはずの私の世界に、うるさいほど心臓が脈打つ。

 

(落ち着いて…)


 顔に出ないように、必死に平静を装う。

 遠い過去に感じていた感情たちとはまた違う。

 苦しくて…でも温かくなる、そんな何かが私の中でうずめくような感覚に戸惑った。


「よし、じゃあキリンモドキ討伐といくか」


 彼はどこか気恥ずかしそうにそう言って、洞窟の外へと足を運ぶ。

 その後ろ姿を見て、私も立ち上がった。

 

「…?」


 追いかけるために踏み出した瞬間―――

 


 ――ほんの僅かに胸に痛みを覚えた。

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