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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
2章 託されたもの

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未知の領域で

――東雲凪視点――



 結乃の探知に引っかかった扉の方へ移動しようとしていた時、結乃から疑問をぶつけられる。

 

「そういえば東雲君、飴玉のようなものを持っていませんか?」

「ん?持ってないはずだけど…あ」


 俺は自身のポケットへ手を伸ばし、中からあるものを取り出す。


「…忘れてた」


 昨日、楠乃先生から受け取ったミチ婆の飴玉の存在を完全に忘れていた。


「昨日、先生に貰ったんだ」

「なぜ飴を?」

「あー、そのミチ…佐野美知恵さんとは知り合いでさ…」

「理解しました。そうですか、あの魔力を増やす飴玉も美知恵さんからですか」

「…察しの良いことで」


 本当に鋭いな…。

 ゲートに入ってから、経験差で俺がリードすることが多かったから忘れかけてた。

 彼女は紗優と比べて自分を普通寄りだと評価しているが、一般的な学生の基準で測れば十分天才なんだ。


「で、デジャブなんだけど…、これ俺失格?」

「持っていることがバレていなければ失格になりません。私は言うつもりはありませんよ。…あ、それなら…。貸してください、その飴玉」

「いいけど…どうするんだ?」


 結乃は飴玉を受け取ると、空いた片手をエリクサーに添える。

 次の瞬間、彼女の両手は光輝く。


「あー、『合成』か」


 『合成』が終わり、どんな感じになったのか、彼女の手にある飴を見る。


「あれ…変化ないな」

「はい。単純にエリクサーの効果のみを飴玉に合成したので」

「うわ無法…。それって、本当にぶっ壊れてるな」


 物量を変化させず…いや、形状すら変化させずにくっつけたい物、あるいは効果を限定し、合成…。

 これを無法と言わずしてなんと言えばいい。


「はい」

「あ、ありがとう」

 

 結乃から飴玉を受け取り、ポケットに入れる。

 すると、彼女はバックの中から携帯食を取り出し、飴玉と同じようにエリクサーとの合成を始めた。

 

「一応、できる分だけ合成しときますね」

「……あのさ、そのスキルって弱点とかあるの?」

「?」


 結乃が首を傾げつつこちらを見てくる。

 そこで、自分の失態に気づいた。


「あぁ、ごめん。踏み込みすぎた」

「いえ、東雲君になら言ってもいいですよ。私の『合成』にもちゃんと弱点…というより制限があります。2つ以上のものを同時に合成できませんし、対抗戦の時の銃のような合成の場合、対象となる物体の構造の把握は必須になります」

「それがあっても、ぶっ壊れてるなー」


 味方だと頼もしいが、敵となると恐ろしいな。


「ところで、なんで俺にそこまで教えてくれるんだ?」

「東雲君は友達ですから。それに、この状況でお互い何がどこまでできるのか、しっかり把握しておきたいので」


 結乃の言っていることは一理ある。


「俺は――」

「――東雲君は言わなくて大丈夫ですよ。祝福と戦闘能力についてはほぼ把握しています」

「…そっすか」

「それとも、隠している力…見せてくれるんですか?」


 俺は結乃の質問に答えず、自身の刀に目を向けた。

 話せない内容…ではない。

 ただ、まだ覚悟が俺にはなかった。

 そんな俺の心境を察したのか、結乃は早々と話題を変えてくれた。

 

「ところで東雲君のその刀、大丈夫ですか?先程の落下の際、かなり無茶な扱いをしていたようですが…」


 言うより見せる方が早いと判断し、刀を抜いて、結乃へ刀身を見せる。

 

「刃の欠けどころか傷一つ無い…。これは一体…」

「この刀は『万象龍ばんしょうりゅう』の鱗で作ったって師匠が言ってた」

「万象龍…数十年前に討伐された龍種ですね。確かに討伐隊の一つに東雲優凪さんのギルド『威風堂々』の名前がありました。確かにあの龍の鱗を素材にしているのなら、異常な耐久性は納得できます」


 よく調べてらっしゃる。

 ただ、一点だけ彼女の理解に誤りがある。


「凄いのは耐久性じゃなく、修復能力だ。この武器、刃がかけても治るし、何なら武器の形状も変化できるんだ。まあ、形状変化については魔力がいるから俺だけじゃ無理だけどな」


 情報共有はこの程度でいいだろう。

 そろそろ進まないと、食料も精神力も有限だからな。

 

「行こう」

「そうですね」

「今の『合成』で魔力の大半を消費しました。なので、現状必要最低限の魔力しか残っていません。戦闘面は東雲君に頼ることになりますが…」


 モンスターとの戦闘、特に初見相手になると実力よりも経験があった方が有利なことが多い。

 元から俺の役割だな。


「大丈夫。初めからそのつもりだ」

「ありがとうございます」


 俺たちは扉のある方向へ向かう。

 薄暗い洞窟の中を移動すること数分、目の前に扉が見えてきた。


「案外近かったな…」


 慎重に扉に近づいた瞬間――


「!?」


 悪寒が走った。

 

「結乃…」

「ええ…、この先に確実に何かがいます」


 俺と結乃は巨大な扉に触れ、同時に力を入れる。

 思ったより簡単に開いた扉の先には――


「嘘…」

「なんだ…これ」


 洞窟の内部とは到底思えない景色が広がっていた。

 扉から出て、周囲の景色を眺める。

 空のような天井に、太陽のような光源が歪な形状の木々を照らしている。

 少し遠くには、山が連なり得体のしれない液体を頂上から噴火の如くまき散らしていた。

 

「現実…なのか?これ…」


 ゲートというのは基本的に、洞窟ならボス部屋まで一貫して洞窟だ。

 要するに洞窟から屋外なんてレベルの地形、エリアの変化はありえない。


[キィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!]


