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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
2章 託されたもの

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23/52

嫌な予感

――上級ハンター資格試験 実技実施日――



 筆記試験の翌日の朝、実技試験に利用される『ゲート』付近に足を運ぶ。

 すでに結乃は到着していて、目が合うとお互いに距離を詰め挨拶を交わす。

 

「おはようございます」

「おはよう、結乃」


 周囲を見回すが、俺と結乃以外の学生の気配はない。

 

「案外学生は少ないな」

「時期が関係しているんでしょう。私たちの学校の3年はかなりの割合の人が上級ハンター試験を受けるらしいですが、この時期の3年は実質2年生のようなものですからね」

「確かに」


 そんなやり取りをしていると、声が聞こえた。


〈時間になりましたので、上級ハンター資格の実技試験についての説明を行います〉


 マイクを使って声を出しているのは、二十代ぐらいの男性だった。


〈私はハンター協会の田丸真司という者です。本日の上級ハンター資格試験の責任者であり、審査員も兼ねています。本試験の内容については口頭で説明することはほとんどいたしません。昨日の手続きにて、記入されたメールアドレスに試験の詳細情報を送りますので、各自確認してください。それでは、12分後に実技を開始します。開始と同時にメールは削除されるので、ご注意ください〉


 周囲の大人たちがスマホを手に取り確認を始めたのを見て、俺もスマホを取り出しメールを確認する。


――――――――――――――――――

[上級ハンター資格 実技試験について]


 本日、実技試験の会場はA級のゲートです。

 

・合格の基準

1 期間終了まで、リタイアせずゲート内部にいたもの。(実技実施日の翌日まで)

  試験終了は試験用に配布したスマホより通知があります。


2 ゲート内のボスを倒した者

  この場合、討伐に関係した受験者のみを合格とし、それ以外の受験者は再試験の対象となります。


・失格の基準

1 ゲート内で一度もモンスターと交戦をしていない者

2 同じ受験者を攻撃した者

3 一度でもゲートの外に出る。

  又は試験用のスマホにてリタイアメールを送信した場合

4 本試験で配布されるスマホを破壊、紛失した場合

5 本試験のサポートとして参加しているハンターを攻撃、又は指示に従わなかった場合


〇試験が開始する10分前に、試験に必要なアイテムを配布します。

 (2日分の食料なども)


〇試験用のスマホは、試験中皆さんの位置や状態を確認するために用いられるので、決して破壊したり、手放さないでください。


〇試験中、命の危険があると判断された場合、本人の意思関係なく、近くにいるハンターがゲート内から連れ出します。


――――――――――――――――――


 一通りルールに目を通し呟く。


「…まあ、ルール違反で失格ってことにはならなそうだな」

「そうですね」

「ちなみになんだけど、合格条件の2つ目あるじゃん?」

「はい」

「過去にいたってことだよな?ボスの討伐者」

「まあ、いるにはいました。ただ…3、4年に1度ぐらいの頻度だったと思いますよ。それに、大抵そういう人たちは厳重な調査が入ります。私が記憶している範囲では、討伐した試験の8割に身分を偽装したハンターがいました」

「うわー」


 身分を偽装…上級ハンターでその言い方だと超級ハンターってことになるよな…。

 超級ハンターにとって資格は必要ない…ってことは、楽に試験をクリアするために誰かが金か何かで雇った系か。

 今や国家資格並みの需要があるハンター試験で浅ましいとしか言いようがない。


〈試験開始10分前です。2日分の食料と武器を持参していない方への武器の支給をします。それと試験では専用のスマホのみ使用可能となっているので、私物のスマホや試験とは関係のない物はこちらが責任をもって預かります。尚試験開始以降、関係のない物などを発見し次第減点、或いは失格にする場合があります〉


 田丸の声が聞こえなくなったことを確認し、行動に出る。


「それじゃ、食料を受け取りに行くか」

「そうですね。それと東雲君、スマホの機能についてわかりますか?」

「流石に大丈夫だろ」


 そのフラグはすぐに回収された。

 食料と試験用のスマホを受け取った後、早速スマホの画面上に不明なアプリを見つけたのだ。


「何これ」

「……やっぱわからないじゃないですか」


 再び俺を射抜く結乃のジト目に申し訳なさを覚えつつ、説明を頼む。


「説明、お願いします…」

「…それは緊急時に使用するらしいですよ。アイコンをタップするだけで、近くのハンターがすぐに駆け付けてくれるらしいです。使用すればリタイア判定なので合格はできません」

「リタイア用…か。間違ってもタップしないようにしよ」


 スマホを閉じて、結乃を見ると彼女の視線は俺の刀へと向いていた。


「ん?どうかしたのか?」

「いえ、その刀…優さんと同じですね」


 なんで知ってるんだ?と聞こうとしたが、よくよく考えれば結乃と優は面識があるため、おかしいことじゃない。


「この刀は昔、師匠から貰ったんだ」

「そうですか…優凪さんが。それで、なぜ東雲君は今日その刀を持ってきたんですか?」

「ん?昨日、結乃と別れてすぐ、柊詩奈って女性とぶつかってな。その時にこの刀を試験に持っていくように言われたんだ。正直、迷ったんだが彼女も真剣っぽかったし、減るもんじゃないから持ってきたんだ」

「柊…詩奈?」


 結乃はどこか柊詩奈という名前に違和感を持っているようだ。

 もしかして知り合いだったか?


