何度でも
――クラス対抗戦翌日 東雲凪視点――
「お兄…その顔…どうしたの?」
朝一番、ひどい眠気に襲われつつ朝食を口にしていると、妹の舞花が心配そうに言ってきた。
「俺の顔…ヤバイ?」
「うん。死にそうな顔してる」
「マジか」
「……」
あまりにも舞花が心配に見てくるため、簡潔に理由を説明する。
「徹夜で勉強してたんだ。変な事はしてない」
「勉強?あ、お兄が受けるって言ってたハンターの試験の」
「そうそう」
試験を受けられるのは良いが、疑問もある。
推薦人として3人の名前を書かなければならないのだが、俺は二人分しか連絡していない。
個人順位が確定して3人目に連絡しようと思っていたのだが、なぜか昨日の夕方時点で楠乃先生に連絡したところ確定していた。
(亜優さんに楠乃先生…あと、一人誰だ……)
気にはなるものの、無事に試験を受けられる以上、そこまで気にするべきことじゃないというのは分かる…。
だが、やはりどうしても気になる。
今度、楠乃先生に会ったら聞いてみよう。
◇
試験会場となる場所まで来たのはいいのだが…そこにまさかの――
「――結乃…」
「はい?」
天宮結乃がいた。
「どうしてここに?」
正直なところ、理由は大体予想がついてる。
「上級ハンターの資格試験を受けに来たんですよ。東雲君が受けると聞いたので、ついでです」
「だろうな」と心の中で呟き、結乃の顔を見つめる。
「…そういえば紗優は上級ハンターの資格持ってるんだろ?」
「はい。昔取っていましたよ」
「てっきり結乃も持ってると思っていたんだけど…」
「持ってませんよ。私はハンターに興味はなかったので」
結乃は俺の目を見つめているが、どこかその目は俺じゃない何かを見ていると感じてしまう時がある。
もともと存在がミステリアスと言っても過言じゃないが…
「……」
「……あの…」
「ん?」
「私の顔、変ですか?」
考え事をしていたらかなり食い気味に見つめてしまっていたらしい。
「あ、違う違う。やっぱ紗優とびっくりするぐらい似てるなぁって」
適当にごまかしを入れ、少しだけ距離をとる。
「同時期に生まれましたからね」
「へぇ…双子ってやつ?」
「…そういえば、東雲君って勉強はしてるんですか?」
明らかに話をずらされた。
「ん?まあ、徹夜したけど…ちょっと不安かな」
なんだ…紗優との間に何かがあるのか…。
直観だが、結乃から感じた危うさの正体、その核心に近い感じがする。
(この際、少し踏み込んでみるか…)
できるだけ自然に、結乃に話しかける。
「結乃って、何か悩み事でもあるのか?」
「…?」
「いや、無いなら――」
「――どうして、そう思ったんですか?」
「え?」
予想以上に結乃が食いついてきたことに、少し驚いた。
雰囲気的に知られたくない、言いたくない系統だと思ったが、予想が外れたか?
「えーっと、雰囲気?なんとなくなんだ」
「なんとなくですか。実は悩みはあります」
「あるんだ」
「実は……少し太りました」
「……」
「……」
俺も結乃も見つめ合ったまま、時が止まったかのような静寂が訪れた。
どう反応すればいいんだ…。
いや、本人も真顔だからいっそうやりづらいわ。
脳をフル回転させ、思考をした俺が導き出した答えは――
「……試験、受けよっか」
「……」
触れないことだった。
無言で会場の中に入る。
そこからは簡単な手続きを受けた後、試験が開始された。
〈筆記試験の結果〉
※ 300点満点 260以上で合格
[受験番号] [名前] [点数] [合否]
001 ……
……
004 天宮結乃 290 合格
……
……
018 東雲凪 265 合格
……
……
筆記試験が終了し、1時間ほど結乃と待機した後に、結果が会場のモニターに表示されていた。
「あ…あぶねぇ…」
「そうですね」
「結乃はすごいな290って、ほぼ満点じゃん」
「すごくはないですよ。紗優は満点でしたから」
「マジかよ」
ギリギリとは言え、無事に筆記は合格できた。
あとは、実技試験をクリアすれば上級ハンターの仲間入りだ。
「東雲君、ハンター資格はなぜ上の級になればなるほど難しくなると思いますか?」
唐突に結乃が聞いてくる。
「…筆記が難しいって、ネットでもいろんな人が言ってたな」
「それもあります。私たちが受けた上級の筆記はかなり難しい部類に入りますから。その点でいえば、東雲君はかなり地頭…記憶力が良いのでしょう」
「それは誤解だ。師匠が昔からよくモンスターとかゲートの話をしてくれたから、それが記憶に残ってたんだよ。だから、徹夜で合格できたと思ってる」
そう言い終えて、結乃の質問について考える。
「実技が難しいとかか?」
「正解です。中級までの実技は、合格率が約30%なのに対して、上級の実技試験の合格率は毎年1桁です」
毎年1桁、1年間にどれほどの人が試験を受けているかは知らないが、100人受けたと仮定しても、合格者は10人以下だ。
「それが明日ね…。もちろん、結乃は試験内容を知ってるんだよな」
「もちろんです。自分の受ける試験の内容ぐらいは、覚えるのが普通ですから」
「ぐっ」
結乃の言葉が俺の胸に刺さった。
「結乃さん…教えてほしいです」
「…わかりました」
結乃のジト目から逃れるように顔を背けると、説明が始まった。
「明日私たちが受ける実技は、毎年同じ内容で実施されています」
「毎年同じ?」
「はい。もちろん『ゲート』自体は毎回違いますけど、試験の合格基準やルールなどは変更がありません」
「へぇ…」
「そして、実技の最終目的…合格基準は、期間終了後までリタイアせずにゲート内で過ごすことです」
「ん?」
結乃の説明からして、上級の実技は1日じゃ終わらないような気がするのだが…気のせいだよな?
