偽りの果てに
――観戦席にて――
「終わった…か」
学校側が用意した観戦室にて、対抗戦の終了を確認した賀茂憲明は立ち上がり背中を伸ばす。
「……」
「ん?どうかしたのか?」
賀茂は、隣で考え込むような様子を見せる佐野美知枝へ声をかけた。
「いいや、なんでもないよ。それで、現役の高校生たちの戦いを見た感想はどうだった?」
美知枝の質問に憲明は顎に手を当てながら答える。
「年を重ねる度に全体的にレベルが高くなっているな」
「そりゃ、教育体制が整ってきた証さね」
「それは素直にハンター協会として喜ぶべきだな…。それで、凪はどうだ?」
賀茂の質問にすぐには答えず、少し間を置いたのち美知枝は口を開いた。
「…さあねぇ……。ただ、私らにできることは無いよ」
「……そうか…いや、そうだな」
重くなった空気の中、美知枝はモニター越しに映る凪の姿を見つめたまま言った。
「あとは凪本人が乗り越えるだけさね」
――東雲凪視点――
白井さんが歩き去ってすぐ、一羽のカラスが飛んできた。
[障壁コアに地図を送りました。指定の部分に色がありますので、速やかに向かってください]
カラスの首元にある小さいスピーカーから先生らしき人の声が聞こえたと思ったら、どこかへ飛び去っていった。
「……終わりか」
そう呟くと同時に、白井さんとの戦いを思い出す。
彼女が最後に放とうとした技…見間違えじゃなければ東雲一刀流『雲外蒼天』に似ていた。
まさか…彼女は師匠と……。
「いや…やめよう」
思考を途中で放棄した。
彼女の俺に対する態度を見た感じ、聞いても答えてくれないだろう。
それに、結論の出ないことをじっくり考えるような気分じゃない。
少し早足でコアに届いた地図をみつつ、指定場所へ向かった。
◇
指定された場所に到着すると、結乃と最初に目が合った。
「あ」
彼女はすぐさま近づいてきて、頭を下げた。
「え?」
「すいません。コアを割られてしまいました」
「ちょっ、頭を上げてくれ。別に結乃が悪いとかじゃない」
「そうだぜ」
「みんなの責任だ」
結乃の後ろから明石と鍵谷が現れる。
「な?結乃の責任じゃない」
「そうそう、それに責任ならあっちにあると思うよ」
明石がそう言って指さした先には、2組の女子たちに囲まれて責められている様子の佐藤たちがいた。
「あー、初手で脱落した奴らか…」
「そうそう、あの3バカが戦犯だからな」
鍵谷が深く頷きつつ、結乃を励ましてくれる。
「まあ戦犯は少し言い過ぎかもな。俺たちはお互いに信頼できるほどの関係を、入学してから積極的に築けなかった。だから俺や結乃に対する不満もあった」
「東雲君の言う通り。僕も女子たちとはつながりが少し薄かったからね。初手でうまくまとめられなかった。その点でいえば、今回の責任はクラス全体にあったね」
明石が冷静に分析を始めたあたりで、先生らしき人の声が聞こえた。
「1年全員の人数確認を終えました。今から、学校に転移するので極力、その場から動かないでください」
そう言われてすぐ、対抗戦が始まる前に見た光景が再び目の前に広がった。
光が一層強く輝いたと感じた直後、景色は一瞬にして学校の体育館へと変化していた。
「うわ…やっぱすげぇな」
「あぁ」
何度見ても、転移のスキルはすごいな。
〈あー、あー。それでは皆さん。クラス対抗戦お疲れ様でした。クラス順位と個人順位の結果はステージのモニターに表示します〉
その声と同時に、ステージの幕が開かれ、モニターが姿を現す。
すると、画面に1組から3組の文字が現れ、1の位からゆっくりと数字が出された。
1組 24
2組 18
3組 6
すべての数字が出ると、アナウンスが流れる。
〈1組24Pt、2組18Pt、3組6Pt。よって今年のクラス対抗戦の優勝クラスは1組です〉
「うぉぉぉ!」
「よっしゃ」
「やった!」
「勝ったね!」
1組の生徒たちの喜びの声が聞こえる一方で、3組の空気は少し重くなっていた。
〈続いて、個人順位の公表になります。発表するのは上位5位までで、それ以降の詳細な順位に関しては各自、メールにて送信しているので確認してください。では、表示します〉
個人順位
1位 天宮紗優 35
2位 東雲 凪 33
3位 沼津健二・風見辰馬・明石 徹 19
4位 天宮結乃・彩霞 唯 18
5位 白井里香 16
