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かつて存在した英雄たちへ ―継がれた意思の行方―  作者: Oとうふ
クラス対抗戦編

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19/50

偽装

「足止め…ですか。貴方には少し…いや、かなり荷が重いと思いますよ。篠原さん、榊原君、確実に倒したいので、一緒に行きましょう」

「ん?…わかった」

「了解」


 剣と銃をそれぞれの手に握った紗優は、榊原と篠原という名前の生徒を引き連れて距離を詰めてくる。

 天宮紗優とはそこまで付き合いが長いわけじゃないが、どこか違和感を感じる。

 なんだ…以前対峙したときは何か違――


「あ…」


 思わず声を出しそうになるも、即座に言葉を飲み込む。

 なるほど…確かにその容姿は武器だな。

 と、なれば後はタイミングだけか。

 目視で紗優との間の距離を測り、ベストな距離感になったと同時に声を出す。

 

「一つ、聞いてもいいか?」


 表情一つ変えずに紗優は返答した。


「はい」


 決めるなら、一度切りだ。

 

「……この茶番って、いつまで続くんだ?」

「「?」」


 俺の発言の内容が分からない様子の篠原と榊原は、困惑の表情を浮かべたまま紗優へ視線を向ける。

 俺の恥ずかしい勘違いじゃなければ、この言葉が合図になる。

 次の瞬間――


「安心してください。茶番はもうお終いです」

「っ!『光蛇こうじゃ』」


 咄嗟の判断でここまで動けるのは少し予想外だったが、問題はない。

 スキルであろう、薄っすらと光り輝く蛇の形をした何かは、紗優に飛び掛かろうとするも、それより早く彼女の剣が榊原の障壁を砕く。


「っ!」


 篠原が一歩遅れて、剣を抜いた。


「っと。そのための距離詰めだろ?」

「えっ?きゃ!」


 剣が紗優に振り下ろされる前に、篠原の剣を受け止める。

 そして、そのまま刀の角度を変え、流れるように篠原の障壁を砕く。

 

「な…んで?」

「どういう…ことなんだ?」


 困惑の表情を隠せない様子の二人を見ていると、ふと1組の背後から声が響く。


「そこにいる天宮紗優は偽物だった。ということですよ」


 その声の主である少女は、どこか楽しそうに俺たちを見つめ、歩んできていた。

 俺の近くにいる紗優…いや、結乃と瓜二つの容姿をした女子生徒なんて、この学園にたった一人だけだ。

 

「…本物の天宮紗優ラスボス登場か」


 そう言うと、紗優は首をほんのわずかに傾げつつ、微笑んだ。


「ラスボス、ですか。それは私を過大評価しすぎですよ。東雲君」

「紗優、私が相手です」

「……」


 俺の前に立った結乃と紗優の視線が交差する。

 どことなく、紗優の瞳が揺らいだように見える。

 今状況で考えることではないかもしれないが、この二人…何か――


「盛り上がっているところ悪いけど、私たちも混ぜてくれないかな?」

「おや…彩霞さん、それに3組のみなさん。奇遇ですね…いや、仕組まれていたというのが正しいのでしょうか?」


 突然現れた彩霞達3組を見た後、紗優と目が合った。

 どうやら、木を豪快に振り回したあの行動の本当の目的に勘づいたらしい。


「そうですね…ここで乱闘をしても良いのですが、それだとあまり楽しめません…。なので、それぞれのクラスの代表で決着を付けませんか?もちろん、代表以外の生徒は自由に乱闘してくれて構いません」


 紗優の提案は完全に自己中心的なものだった。

 自身が楽しめればいい、それを隠すつもりを一切感じない。


「いいね。そうしよっか」


 彩霞は乗り気に返事をした。

 妥当な判断だな…。

 一見、紗優にしかメリットのない提案に見えるが、実は違う。

 クラスの代表を一人選んだ場合、2組からはリーダーである結乃が確実に選ばれる。

 そうすると、この場にいる2組は俺1人だけだ。

 1組はおよそ6人、3組は3人、圧倒的不利を押し付けられる状況になる。

 紗優と彩霞にしてみれば厄介な俺を消せる絶好の機会だ。

 かといって、この場でその提案を俺個人…いや、圧倒的少数の2組が一方的に蹴ることはできない。

 チェスの時と言い、これはもう……


「読まれてたな…」

「ふふっ」


 紗優に視線を向けると、彼女は楽し気に微笑む。

 一歩先を行ってると錯覚していたが、俺はずっと彼女の一歩後ろを歩んでいたらしい。

 

「決まり、でいいですか?」


 紗優の言葉を聞いた結乃は、静かに俺の目を見つめる。


「大丈夫、ですか?」

「大丈夫ではない。でもやるしかないんだろ?」

「そうですが…」

「本当に大丈夫だ。とっておきの作戦がある」

「…本当ですか?」

「もちろん」


 俺から視線を外し、結乃は紗優に対して言った。


「わかりました。その提案に乗りましょう」





 簡潔にいうと、俺は逃げた。

 結乃たちが移動する中、あの場所から一人走って逃げだした。

 もちろんすぐに逃げたことはバレたが、途中から木から木へ飛び移り、巧妙に足音と足跡を隠した。

 その甲斐あってか、追手を撒けたみたいだ。


「はぁ……」


 ようやく忍者のような行動の必要がなくなり、一息つく。


「誰が真面目に戦うか。あんなのイジメみたいなものだろ…」


 愚痴っていてもしょうがないのは百も承知だが、言わずにはいられなかった。 

 

「貴方はそういう自己評価なんですね」

「は?」


 背後から聞き覚えのない女子の声が聞こえ、咄嗟に刀を手に警戒する。

 

「次から…次へと……、誰だ?」

「話すのは初めてだね」


 薄っすら赤みがかった茶髪を耳にかけつつ、人当たりの良い笑みを浮かべている女子生徒。

 クラス対抗戦が始まる前、結乃の口から聞いてはいた。


「白井里香…さん」

「えぇー知ってくれてたんだ。嬉しいな」

「……」


 計算されたかのような声のトーンに、冷たさと警戒の色が消えてない瞳。

 『祝福』のおかげで鋭くなった五感のせいで、嫌というほど細かい部分に意識が向いてしまう。

 

「…それはこの学校での白井さんの役割なんですか?」


 ほんの数秒固まった後、白井さんの雰囲気が一変した。


「……失礼しました。知っていたんですね」


 どこか結乃の彷彿とさせるような無機質な声だった。

 おそらくこれが、本来の白井里香なのだろう。


「ならば話が早いです。東雲凪、私と一戦お願いします」

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