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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
2章 託されたもの

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願い

「……あぁ?」


 目を開けると、そこには見覚えのない岩肌がむき出しな天井がある。


「?……ここは…」


 全身にある怠さと片手にある違和感を不思議に思いつつ、上半身を起こすと同時、これまでの記憶が蘇った。


「っ!結乃っ!」


 咄嗟に名前を呼ぶ。

 しかし、返事どころか姿が見えない。


「くそ…結乃、何してんだ…」


 ここにいないなら、水場まで戻っている可能性が高い。

 そう信じ、来た道を戻ってみる。


「結乃?」


 水場まで戻ってきたものの、結乃の姿はない。

 

「……」


 考えたくもなかった。

 しかし、この状況…もう目を背けることはできないのだろう…。

 再び戻ってきた扉の前…、開けようと手を伸ばすも先程のキリンのようなモンスターの姿が脳裏を過り、思うように手に力が入らなかった。

 一度、扉から手を引き、刀を握りしめる。


「覚悟を決めろ…」


 深く息を吸い込んだと同時、片手で扉を開ける。

 即座に周囲の確認をし、キリンモドキがいないことを確認する。


「今がチャンスか…」


 そう判断し、扉から足を踏み出した直後――


[キィィィィィィィ]

 

「っ!」

 

 遠くからキリンモドキの鳴き声が聞こえた。


「はぁ…なんだ、遠くか…」


 早くなった心臓の鼓動を抑え、周囲を見渡す。

 この場所が高所のため周囲を一望できるが、地上は歪な形をした巨大な木々のせいで見通しが悪い。

 ここから人ひとり見つけるのは至難の業だろう。

 そう思い降りるための道を探そうとしたが…


「ないのか…」


 下へ続く道はどこにもなかった。

 代わりに――


「……うわ…」


 断崖絶壁になっているのかと思いきや、十分に足場があり、身体強化が得意なら人間なら戻ってこれる状態になっていた。

 だから結乃は単独行動したのか?

 そう疑問に思いつつ、目視で地上までの距離を見定める。


「やっぱり俺の見間違えじゃなかったか…」


 やはり5,60mある。

 となると、あのキリンモドキはおよそ70m付近か…。

 そんなことを考えつつ、素早く足場に飛び移り降りていく。

 先程の穴に比べてみれば60mなんて可愛く思えてしまう。

 ものの数分で地上に降り立ち、周囲を見回す。

 予想通り、歪で巨大な木々のおかげで光が届かず、視界はあまりよくない。

 いつキリンモドキがこちらに戻るかわからない以上、時間はあまりかけたくない。

 

「……待てよ」


 冷静になって考えてみれば、この状況あまりにも俺に都合が良すぎやしないか?

 キリンモドキがいないおかげで、ある程度余裕をもって探索できるこの状況…。

 何か引っかかる。

 脳内で、初めてキリンモドキと対峙した場面が再生される。

 

「…鳴き声」


 動物というのは、常日頃から鳴いているわけじゃない。

 コミュニケーションや威嚇など、何かを伝えたい時や危険を察知した時に、鳴くことが多いと聞く。

 もちろんモンスターすべてに当てはまるとは言わない。

 言わないが……。

 心臓が締め付けられるような感覚がした。

 冷や汗が頬を伝い、心臓の鼓動は早くなる。

 俺が記憶している中でキリンモドキが鳴いた場面は、俺たちと対峙した時のみ。

 もし…もしもだ。

 キリンモドキが鳴くきっかけが、敵を見つけた時だったとするならば、先程の鳴き声は一体何を見つけたのだろうか?

 結論にたどり着く前に俺の体は動いていた。

 この行動が無駄に終わるなら、それでいい。

 でも、もしも俺の嫌な予感が当たっているなら――


「くそっ!」


 結乃が危ない。



――結乃視点――

 


「はぁ…はぁ…」


 極力振り返らずに走り続ける。


「っ!」


 咄嗟に進行方向を変える。

 それと同時に正面に光線が直撃し、そこに存在していた草木を跡形もなく消し飛ばした。

 東雲君の手を切った時とは、光線の厚さが違う。

 流石のエリクサーでも、体を丸ごと消されてしまえば回復はできない。


「はぁ…くっ!…はぁ」


 息切れで苦しくても、足に痛みを感じても、動きだけは止めない。

 止めれば死んでしまうから。

 今の私にできることは、このモンスターを引き付け東雲君のいるあの場所から遠ざけること。

 そうすれば、彼が目覚めても探索に余裕が持てる。

 

「!」


 再び放たれる光線を避け続ける。

 私の役割の探知も、このモンスターの近くじゃ役に立たない。

 休憩できる場所が確保できない以上、このまま逃げ続けることなんてもう…


[キィィィィィィィィ]


 咄嗟に耳を塞ぐ。

 未だにこの鳴き声に慣れない。


「あっ」


 私のすぐ隣に光線が放たれ、着弾により発生した爆風により私は吹き飛ばされた。


「……」


 耳を塞ぐことに意識を取られたせいで、自身の足が止まっていることに気づけなかった。

 幸い目立った外傷はないが、少し頭を打ったせいか、視界が安定しない。

 私が立ち上がったと同時に、背後に殺気を感じた。

 振り返ると、巨大なキリン型のモンスターは複数の眼球で私を見下ろしていた。

 よく見ると口角は上がっていて、まるで私を嘲笑っているかのようだった。

 その様子を見て理解する。

 

(あぁ…()()()、ですか)


 私は目を瞑った。

 最初からおかしいと思った。

 私程度の人間が、こうも光線を都合よく避け続けることなんてありえないんだ。

 このモンスターは、私の逃げる姿を楽しんでいた…。

 周囲から聞こえる雑音が遠く感じられ、心音がうるさい。

 これが、死に直面した時の感覚なのだろう。

 そう思うと同時に、自然と口から言葉が漏れた。

 

「結乃…ごめんね…」


 驚くほど、その声は震えていた。

 良かった…こんな情けない声を…彼に聞かせなくて。


「諦めんな!馬鹿!!」


 声が聞こえた次の瞬間、私は誰かに抱きかかえられ物凄い速度で連れ去られた。

 背後からは爆発音が聞こえる。

 

「え…」

「やっぱ来て正解だった」


 私を抱きかかえる人物の正体は、東雲君だった。


「どうして…」

「ここから出るなら、二人でだ。結乃が出ないなら、俺も出ない」

「っ……」


 私は視線を下げ、胸に手を当てる。

 そして、東雲君には聞こえないぐらいの小声で呟く。

 

「…なんで」


 湧き上がる感情を押し殺そうと胸を握りしめ、彼に顔を見られないように俯く。

 私は捨てたはずだ。

 誰も傷つかないように。

 ハッピーエンドの物語に私はいらない。

 なのに、どうしてあなたは…


(私に希望を…くれるの…?)


 私の中で、何かに亀裂が入るような音が聞こえた。

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