「くっ!」

「っ!」


 不意に放たれた耳をつんざきそうな不快な鳴き声のようなものに、俺も結乃も耳を塞ぐ。

 音の発生源なんて、探さなくてもすぐにわかる。

 その存在は最初から見えていた。

 見えていた上で、俺の脳が認識を拒んでいたんだ。

 異常な空間の中央に立つ、キリンに近い体形の巨大なモンスター。

 俺たちが立つこの位置は周囲より断然高く、目視で地上から少なくとも5,60mはある。 

 なのに、俺たちよりも頭の位置が少しだけ高い。

 その悍ましいほどの巨体に加え、長い首の先にある顔は、巨大な眼球が複数ついており常に動いている。

 体表は渦を巻いた鱗のようなもので埋め尽くされており、尾の方には巨大な渦を巻いた装甲のようなものがある。

 

「……」

「……っ!?東雲君!」


 結乃に強く突き飛ばされた。

 

「なっ!?」


 俺が疑問を抱く前に、光の線が目の前を高速で過ぎ去っていく。

 地面に倒れた俺は、立ち上がろうとして地面に手をつこうとした。

 が――


「は?」


 腕がなかった。

 

「あ…っ!くそっ!ぐああぁぁ!」


 激痛が走り、意識が飛びそうになりつつも、必死に自我を手放さないようにする。


「東雲君、引きましょう!」


 結乃の声が聞こえるなか、痛みに耐えつつ視線を巨大なモンスターへ向ける。

 そこで気づいた。

 複数の目玉の一つだけが、俺たちを見たまま動いていないことに。

 落とされた俺の腕を拾った結乃は、強引に俺を扉の中まで引っ張り込んだ。


「東雲君、急いでこれを食べてください」


 彼女は素早く扉を閉じた後に、切断された右手を俺の傷口に当てながら、携帯食料を口に入れてくる。

 

「エリクサーの効果で右手はすぐに戻りますが、感覚は少し時間がかかります。しばらくは安静にしてください」

「あ、あぁ…わかった」


 俺にあったのは助かったという安堵ではなく、違和感だった。

 あんな光線のようなものが放てるのに、なぜここまで逃げてくる俺たちを攻撃しなかった?

 直感だが、あいつにはそれができたような気がする。


「なぁ、結乃…。結乃?」

「……」


 結乃は黙ったままスマホを見ていた。

 

「…先程のモンスターについて、少し調べています」


 そこで試験用に配布されていたスマホの中に、モンスターの図鑑のようなアプリがあった事を思い出す。

 

「…あの化け物、災厄さいやく級はあるだろ」

「……」


 俺の質問に結乃は無反応だった。

 まだ検索しているのだろうか…。


「……その一段階上の壊滅級の可能性すらあります」


 結乃の言いきらない言い方に、嫌な予感を感じた。


「…無いのか?」

「……はい、あのモンスターの情報がありません」 

「……」


 ハンター協会が直接配った端末にある情報だ。

 抜けがあるとは思いにくい。

 その中にあのキリンモドキがいないとなると……


「未確認のモンスターってことか。状況はすでにマズいを越えてるぞ。俺たちに取れる選択肢はこの扉の先か…水深約100mにある扉ぐらいになる…」

「それでは、倒すしかありませんね。あの化け物を」

「……は?」


 結乃の発言に思わず声を漏らす。

 倒す?あれを?どうやって?

 思考を巡らせるも、あのモンスターに勝てるビジョンが浮かばない。


「何を根拠に勝てるって言ってんだ?」

「……」


 結乃と目が合う。

 

「…は?俺なのか?」

「はい」

「冗談はよしてくれ」

「――東雲君。あなたの隠している力、それが唯一の希望になるかもしれないんですよ」

「………」


 言い返そうと口を開くが、上手く言葉が出ない。

 結乃はすでに確信を持っている。

 いや、それどころかこの力の正体すら知っているんじゃ…

 

「過去に東雲一刀流……優凪さんから託されたもので、あなたは佐野亜優さんを傷つけたトラウマがある」

「っ!?…なんで」

「聞きました。本人に会って」


 平衡感覚が…意識が定まらない。

 混乱…している。

 という自覚はできるが、どうしようもできない。

 結乃は一体どこまで…

 その瞬間、結乃の手が俺の頬に触れ、顔を固定された。


「落ち着いて聞いてください。この状況、あなたが全力を出さないと私共々死にます」

「…だから…」


 その言葉を言いたくなかった。

 止めようとしても、まるで自分のものじゃなくなったかのようにあっさりと言葉を口にした。


「無理だ。つかえない…俺には、もう…」


 刀を握って、母さんを思い出す度に、あの時の人を…肉を切る感触が手から胸へ、胸から脳へと伝わる。

 激しい気持ち悪さ…拒絶反応で何度か吐いたことだってある。

 俺はもう…使えないんだ。

 

「……」


 結乃の手が頬から離れていく。

 見限られたか…、今更だ。

 ロクに充実もしていない学園生活に浸って、俺は自分を無意識に誤魔化していた…。

 そうだ…俺はもとから…


「東雲君、今は休みましょう」

「は?急にどうし…」


 突然、視界がボヤけ、強い睡魔に襲われる。


「これ…は……」


 間違いない、何か携帯食に仕組まれていた。

 くそっ!なんでこんな時に…


「…少し寝ていてください」


 結乃の冷たい声が聞こえた直後、俺は瞼を閉じ意識を手放した。

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