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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
2章 託されたもの

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32/51

動く

――沢田明人視点――



「はっ」


 僕の目の前で、東雲優さんの刀が黒い犬型のモンスター『ブラックハウンド』の体を切り裂く。

 

〈ギィ…ギィィ!〉

〈ギィ!〉

 

 その隙を狙ってか、距離をとっていた赤い皮膚に小さな角が生えたレッドゴブリンが数体、攻撃を仕掛ける。


「…」


 彼女は特に表情を変えることなく、淡々とレッドゴブリンの首を切り落としていった。


「ふぅ…本当に数だけの雑魚ね」


 どれもA級ゲートの中では危険度の低いモンスターだ。

 しかし、学生《子供》がこんなあっさりと倒してしまうのは少し異常だ。

 いや、話によれば英雄の記録を塗り替えた神童と言われている子だ。

 不思議じゃないのかもしれない…。

 教師として見てきたこれまで生徒と、目の前の異例を重ね、僕の判断基準はすでに壊れかけていた。


「沢田先生、隠し通路はどのあたりですか?」


 僕はスマホの画面を東雲優へ見せる。


「大体この辺りのはずだよ」


 彼女は地図を見ながら、考える素振りを見せる。

 そんな東雲優さんを見つつ、先程の無駄のない洗練された戦いを思い出す。


(そういえば、東雲……あの大英雄と苗字が同じだ。偶然…なのか?)


 もしかすると僕は、とんでもない人物と関わってしまっているのかもしれない。



――東雲優視点――



 極力顔や行動には出ないようにしているが、内心かなり焦っていた。

 正直、今の凪なら命が危険にさらされるような活動をするとは到底思えなかった。

 だから油断してしまった。

 でも、あの日の夜…お母さんのお墓の前であったときの凪は変わってなんて…


「—―さん…、東雲さん」

「あ」


 自分の世界に入ってしまっていたのか、呼ばれていることに気づかなかった。


「すいません。どうかしましたか?沢田先生」

「いえ…何か深く考えているように見えて心配だったので」

「あぁ…少しだけ凪のこと考えてました。あれでも、兄ですから」

「そうなん…兄?え?」

「だから私は優でいいですよ。凪とごちゃごちゃになりそうですし」


 そう言って、スマホを返す。

 

「この辺りにはギミックも無さそうですし、もう少し進みましょう」


 足早に洞窟を進んでいく。


(ケンカ別れなんて最悪なことさせない。バカ凪)


 時間が経つにつれ、私の中の不安も徐々に大きくなっていく。

 もし…凪たちを見つけても、死んでしまっていたら…。

 そんな思考が脳裏を過った時、ふと足元に風を感じた。

 

「?」


 視線を足元へ落とすと、壁の下部分に小さな隙間のようなものがあることに気づく。


「沢田先生、これって…」

「……間違いない。この先に空洞がある。隠し通路だろうね…」


 その言葉を聞いた私は、鞘から刀を抜き壁を切り裂く。

 壁は斬られた瞬間、まるで最初からそこに存在していないかのように消えていった。


「これは……人為的な偽装…」

「え?ギミックじゃないんですか?」

「はい。優さんが切った際、ほんのわずかですが魔力の残滓が見えました。おそらく、本来あるはずのギミックはすでに発動しています。その後に誰かが魔法で偽装したんでしょう。地系統の魔法ですね」

 

 沢田先生が呟いた一言で、私の鼓動が速くなった。

 

「先生…」


 私は振り返り先生の顔を見る。


「それはつまり…凪を…いや、『十二天』の天宮家の血縁者、結乃が狙いってことですか」


 私も凪もお母さんとの関係は世間に公表されていない。

 そもそも、知っている人も天宮家や賀茂さん…ミチ婆たち佐野家、勇人さんぐらいのもの。

 情報が漏れたとは考えにくい。

 そうなると、狙いはやはり結乃になる。

 

「その可能性は高いですね。今よりも気を引き締めて進みましょう」


 露わとなった隠し通路を慎重に進んでいく。

 意外と通路の距離はなく、あとわずかで凪たちの反応があったとされる場所に到着する。

 

「そろそろです…」

 

 ほぼ同時だった。


「優さん」

「…はい」


 私と沢田先生は目の前には、底の見えない大穴が広がっていた。

 

