その目の先には
天宮さんイベントが発生した後の授業は、精神的に少しキツい。
疲れたというのもあるが、一部生徒が俺のことをチラ見してくるというのが大きな要因となっている。
「すべての始まりは2005年、東京の渋谷上空のゲートの崩壊です。ゲートの出現から数か月が経ち、私たちは油断してしまっていた…」
ハンターの歴史の始まりについて熱く語る先生を眺める。
正直退屈でしょうがない。
現代社会において、その話を知らない子供の方が珍しいぐらいだ。
だから、そのゲートから獄炎龍が現れ、東京を地図から消し、今でも渋谷あたりにいることとか、当時サラリーマンだった賀茂憲明が、日本で初めてモンスターを素手で倒し、ハンター組合を設立したこととか、しっかり覚えている。
まあ、日本の小中学校ならば、耳にタコができるほど聞かされる話になっているから、今更どうこう言うつもりはない。
学校内にチャイムが鳴り響き、授業が終了する。
「はい、次回の授業からは2005年、『獄炎龍』が出現したとき、なぜ日本はすぐに対応できなかったのか。など、班を作って考えてもらいます」
次回予告をし、教室を出ていく先生。
その数秒後、教室がにぎやかになる。
「はぁ、ったく早く実習がしたいもんだな」
「そうだな。聞くだけじゃつまんねーし」
「そういえばさ、このクラスにはいんのかな?」
「何が?」
「スキル持ちだよ」
「確かに気になる…。今んとこ俺が知ってるスキル持ちは天宮さんぐらいかな」
彼らの話題はスキル持ちについてだった。
スキルに関連した話は俺たちぐらいの年代だと大人気だ。
教室の後ろのホワイトボードに張られたA4の時間割の紙を見る。
5、6mほど距離はあるが、このぐらいだったら読める。
(二限目は魔法学か)
俺は一人立ち上がり、魔法学の授業が行われる体育館へ向かうため教室を出た。
「この学校に入った理由ってなんだ?」
廊下で話していた同級生の前を通り過ぎる。
「もちろん『英雄』に憧れたからだ」
英雄、その単語を聞いた瞬間足が止まる。
「まあ全員それだよな。ちなみに憧れた英雄って誰?賀茂憲明さん?それとも田中勇人さん?」
「もちろんその二人も尊敬してるよ。でもやっぱ俺の中の英雄って言ったら東雲優凪さんだな」
東雲優凪に憧れた…か…。
「すごいな…母さんは……」
目元が熱くなっていることに気づき、再び足を動かした。
もう、英雄はいないんだ。
爪が食い込み血が流れるほど強く拳を握り、体育館へ向かった。
どうやら俺が一番のりのようで、体育館には誰もいなかった。
授業開始5分前あたりになると、クラスメイトたちの姿が増え始める。
「すげー、さすが国立英雄育成専門学校《英専》だな。設備がガチだ」
「最初の実習までに約2週間。待ち遠しくてしょうがなかったな」
「それな」
授業が始まる2分前には、クラスの賑やかな男子達が到着し全員が揃った。
「……」
俺はじっと男子グループを見ながら考え事をしていた。
もしあのグループに近づいて「俺も入れてよ」なんて言ったら、どんな反応を見せてくれるのだろうか?と。
「は?」とか「何こいつ」なんて言われた瞬間、これからの輝かしい高校時代の終了の合図となるだろう。
俺が欲しいのは友達であり、敵ではない。
流石にあのグループに話かけるのはハイリスクすぎるか…。
「全員、整列してください」
入り口から先生が入ってきて、俺たちに整列するように指示する。
「全員揃いましたね?私は2年の魔法学を担当している水野楓です。あぁ、授業の間違えたとかじゃないですよ。皆さんは知っての通り、楠乃先生は仕事の都合上授業ができないので、私が代わりにきました」
楠乃…その名前に聞き覚えがある
確か俺たちの担任にはずだ。
都合上、学校に来れないらしく、今日まで姿を見ていない。
おかげで、俺ですら忘れかけている状況になっている。
「楠乃先生は今日の3限からなら授業できると言っていたので、皆さんお待ちかねの魔法学と魔法実技の授業は本日から開始となります。では、授業について話します。この体育館で魔法実技を行うのですが、毎年壊してしまうんじゃないのか?なんて不安に思う生徒さんも多くいます。ですが、気にしないでください。体育館の壁は特殊な素材を使用しています。ここに超級のハンターがいれば、絶対に安心とは言えませんし、超人的なパワーをもっている――。っと、話がずれそうですね。要はあなたたちのレベルなら壊す確率が低いってことです。それじゃあ、魔力測定を始めましょう。では、出席番号順に私の元に来てください」
先生のもとに、出席番号1番の奴が近づいて行った。
「君が1番の明石徹君ね。この水晶に手をかざした状態で待っててね」
水晶に手をかざす明石を、静かに俺たちは見守る。
〈62〉
少して水晶が光り、表面に数字が表示された。
すごいのかどうかはわからない。
「へぇ…、この魔力量、素晴らしいですね。努力次第では卒業までに超級のハンター試験に挑戦できるでしょう」
「ありがとうございます」
水野先生と明石徹の話を聞いていた先程のグループのうちの一人が、先生に質問した。
「先生、その数字の凄さがイマイチわかりません」