「あの…」
俺の様子を見て察したのか、結乃が少しため息交じりに聞いてくる。
「もしかして東雲君…上級の試験、一日で終わると思っていましたか?」
「…正直、思ってた」
「明日から約2日間、私たちは『ゲート』の中で過ごすことになります」
「マジか…。時雨と舞花、大丈夫か…」
「そこは大丈夫です。堂島さんに時雨君と舞花ちゃんのお世話をお願いしているので」
「ナチュラルに手配している点に驚きと恐怖を感じるよ」
以前、結乃に天宮本家に連れていかれた時、時雨と舞花のお世話をしてくれた天宮家のメイドである堂島さん。
堂島さんの見た目はインパクトが強いため、最初は不安だったが、時雨も舞花も最終的に懐いていたし、大丈夫だろう…多分。
「私はこの後用事があるので早めに帰りますね」
「ああ、また明日」
歩き去る結乃を見届け、姿が見えなくなったことを確認し、背伸びする。
「ふぅ…とりあえず筆記は終わり…。俺も帰って寝――」
振り返ると小柄な人とぶつかってしまった。
「――っと!」
ぶつかった相手の体勢がよろついていたため、手を掴み姿勢を安定させた。
「ごめん、大丈夫だったか?」
「はい、私は大丈夫です」
綺麗な水色の髪と真っ白な肌、どこか神秘的な雰囲気を身にまとった女の子だった。
すべてを見透かすような紫紺の瞳が俺に向けられる。
「ん?どうかなさいましたか?」
「…いや、綺麗な人だなって…」
「ふふっ、お上手ですね。ナンパというやつですか?」
「ナンパ…」
「ここで出会ったのも何かの縁、私は柊詩奈と申します。あなたは東雲凪君、ですよね」
「!?」
自身の名前を呼ばれた瞬間、体が硬直した。
なぜ初対面の彼女が俺の名前を知っている?
「あ、すいません。私の悪い癖なんです。凪君が名前を言うまで待ったほうがよかったですね」
冷や汗が頬を伝う。
この子、普通じゃない。
「……柊さん、一体…」
「詩奈でいいですよ。お互い堅苦しいのはなしです。今日は、あまり長くお喋りはできないので、大事な事を二つだけ伝えますね。信じるも信じないもあなた次第です。まず1つ、明日の実技試験は、あなたの大事な刀をお持ちください。そして、もう一つは私が手を貸せるのはあと2回です」
「……は?」
まったく意味が分からない。
大事な刀?手を貸せるのはあと2回?
頭が混乱してきた。
唯一確信したのは、この子と出会ったのは偶然ではなく、意図的だったということだけだ。
「それでは、私はこれで」
「ちょっと待て」と言おうとしたが、情報の処理が間に合っていなかった俺は、声が出せず、手だけが彼女を制止しようとするも、届くことはなかった。
「……」
ある程度整理がついた頃には、柊詩奈の姿はなかった。
望美香といい、柊詩奈といい最近不気味な人物に絡まれる。
それよりも――
「大事な刀…か」
柊詩奈は、時雨や舞花ですら知らないあの刀の事を知っているような口ぶりだった。
だとするなら、彼女もまた白井里香と同じく師匠…東雲優凪と関係がある人物なのか…?
「あーくそっ…頭が痛い……」
一度思考をやめ、帰路についた。