2位という順位を見て安心すると同時に、周囲から向けられた驚きの視線に頭が痛くなった。
その後、校長の挨拶や賀茂さんとミチ婆の話が終わり、無事にクラス対抗戦は幕を閉じた。
皆、対抗戦の感想を言い合いながら帰る中、俺は職員室へと向かい、楠乃先生の前に立つ。
「おぉー東雲。2位とはお見事だな―」
「ありがとうございます。楠乃先生」
「みなまでは言うな。わかってるから。推薦の件だろ?大丈夫、先生約束は守るぞー。それと…ほれ」
楠乃先生が投げてきたのは飴玉のようなものだった。
一瞬、なぜと疑問に思ったが飴玉のようなものに込められた魔力を見て察した。
「ミチ婆…じゃなくて、美知枝さんからですね?」
「そうだ。どこで聞いたのやら推薦の件を知られててなー。それで、話しかけてきたと思ったら、お前へ渡しといてくれって貰ったんだ」
どうやらミチ婆は一足先に帰ったらしい。
久しぶりに話をしたかったが、しょうがない。
「先生、美知枝さんと知り合いだったんですね」
「昔、世話になってな。それより、上級ハンターの資格試験の日程なんだけど…これが少し問題でな」
「問題?」
先生の口から問題という言葉が出たせいで、緊張が走る。
まさか、試験が中止に――
「試験日、明日なんだわ」
「は?」
「安心しろ、筆記だから。実技はまた後日だと思うから。じゃ、頑張って。あと推薦人については報告しなくていいぞ。もう二人とも確認できているから」
「は…は?」
「はい、これで用事はないな。先生もこれから仕事なんだわー」
早口で説明され、呆気にとられたところを、職員室から半ば強引に出された。
職員室の扉を閉める音で、我に返る。
「な…なんだあの人。本当に教師か?」
疑問に思いつつも、試験が明日である以上、メリハリを付けなければならない。
そう思い、帰路についた。
――楠乃視点――
混乱する東雲を半ば強引に帰し、俺は自分の椅子に座る。
職員室では、先生たちが今回のクラス対抗戦での生徒たちの記録をつけている。
そんな中、俺が椅子に座り取り出した書類はクラス対抗戦とは全く関係のない紙だった。
その紙の推薦人と書かれた枠には、俺含め3人の名前が記入されていた。
佐野美知枝
賀茂憲明
楠乃直人
名前を眺めつつ、机の引き出しから判子を取り出す。
「さて、と」
唯一判子が押されていない、自分の名前の枠に狙いを定め判を押す。
「もう戻れねーよな…」
上級ハンターというのは、中級ハンターと比べ、死亡率も格段に上がる。
試験ですら、絶対に死なないという保証がなくなるほどだ。
要は、この書類に判子を押すということは、子供を一人死地へ送ることと同義となる。
合理的じゃない。
そう思った。
それでも背中を押してやろうと思ったのはきっと――
「似てるからかなぁ…」
紙を手に取り立ち上がると、隣で作業をしていた水野先生が話しかけてくる。
「楠乃先生?どこに行くんですか?」
「あー、俺ちょっと用事あるんで、作業は戻ってやります」
そう言いつつ職員室から出た。
そして、推薦者の名前をもう一度確認し心の中で呟く。
(あの賀茂憲明が推薦人…ね。東雲、気張れよ。俺の貯金のためにも)
職を失う危険があるにも関わらず、不思議と楽しさを感じていた。
1章『偽りの果てに』 完
※一応クラス順位の詳細
〈クラス対抗戦 結果〉
〇クラス順位
((生徒の障壁破壊のPtの合計 + 終了時点での障壁保有者×1pt)- ペナルティ)
1位 1組 24
2位 2組 18(23)
3位 3組 6(11)
個人順位 (破壊pt + 戦術・知識・戦闘・戦略の合計点(最大20点分))
1位 天宮紗優 35
2位 東雲 凪 33
3位 沼津健二・風見辰馬・明石 徹 19
4位 天宮結乃・彩霞 唯 18
5位 白井里香 16
あとがき
無事に1章『偽りの果てに』が終わりました。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
1章は主に、凪の現状、心情をメインに書きました。そのため、かなり静かなストーリーになっていたと思います。
これから始まる2章は動き出す章になります。
3章(第一部の最終章)に向けて段階的に盛り上がりを見せていきますので、楽しみにしておいてください。
これからも『かつて存在した英雄たちへ』をよろしくお願いします。