「ああ、確かに説明していませんでしたね。まず、この水晶玉のようなものは、魔力測定をしてくれる道具です。1~10の数字は魔力が一般人より少ないとされ、10~30は平均的です。30~50は平均よりも少し高く、50~60は上級ハンター程度。60~80は超級に匹敵します。80~100は国家戦略級のハンターになる可能性があります。まあ、魔力量だけで実力は決まるものではありません。あくまで目安ですね」
「それじゃあ、魔力の上限は100ってことですか?」
その質問を聞いた瞬間、先生はにやける。
「ふふっ、ここからは夢がある話になりますよ。この100という数値は去年、日本で一番魔力量が多いハンターさんを基準にしてるんですよ。現在は100から上の魔力値は日本では3人しかいません。そのうちハンターとして活動しているのは1人です。その1人は皆さんご存知の、ハンター協会現代表である賀茂憲明さんです」
「へぇ、じゃあ明石ってすごくね?」
「確かに、魔力60越えだろ?天才じゃん」
明石は少し恥ずかしそうに頭を掻いている。
「安心して下さい。努力で魔力量は変化する可能性があります。もちろん不向きな生徒さんもいるでしょうが諦めずに努力することが重要です」
「おぉぉ」と希望と期待の声を漏らすクラスメイトたちをよそに、俺は先生の言葉選びに感心していた。
(挑戦できる…か)
この言葉にハンターという職の厳しさが詰め込まれている。
そんな気がした。
明石は笑顔で2番の生徒に近づく。
「次は君だよ」
「ああ…」
おそらく明石という人物は、人とのコミュニケーションが得意なのだろう。
まあ、賑やかな人達の中にいたから簡単に予測できるか。
顔の良さ×魔力量が多いは陽キャの必須条件だろう(偏見)
〈24〉
2番の男子は24…平均的な魔力量だ。
この調子だと俺がまずいな…。
「あ、忘れていました。スキルを持っている生徒さんは、こちらへ来てください」
先生の言葉にクラスの至る所で会話が始まる。
「スキル持ち?なんで?」
「あー、スキル持ってれば魔力量あまり関係ないもんな。噂じゃこの学校、魔力量も個人評価に入っているらしいぞ?」
「マジかよ。下手な数字だせねぇな」
「ってか、このクラスにスキル持ってるやつなんていんのか?」
「ほら天宮さんがいるじゃん」
こうなる気持ちはわからなくもない。
スキル持ちはこの世界の勝組に分類されやすく、人類の最高到達点と言われる『超越者』になる可能性を秘めている。
そんな人物と友人関係を築ければ、将来的に自身のメリットになることは誰の目にも明らかだ。
クラスメイトの一人が先生の元へ歩いていく。
「あの子…」
綺麗な黒髪を腰まで伸ばした碧眼の美少女だった。
あの顔、確か…。
「あなたは…天宮結乃さん」
水野先生の発言で、美少女について思い出した。
同じくして、近くにいた生徒の会話が耳に入ってくる。
「あぁ…そういえば天宮がもう一人いたな」
「お前よく『十二天』の天宮家の人を存在感が薄いみたいに言えるな」
「しょうがないだろ…だって、本当に薄いんだよ」
そういえばクラス決めされた入学当初、小さな話題になってたような気がする。
まあ、日本のハンターが憧れる『十二天』の家系だ。
話題にならないわけがない。
忘れてた俺が堂々と言えることじゃないが…。
「よくよく考えてみれば、俺たちの同級って『十二天』の家系の人間がもう2,3人いるんだよな?見方によっちゃ運が良くも悪くも受け取れるな…」
「でもさ、結乃さんあんま強そうじゃなくないか?天宮家ってあの豪造さんとか、紗優さんのところだろ?」
「たしかに――」
小声で話すクラスメイトの会話を聞き、天宮結乃へ視線を向ける。
確かに強そうという感じの人じゃない。
無気力…いや、それ以上にどこか危うい感じという印象がしっくりきた。
「それじゃ、あなたのスキルを教えてもらってもいい?あ、知られたくないものなら、あとでこっそりと教えてください」
「大丈夫です。知られて困るものじゃありませんので。私の能力は戦闘向きとは言えないです。先生、何か壊れてもいいものを持っていませんか?」
先生はポケットから鉱石のような物を二つ取り出した。
「これは少々珍しい鉱石です。『ゲート』の中で見つけました。これでもいいですか?結乃さん」
「はい、十分すぎます」
先生の取り出した鉱石に手を添える。
次の瞬間、鉱石が光り輝く。
数秒後に光は消え、二つあったはずの鉱石が一つになっていた。
「あれ?一つだけ?もう一つは…って、これはすごいですね。物質の合成ですか」
「そうです。私のスキルは物質同士を合成することができる、『合成』です」
確かにパッと聞いただけじゃ、戦闘向きじゃないな。
って感想になる。
だが、俺はスキルじゃなく彼女――天宮結乃を見ていた。
そして、スキルによる発光が起きるほんの一瞬だけ、彼女の顔が悲しそうに見えた。
気のせいならそれでいい。
ただ、もし俺の見間違えじゃないのだとしたら――
(っ!?)
振り向いた天宮結乃と目があった。
数秒間の見つめ合いの末、彼女は視線を外し、少し離れた位置に戻っていった。
※スキルとは
魔法とは違う特殊能力で、所有者は魔法が使用できなくなる。
生まれつきの力であり、所有者は多くない。
※『十二天』とは
日本におけるハンターの最高戦力とされる12の家系の総称




