感じていた何か
――賀茂視点――
「賀茂さん、こちら田中勇人さんからお預かりしていた書類です」
ハンター協会本部のビルの最上階で書類を整理していた俺の元に、一人の女性が書類の山を持ってきた。
「あぁ、ありがとう」
「それでは、失礼します」
部屋から出ていこうとしていた女性に声をかける。
「朱里」
「ひゃいっ!あっ、すいません。変な声出しちゃって」
「そう緊張するな。それより、最近休めているか?」
「あ…そ、それは…」
彼女の反応で、休めていないことを察するのは容易だった。
「はぁ…すまんな。勇人の奴、魔法のことになると真剣になって、周りが見えなくなる。魔法課に大量に書類が送られてきているだろう?」
「……えっと…」
「大方、新たな魔法の論文といったところか」
「あはは…今日も論文の魔法の再現に成功したので、それ関連の書類を持ってきたのですが…また、新しく……送られて…」
「あー、すまんな勇人が…」
この場にいない勇人の代わりに謝罪をすると、彼女は慌てた様子で口を開く。
「わ、私たちは魔法が好きですから!全然、大丈夫です!」
「それは頼もしいな、『魔法課の賢者』朱里殿」
「ちょっ!その呼び方は――」
「失礼します!」
突如、部屋に入ってきた男に俺と朱里の視線が引き寄せられる。
「どうした?」
「緊急事態です。現在、大分県で行われている上級ハンター試験に使用されているゲートで、スタンピード発生の予兆があるとの報告を受けました。規模は不明ですが、現地から応援要請が来ているところを見るに、その場にいるハンターでは、対処できるレベルではないと予測されます」
大分…その県名を聞いてかつての友の顔が浮かぶ。
まさかあの地を…英雄が守った場所をモンスター如きが…
そう思うといてもたってもいられず、書類を置き、椅子から立ち上がる。
「今すぐ向かう」
「「は?」」
朱里と男性は困惑の混じった声を出した。
「いやいや、ここ京都ですよ?目的の場所は九州ですよ?」
「それがどうした?俺なら走れば2、3時間で行ける」
「いや…それは規格外すぎです…」
「あ…」
ふと、朱里の発した声に俺と男の意識が向く。
「そ…、その…先程賀茂さんに渡した書類は、勇人さんが新しく開発した魔法が2つ記載されていて…。一つは、空式記述型魔法起動陣、簡単に言えば無詠唱魔法です。…そして、もう一つは…空間転移魔法」
空間転移魔法…だと。
「まさか、実現したのか?」
もし、空間転移がスキルではなく魔法によって実現できる時代になるのなら、それはハンター体制に大きく変化をもたらす事態になる。
「そ、それが…少し難点がありまして…。空間転移の魔法を発動できた人は、魔法課で一人だけで…」
自身なさげにしている朱里の肩へ手を置く。
「えっ!?」
「朱里、頼めるか?」
「えっ、えっ!あ、あの私でも…その確実ではないというか…」
「大丈夫だ。責任を問うようなことはしない。それに失敗しても、私が走ればいいだけだ」
「あと、ですね。私も空間転移を一度使用して奈良まで行ったので……すいません。魔力的に大分まではちょっと…」
朱里が俯きつつ、申し訳なさそうにしたため、頭を優しく撫でる。
「朱里、お前が誤る必要などない。魔力が足りないなら、行ける範囲で十分だ」
「それなら、福岡あたりですね」
福岡か…。
でも、そこまで転移をしてしまったら、朱里の魔力が切れる。
正直、不測の事態に備えて、信頼できる実力者が一人は欲しいんだが…
そんなことを考えていると、豪快に部屋の扉が開かれた。
「賀茂さーん、仕事終わったから休暇欲しいんだけど。って、あれ?」
明らかに場違いなテンションで、一人の男が入ってくる。
身長はおよそ170cmで淡い金髪、エメラルドのように綺麗な瞳が特徴的なその男の名前は――
「光、ちょうどいいところに来たな」
『十二天』神葬家当主、神葬光だ。
「はい?」
「俺たちと共に大分のスタンピードの対処に行くぞ」
「いや…え?どゆこと?」
状況についてこれない光をよそに、未だ呆然と光を見つめていた朱里に声をかける。
「魔力切れを起こすのは望ましくない。朱里、広島あたりまで頼む」
「あ、はい。それで…あなたは?」
朱里が呆然と立つ男へ声をかける。
「私は戦力になりません」
「わかった。巻き込まれたら悪いから少し離れてて」
仕事モードに移行したのか、朱里から弱々しさが消える。
次の瞬間、彼女は人差し指で空中に素早く、魔法陣のようなものを描いた。
「これが無詠唱魔法…」
「はい。その名の通り、詠唱で魔法を発動するよりも何倍も速いです。転移の魔法は複雑で時間がかかりますが、その他…特に初級魔法であれば瞬時に発動することが可能です。それでは、転移を開始します」
ハンター協会本部、最上階の部屋全体が光に包まれた。




