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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
2章 託されたもの

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28/59

この気持ち

――東雲凪視点――



 キリンモドキの追撃から逃げる中、幸運なことに小規模の洞窟を発見し、素早く身を隠した。

 洞窟内で結乃を下ろし、乱れた呼吸のまま愚痴を吐く。


「はぁ…あんな…体験、二度とごめんだ…はぁ…はぁ…」


 さすがに人ひとり抱えての全力ダッシュはキツイ。

 呼吸を整えようと深呼吸をしていると、俯いたまま壁に寄り添い座る結乃が口を開く。


「よく、わかりましたね…私の場所が」

「…一番最悪かつ、結乃がやりそうな行動だったからな。まあでも、半分勘だ」


 彼女の顔を思わず見直した。


「っ!?」


 いつもの結乃ならば、この状況でも無表情だっただろう。

 しかし、今回は違う。

 目尻が赤くなっており、誰が見ても泣きそうになっていると一目でわかるほど、表情の変化があった。

 それを見て安心しつつ、呼吸と共に思考が整った俺は気持ちを切り替える。


「結乃っていつも無表情だから、その顔新鮮だな」


 場違いな発言と理解した上で、真正面から彼女に言い放つ。

 

「…!東雲君、今の状況――」

「――わかってる。理解した上で俺は言っているんだ。結乃に無表情は似合わない」


 変な感覚だった。

 怒りや心配…感情は確かに制御できていた。

 なのに、想いを声にするたびに、彼女の苦しそうな顔を見る度に、抑えられた感情が表に出てしまう。


「やめて!なんで…そんなことを言うんですか!」

「じゃあ聞き返す。なんで、あんなことしたんだ」


 大声は出していない。

 でも観察眼が優れている結乃だ。

 すぐに俺の怒りを察し、声を小さくして答える。


「……最善だったんです」

「最善?結乃が囮になることが最善なわけない。そんなこと、結乃に言ってほしくなかった」

「……」


 彼女は俺の顔を見ようとはしなかった。

 まだ、足りないんだ。

 これだけ言っても…。


「これ以上…俺は大切な人を失いたくない」


 そう言いつつ、結乃の正面に座る。


「大切?私がですか?気づいていますよね?私はあなたを利用するために近づきました。友達という関係を求めたのも、『追憶ノ双生』の攻略(私の目的)のためです」

「だとしても、今の俺がこうして前を向けているのは、結乃のおかげだ」

「私のおかげ?ふざけないでください。私は何もしていません」


 俺は母さんにもらった刀を手に取る。


「母さんに会わせてくれただろ。多分、俺一人じゃ母さんの墓参りなんて、死ぬまで行かなかった…いや、いけなかった。結乃が強引に連れて行ってくれたおかげで、母さんにもう一度会えたよ。そして、もう一度…俺はこの刀を握ることができた」

「だから――」

「ちなみに一番の理由は、結乃が高校生活最初の友達だからだ」


 並べてきた綺麗事に比べたら何気ない、人の感情を動かすには不十分な一言だ。

 でも、多分一番嘘偽りがなく、彼女が欲している言葉のような気がした。


「もう……なんですかっ…それ…」


 彼女は今まで抑えてきた感情が一気に溢れ出したのか、嗚咽交じりに涙をこぼす。

 初めてだった、彼女がこんなにもはっきりと感情を漏らす姿は。

 

「はい」

「あ…りがとう…」


 ポケットにあったハンカチを結乃に渡す。


「これ…濡れてます」

「あ」

 

 そう言えばエリクサーの中に落ちたの忘れてた。


「ごめん、意味ないよな」

「いえ、これで…これが良いです」

「え?そう…」


 静かに泣き続ける彼女を見て、誰でもわかるような、当たり前な事を再認識した。

 彼女は感情が無いんじゃなく、抑え込んでいただけだ、と。

 泣き姿なんて、じっくり見るものじゃないな。

 そう思い俺は外へ足を運ぶ。

 あのキリンモドキがいないのが幸いだな。

 異様なほど静かなこの空間の空を見つめ、頭を冷やした。





「すいません、気を使わせてしまって…」

「良いよ、俺も少し熱くなりすぎた」


 泣き止んだ結乃が、洞窟の前にいた俺に声をかけてくる。


「もう大丈夫か?」

「はい。おかげさまで。ハンカチは洗って返しますね」

「了解」


 再び洞窟内に戻った俺たちの間には少しだけ気まずい空気が流れていた。


「……」

「……あの」


 そんな中、重々しく結乃が口を開いた。


「聞きましたよね?」


 彼女が言いたいことはすぐに察することができた。

 助ける直前、結乃はこう言った。


『結乃…ごめんね…』


 触れていいのか躊躇っていたが、彼女から話を出してくれるなら気にする必要はないだろう。


「ああ、聞いた」

「…話さないといけませんよね…。いえ、たぶん東雲君には話すべきごとでしょう…」

「無理にとは言わない。って普段の俺なら言う。でも、今は知りたい。正直言うとさ、俺も結乃のことを知りたいと思ったから、多少怪しくても一緒に行動したんだ。だから、聞かせてくれ」


 彼女はどこか気恥ずかしそうに顔を逸らした後、深呼吸をする。


「ふぅ…わかりました。少し長いですよ?」

「何時間でも付き合うよ」

「何時間は言いすぎです。それでは……私は天宮結乃ではありません」

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