「その人、どこか不思議な感じはしませんでしたか?」


 結乃にそう言われ、昨日の柊との出会いを思い出す。

 

「確かに、どこかミステリアスな雰囲気だった。それに、初対面のはずなのに妙に親しく接してきたし」

「……もしかするとその人は十二天の一つ、柊家の人かもしれません」

「え?マジか」

「…あの、もしかして東雲君、十二天…把握していませんか?」

「……すんません。天宮と風見、彩霞、東雲、出雲、弥郡、班目、武藤までしかはっきり覚えてない」

「まあまあ覚えていましたね。残りは『神葬しんそう』『佐野』『望月もちづき』です」


 佐野、その苗字が出た瞬間、脳裏に亜優さんとミチ婆の顔が浮かぶ。

 確か二人とも血が繋がってて、苗字が佐野だったような気が……偶然か?


「その話はまた次の機会にして、まずはこの試験に集中しましょう」

「そうだな」


 結乃の言葉で俺は頭を切り替える。


「この試験では、私たち二人だけでの行動になりそうですね」

「あぁ、そうっぽいな」


 大人たちはすでにそれぞれのチームを組んでいて、俺たちには声がかからない。

 まあ、言われずともわかってはいた。


「子供は足手纏い、ってことね」

「彼らも上級になるために必死ですからね。合格率を上げるなら、そのような思考になるでしょう」


 A級ゲートは過去に数回、師匠と共に攻略したことがある。

 その時のモンスターの強さを基準にするなら、俺と結乃だけでもモンスターは倒せるだろう。

 ただ、群れられたり、強い個体が出た場合は少し危ないかもしれないから、数人程度は大人が欲しかったが、この状況じゃ無理だな。


〈試験の開始時間まで残り3分です。受験者の皆さんはゲート前に集合してください〉


 試験の開始を意識し、心拍数が上がる中、落ち着くために深呼吸をし、ゲート前に移動する。


〈今回の試験のサポーターとして超級ハンター8名が先にゲートに入っています。しかし、皆さんも知っての通り、この試験は過去に何人も死者を出しています。変なプライドは捨てて命大事にしてください。それでは、時間になったので試験を開始します〉


 田丸がそう言うと同時に、周囲にいた大人がゲートに入っていく。

 次々にゲートの中に消えていく人たちを見て、試験の開始を遅れて実感した。

 やはり試験となると緊張してしまうな。


「東雲君?緊張してますか?」

「ああ。試験ってなるとな…。ふぅ…よし、俺たちも行こう」

「はい」


 俺と結乃は歩き出し、ゲートに足を踏み入れた。




――楠乃視点――



「おはよー」


 タブレットを片手に、作業をしている田丸に対し力の抜けた挨拶をする。


「はぁ、久しぶりだな直人」

「真司、だいぶ老けたな」

「ハンター協会の仕事が忙しくてな。お前は教師だろ?試験始まってるから、もう生徒はいないぞ」

「別に合う必要ないだろ。余計なプレッシャーかけるのは嫌いなんだ」

「相変わらず、生徒思いなのか何なのか…。にしても、お前が推薦人になるなんて珍しいな?どうした、頭でも打ったか?」


 田丸は一応、この試験の責任者でもあるから俺の提出した書類に目を通していたのだろう。

 ったく、面倒なとこばかり目を付けやがる。


「失礼だな。適当に条件出したらなんか普通にクリアしてきたから、推薦人になってやったんだ。あとお前、書類みたなら他の推薦人にも目を通してるよな?」

「ああ、あの賀茂代表が推薦とはねぇ。本人緊張してるだろ?」

「いいや、伝えてないから知らないだろうな」

「マジかよ。でも、その選択は正しいかもな」


 真司はポケットから飴玉を取り出し、口に入れる。

 

「まあ、今回は思った以上に受験者が少ないし、超級ハンターは8人も来てくれるしで過去一安全な試験になっているから、心配はいらないんじゃないか?」

「そうだといいがな」


 何気ない会話をしていると、遠くから一人の男が走ってきた。


「なんだあれ?」

「あれは…は?」


 真司は困ったような表情で、男に話しかける。


「どうしたんだ?君は受験者のサポートを任せていたはず…」

「緊急事態です。試験を中止してください」

「…」


 男の表情からして、嘘偽りないと気づいた瞬間、俺と真司の雰囲気は一変し、緊張が走った。


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