「う、嘘ですよね」


 冷静でいたかったのに、声が震えてしまった。

 ありえない…。

 振り返って沢田先生に問う。


「いくら何でも…こんな堂々とある穴に落ちたりは…しないわよね?」


 沢田先生の視線は大穴からは外されており、通路の隅を見ていた。


「見てください」


 先生の指が隅の方の地面を指す。


「地面の色…中央部分は明るい土色ですが、ある部分を境に色が黒くなっています」


 先生の言う通り、道路の舗装の新しい部分と古い部分のつなぎ目ぐらいはっきりと、色の差ができている。

 でも、それがど――


「……二人がこの場所にいた時、この通路はこの広さではなかった」


 沢田先生は深く頷いた。

 もし、その可能性が高いのなら…


「この通路全体がギミックだった可能性があります。狭い道におそらく何の変哲もない通路。それが本来…凪さんたちがいた時のこの空間の状態だった…」


 ……眩暈に似た感覚に襲われた。

 大穴を観察するが、底が全く見えない。

 軽く近くにあった石を投げてみても、地面にぶつかったような音は響いてこない。


「……沢田先生のスキルって『転移』ですよね?」

「はい」

「そのスキルは即座に発動できて、慣性もリセットできたりします」

「はい、少数人数かつ視界内への転移程度だったらほぼ一瞬で、慣性もリセットでき…まさか、降りる気ですか?」

「助けるために方法がなければ。先生は別についてこなくていいですよ。あいつのために死ぬのは私だけでいい。そもそも、生きてる保障もないですけど」


 刀を手に取り、大穴をのぞき込む。

 最悪、工夫すれば最小限落下速度は抑えられるか…。


「……僕もついていきますよ。戻れなくては意味がないでしょう」

「…ありがとうございます。優しいですね。それで、この先でも『転移』って使えるんですか?」

「無制限ではないけど、4人を対象にした転移なら沖縄から北海道あたりの距離ならいけます」


 そんな頼もしい沢田先生の説明を聞いて、思わず口角が少し上がる。


「頼もしいです。沢田先生」

「まあこれでも教師の端くれですから。先に進む前に少し、連絡だけしますね」


 少しの時間、沢田先生はスマホをタップし続けた。


「それじゃあ優さん、嫌かもしれませんが僕の手を握ってください」

「別に嫌とかはないですけど…どうしてです?」


 私は先生の手を握りつつ訊いた。


「物理的な接触をしていると、転移のラグを最小限にできるんです。ところで、優さんって動体視力は…」

「かなりいい方です」

「なら地面が見えてきたら教えてください。その瞬間転移します」

「わかりました」

 

 沢田先生と並んで大穴を見下ろす。

 恐怖心が無いと言ったら嘘になる。

 でも、家族を…友達を失う恐怖に比べたら全然怖くない。


「……」

 

 ふと背後を振り返る。


「何かありましたか?」


 不思議そうに沢田先生が聞いてくる。


「いえ…気のせいでした」


 ずっとだ…。 

 この空間に入ってからずっと、何かの視線を感じる。

 これはただの自意識過剰なのだろうか…



――楠乃視点――



「……はぁ、予想通りか…」


 スタンピードの話し合いが終わってすぐ、サポートハンター全員の書類の確認に取り掛かった。

 そして今、すべての書類の確認が終わった。

 椅子から立ち上がり背伸びをしていると、スマホから通知音がした。

 

沢田〈楠野先生、隠し通路の奥まで来たんだけど、二人の姿はない。そこには大穴があって、周囲の様子から二人とも、落ちている可能性が高い。これから大穴に潜ってみる〉


 沢田先生の文を目で追った俺は、素早く返信する。


楠乃〈了解。時間だけには気をつけろ。スタンピードに巻き込まれてお陀仏なんて笑えないからな〉

沢田〈あと、道中に人為的な偽装工作があった〉

楠乃〈そっちも見当がついたから。こっちで処理する〉

沢田〈了解。そっちは頼みます〉

楠乃〈言われなくてもだ〉


 スマホの画面を閉じ、一人でゲートの入口へ向かった。

 ゲートの入り口には、待ち合わせをしていた男が立っていた。

 

「待たせたな、神葬」

「別にいいよ」


 神葬光は俺を見定めるように見てくる。


「詳しい事情は賀茂代表から聞いてるだろ?」

「まあ、事後説明すぎたね、あれは」


 そう、東雲優と沢田…明人を秘密裏にゲートへ送り出した後、あの話し合いをしていた部屋で一芝居うった。

 俺と賀茂代表が協力して、神葬光のスキルを『転移』と偽り、行方不明者を救出しに行く。

 と、いう芝居だ。


「本当に釣れるの?」

「まあ、相手の狙いが『十二天』の天宮の子供の命なら、高確率で釣れるな。で、神葬…噂通りの異端児なら、戦力にはなるんだな?」

「もちろん。というか異端児って言い方かっこいいね」


 ふざけているが、実力は確からしい。

 神葬光については、過去に何度かテレビでも触れられていたから、断片的な情報はある。

 『十二天』神葬家で13歳という若さで当主の座を奪い、歴代最強とまで謳われる存在であるということ。

 まあ賀茂代表も神葬を信頼してるみたいだし…大丈夫か。


「気を引き締めていくぞ…ってレベルでもないし。気楽にいくぞ」

「楠乃さんいいねー。でも適度に警戒あった方がいいんじゃない?」

「必要ないだろ。これからするのはただのゴミ掃除だからな」

「今俺の進路に教師が追加されそうだ」

「やめとけ、死ぬぞ」


 そんな軽口を言い合いつつ、俺と神葬はゲートへ足を踏み入れた。 

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